5話 これ、フラグじゃね?
とは言ったものの。
フラグって、良く分かってないのねん。
聞いたことがあるので、カッコつけてみした。
てへ。
意味ありげに立ち去ったラウノ君。
居なくなってしまった。
もう、一週間は逢ってない。
とーちゃんに聞いてみたら、どうしたんだろうねえ?と暗い顔をされた。
…何か知ってるんですか?
日本に無事に帰ったのなら良いけのだけれど。
にーちゃんの物語は、あたしを殺すことで、動き出す。
にーちゃんの物語は、ちゃんと終結するのだろうか?
にーちゃんは三十日の長期のお休みで、子供部屋で宿題をしながら、わたしの子守りです。
常春のこの世界の学校は、九十日毎に三十日のお休みとなるらしいです。
その代わりに九十日はお休み無しで、一日四時間程度の授業が毎日あるそうです。
ゆとりなんだか、詰め込みなんだか分からない授業内容です。
書庫にある本を、日本語に書き起こすってのを日課にしていたのだけど、にーちゃんの前では流石に出来ないので、本は読むだけにしています。
相も変わらず惰眠を貪り、ラジオ体操に勤しんでいます。
「なに?それ」
吹き出すのを堪えるようにして、にーちゃんに尋ねられる。
「うんどうです。くっちゃねはでぶのもとですから!」
にーちゃん、きょとんとしてますね。
やー、これ以上は聞かないようにしてくれ給え。
あたしも説明のしようがない。
どうしようもない子を見る労るような、優しい微笑みにどきっとする。
どきどきする。
………どきどきする。
………………どきどき……………する。
残念ながら、この世界に魔法は無かった。
折角のゲーム世界なのに、と思うが無いものは仕方ない。
文明は不便でない程度に発達している。
テレビやパソコンこそ無いけれど、電気や電話がある。
自動車もあった。
クラシックカーて言うのかな?
動かし方はMTみたいだ。
エンジンも外掛けじゃない。
AT免許しか持っていなかった、あたしが言うのもなんだけれど。
街並みは、キレイな大正時代っぽい。
映画に出てくるより、キレイな感じ。
石や煉瓦造りの建物が並んでいて、路面電車が走っている。
絶妙に有り得ないこと、が混ざり合っている。
本当に創作物の世界なんだろうな、と実感する。
その上。
戦争、という概念が無かった。
そのせいか宗教がない。
逆かもしれないかど。
人が死んだら、焼いて灰にする。
お墓はなく、灰を自然に埋める。
輪廻も供養の概念も当然無いので、死んだらお仕舞い、それだけ。
かーちゃんの灰も、庭に埋められたらしいが、特別参る事もない。
結婚《《式》》も無いようだ。
結婚は役所に書類を提出するだけ。
ま、楽でいっか。
花嫁衣装は着てみたかった気もするけど。
ち、また着られないのか。
平和なのは喜ばしい。
けれども、人類の歴史に争いがないというのは、在り得ないことなんだろう、とは思う。
戦争によって発展するものもあるのが、悲しいけど世の常だ。
だから、実は平和って想像の中でしかありえないのかな、と悲しく思った。
思っただけだけど。
あたしゃ今、この世界では三才児だ。
偉そうに哲学ぶっても、机上の空論なんだ、
不思議と享年プラス今の年齢という意識はなかった。
前の年齢は享年で止まったまま、今の人生を上書きしている。
物語を読んでる感覚なのかも知れない。
入り込んでいるけど、何処か他人。
尤も違う意味で忘れていることも沢山有りはするけれども。
いつかは、帰らなきゃいけないんだろうか?
帰る?
――――ナンノタメニ?
帰る?
――――――ドコニ?
あたしは十三歳になった。
生前の記憶は、はっきりしっかりとある。
にーちゃんは二十歳だ。
今もキラキラエフェクトは仕事しいて、その美しさに拍車を掛けている。
にーちゃんは五年で学校を卒業していた。
あたし自身は危うく三年で卒業になりそうにだったのを、学生生活でしか学べない事かあるとかごねて五年掛けてみた。
一年かけてローマ字習得するて、どんなよ。
漢字も無いし、算数は四則演算だけだし。
戦争がないお蔭か外国語が存在しないし。
歴史や地理はそれなりには学ぶことがあったけれど、やっぱり戦争がないせいか繁雑さは無かった。
この先は研究院の扱いになるらしい。
五歳上の黒髪の少女が、金髪の少年に寄り添っていた。
同じクラスで短い間学ぶことがあったけれど、一言二言、挨拶を交わす程度でわたしは別のクラスへ移動した。
思えば、あれがヒロインだったのかしら?
不思議な魅力のある子だなと思った。
にーちゃんは狙われてないのかな?
金髪の男の子が、冷たい目をしてあたしを見てたのが印象的だった。
にーちゃんは、さらっさらの銀髪のままだ。
あたしは黒っぽい銀髪に黒っぽい緑の目。
ん。取り敢えずは美人の部類、のはず。
もうちょっとウエストは細い方があたしの好みだけど。
多くは望むまい。
良かった、良かった。
のか?
如何せんゲーム自体の知識が全くない、あたしには知りようもないことだ。
卒業後はにーちゃんととーちゃんの手伝いをしてる。
とーちゃんはいわゆる商社の社長だった。
社長て概念も無いんだけど。
この街の、衣食住を円滑に回している。
社長というよりは、市長とかに近いんじゃ?と思うけど、肩書きや階級はない。
貴族制度も存在していない。
どうやらこの世界の制作者は、徹底的に格差を無くしたいのかな?
あたしはただの、ちょっとだけ裕福なお嬢さんということだ。
とーちゃんの手伝いは楽しい。
目まぐるしい毎日に、生前にはなかった遣り甲斐を見出だしていた。
時折、にーちゃんの頭を抱き抱えながら髪に指を潜らす。
さらさらで柔らかい髪。
わたしはにーちゃんと呼び乍らも、セイレンを兄とは認識していなかった。
それが恋愛対象としてか?と問われると甚だ疑問はある。
もしかすると、物語の登場人物や、アイドルのような認識かもしれない。
生身の人間との恋愛は、禄な思い出がない。
何だったら、恐怖さえ感じる。
こうもあたしの意識がはっきりしていると、ミリアとセイレンの恋愛は、物語を読んでいる感覚に近くて、第三者として単純に応援したい気持ちもある。
けれども、あたし自身は今までこんなに他人から好意で構って貰ったことが乏しく、手放し難いのも事実だ。
構われたいのに、上手く甘えられない。
大抵の事は一人でしたし、一人で出来ない事はしなかった。
傷付くのも、傷付けられるのも嫌で、一人でいた。
だから。
こんなにも誰かに甘え、構われることができる幸せを、あたしは知らなかった。
とーちゃんの仕事を手伝う際に、名前の横にこそっと『美』と印す様にした。
偽造防止も兼ねて。
ミリアで『美』
造形的に格好良いのと、生前のあたしの名前にも使われていた、記号。
したら、にーちゃんには見付かった。
「これ、なに?」
サインだよ。マークかな?
「どんな意味があるの?」
わたしが書きましたて証拠だよ。
「そうじゃなくて、マーク自体の意味だよ」
ああ。美しい…と言おうとして、はっとした。
漢字の無い世界でそれ言うとナルシストっぽくないか?
ちょっとだけ考えて
羊が大きいと嬉しいのですと、答えた。
にーちゃんは目を点にしていたけど、
「ああ、ミリア文字だね」
って微笑った。
実は、書庫の本の漢字化計画は早々にばれていた。
書庫に籠ってがりがりと夢中になってノートを書いていたら、覗かれているのに気が付かなかった。
隠すのも何なので、ローマ字の羅列は分かりにくいからって、象形所以の漢字を中心に、さも自分で思い付いたかのように教えた。
"木"とか、"川"とか。
木が囲まれると"困"るでしょとか。
ほら、似てるでしょ?て自慢気に。
そしたら、それをにーちゃんはミリア文字って面白がってくれた訳だ。
ごめんなさい。大昔から使われているモノで、わたしのオリジナルじゃないんですけど。
「でも、羊が大きくて嬉しいのが、何でミリアのマークなの?」
そうですよねぇ、分かります。
でもお願い、突っ込まないで。
内緒。
でも、二人だけの秘密だよってだけ返したら、髪の毛ぐしゃぐしゃされた。
あー楽しい。




