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──夜の帳が下りた街。
窓の外には、虫の点す灯りにも似た火が、辺りに漂っている。
その静寂に放たれた矢のような鋭い嘶き。
心臓の鼓動が胸の奥で低く響いた。
一歩、また一歩と未知の足音が近づいてくる。
そこに現れたのは、黒銀の髪を肩に揺らす男。
黒曜の石に彩られた装飾を襟にまとい、
緑の瞳をいたずらっぽく光らせている。
「……ここまで辿り着くとは、驚いたよ」
彼は名乗りを省き、ただゆらゆらと微笑んだ。
「ああ、自己紹介はいらない。君のことは全部知っている」
その瞬間、静かなピアノの旋律が、
壮大なオーケストラへと変調し空気を揺さぶった。
視界いっぱいに広がる白光の中、
六つの影が並び立つ。
サファイア
メノウ
シトリン
アメジスト
ガーネット
エメラルド
様々な装飾品に形を変え、
私の手に収まる。
その中心に、あり得ない存在感を纏う
――黒曜石の化身、クリストファー。
「彼ら全員と紡ぐ物語の先に、まだ見ぬ真実が待っている」
やわらかで、印象的な低い声が告げる。
そして目の前には、
淡く輝く《選ばれし者の証》が浮かび上がった。
・すべての顛末を受け止め、なお歩む者
・時の環に落ちた“欠片”を拾い集めし者
・語られぬ記憶に触れ、忘却の門を開きし者
「……さあ、行こうか。君の望む未来へ」
緑の瞳が真っ直ぐに射抜く。
白光が扉のように開き、
その先に新たな世界が広がっていた。
─────
「……さあ、行こうか。君の望む未来へ」
「どわあっ!びっくりした!耳元は卑怯です!」
「…お嬢ちゃん、ホントに好きな?それ」
「だって、勢雄さんですよ?!好きですよ!」
「……ま、いっか」
「で、勢雄さんはまた一人で寂しく談話室ですか」
「…お嬢ちゃんもだろ?」
「あたしにはクリス様がいます!」
「そ、そうか。じゃあ心配ないか。退院が決まったよ」
「…あ、そ、そうなんですね。これで、お仕事バリバリ出来ますね!何から始めるですか?アニメ?ゲーム?それともお芝居?テレビとか?映画とか?あ、ハリウッドとか?」
「……泣きながら言ってんじゃねーよ…」
──────
祝福の、鐘が鳴る。
祝福の、花が舞う。
祝福の、鳥が飛ぶ。
祝福の…、
…祝福の…、
───祝福…。
「なんて顔してんだ」
「別に、何でもないですよ」
「折角の晴れの日だって云うのに、仏頂面はよせ」
「泣くの堪えてるだけです。お化粧剥げちゃう」
「泣きたいのか?」
「ダメですか?」
「いや、別に」
いつもの軽口。
いつもの笑顔。
そう、いつもの。
今日は、私の結婚式だ。
幸せ、だ。
「じゃあ、後でな」
そう言って、扉を出ていく勢雄さん。
思えば、長い付き合いになったな。
あれから───
退院したら、直ぐに夏休みになって。
遅れた勉強を取り戻すのは、至難の業だった。
夏休みは補修で終わった。
でも、それからは高校生活はそれなりに楽しくて。
あっという間に大学に行って。
勢雄さんの舞台やら観に行って。
ゲーム屋さんの伝手で、入社して。
時々、勢雄さんと仕事して。
ご飯行って。
そっか…十年か…
「それにしても、芸能人と知り合いなんて、びっくりしたよ」
私の隣で、微笑む彼。
「スゴいでしょ?」
無理矢理、微笑む私。
────初恋は、厳重に蓋をして、
でも、キレイなリボンを掛けて、
胸の奥に仕舞っておこう。
そう決めたのに、笑うんじゃねえよ。
挫けそうになるじゃん。
……ばーか。




