紙づまり
放課後の校舎。PC室の前、誰もいない。
(いまのうちに見出しだけ印刷しとこ)
A3の用紙をセット、タイトルは「日常のミクロ展」。
余白は20mm。文字は左寄せ。——Enter。
……ガガッ。
私「え、うそ」
画面:紙づまりです。
トレイを引く。紙の角が中で曲がってる。
(やだ、ここで詰むの?)
レバーが多い。どれが正解かわからない。
篠原「貸して」
背後から、落ち着いた声。
振り向くと、篠原くん。
(偶然……だよね?)
彼は説明を見ないで、青いレバーを二つ外して、詰まった紙を角からまっすぐ抜いた。
篠原「トナー、薄いけど予備ある?」
私「……たぶん、うしろの棚」
無言で交換。
篠原「もう一回」
Enter。今度はスルッと出る。
私「ありがと」
篠原「ん」
私「今日は助けてもらってばっかりだね」
嬉しくて、思わず普通の友達みたいな笑顔を向けてしまった。
「……っ」
何も言わず、目をそらされてしまった。
(失敗したかな……慣れ慣れしすぎた?)
切り出し台で切りそろえる。篠原くんがじっと私の手元を見てる。
(緊張で手が震えるやつ)
篠原「定規、紙の内側に置くといいよ」
私「……内側?」
篠原「刃が外に出ても、余白が死なない」
私「なるほど……」
言われた通りに置くと、スッとまっすぐ切れた。
私「ほんとだ。篠原くん、すごいね」
感心してつぶやく。
篠原「いや……まぁ」
照れてるのか、首に手を当てて目をそらす篠原くん。
篠原「見出し、左寄せ?」
私「うん。真ん中だと看板っぽいから」
篠原「了解」
二人で黙々と切る。音はシャッ、シャッ。
(静かだけど、焦らない空気)
全部切り終えたところで、私は小さく息を吐いた。
私「これ、廊下側の一枚目ね」
篠原「持ちます。——行こう」
廊下に出ると、夕方の色。
貼り込み開始。
一枚目、ぴしっと決まった。
二枚目——わずかに傾いた。
(やばい、曲がってる)
直そうと手を伸ばした瞬間、彼の手が先にテープの耳をつまんで、音もなく貼り直した。
私「ごめん、ありがとう」
篠原「ん。この位置だと貼りづらいでしょ」
そう言ったあと、高めの位置の貼り込みを引き受けてくれた。
(ちょっと好き)
私「ありがと」
今日、何回目かのありがとう。
篠原「大丈夫。佐伯を助けるのが俺の趣味なんで」
なんて冗談を真顔で言う篠原くん。
(心臓に悪いから、そういう冗談やめて)
三枚目まで貼り終えて、私はテープの芯を小さくたたむ。
(これで明日、並べ替えだけ。間に合う)




