Oración──恒常性同化作用が導く不条理な終着点
「あのさ、もし、クリスと結婚する世界線があったら、お前さんは行きたいのか?」
いまだ俺の腹の上が動かない彼女に聞いてみる。
「えらいロマンチストですね。…て、あれ?夕べもそんな話しました?」
「したな。なんかさ、夢の中でクリスが結婚したんだよ」
「えー。それって、勢雄さんに結婚願望があるってことですか?それともするの?!」
すごい剣幕で顔が寄せられる。
「いや、どっちもない」
「間髪いれませんね。で?クリスは誰と結婚したんです?」
「……お前の、孫だよ」
「あたし、孫がいるの?!まだ処女なのに」
「……そういうことは言うもんじゃありません」
「へえ……孫って…いくつ違いなの?」
「二十七とか…」
言って、しくじったと思った。
案の定、
「うちらと一緒じゃないですか。へえ…良いなあ…その子に転生したら、勢雄さんのお声と結婚できるんですね」
「…したいのか?」
「いや、別に。勢雄さんのお声だけとか嫌ですよ。クリス様は好きだけど、勢雄さんがお声だから好きなんですもん」
「お前さんも、間髪いれないな。まあ、ありがとよ」
「信じてませんね!もう、このまま襲っちゃいますよ!」
俺の襟ぐりを掴んで、視線を合わせてくる。
夢で見た光景。
まるで、クリスをなぞるようで気持ち悪い。
あいつは、どうしてたっけ?
「やんねーよ」
芝居がかった声を出す。
遊びの延長にしてしまおう。
「ですよねー」
そう言って、彼女は俺の胸に頭を落とす。
「その子、どうやって落としたんだろう。不思議」
「今のお前とおんなじことやってたぞ?」
「え?じゃあ、このまま続けてたら勢雄さんも落ちるってこと?」
「それはないな。俺はクリスじゃない」
すると、彼女はまた俺に唇を落としてきて、
「知ってます。──あたし、初めては勢雄さんって決めてたって、言ったじゃないですか」
「飲み屋な。夕べ連れていったろ?」
見え透いた、はぐらかしだ。
「……ちぃ!引っ掛からないか。まあ、考えてみたら、着替えさせられて、半裸で何もなかったんだから、脈なんてあるわけも無いんですよねー」
ようやく、彼女は腹の上から降りて、ソファを背に床に座り込んだ。
「そんなところに座るんじゃありません」
俺は上体を起こして、ソファに座り直し、彼女の腕を引く。
「へっ…?」
素頓狂な声を上げる彼女を、後ろから腕を回して抱き込む。
「なあ…、大切なだけじゃ、ダメか?」
彼女の肩に頭を埋め、耳元で言葉を吐く。
我ながら理不尽な問い掛け。
「……仕方…ないな…」
彼女は絞り出すように、言って俺の腕にしがみついた。




