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当世流行りの異世界顛末生  作者: 有城 沙生
補綴 余人安生諸順(ほてつ よにんのあんじょうしょじゅん)
34/41

その中の異世顛末生~志山風花◆1

深い、えも知らない悲しみ。

絶望……何だ、これ?

突然、なだれ込む、私のものではない感情。


目の前のベッドに、横たわる女性。

条件反射で、女性に駆け寄り頸動脈に触れる。

目にはいる、小さな手。

……。


脈、無し。

胸の動き、呼吸、無し。

ペンライトを探すが、私の服じゃない。

虚ろな瞳が映す少年。

位置的に、私。


大量出血による窒息死。

今回は間に合わなかったか…

女性の目蓋を伏せ、手を合わせる。


改めて、窓に映る自分を見る。

誰だろう、───ラウノ?誰?

部屋を見回しても、まるで見覚えがない。

私の部屋ではないことは確か。


棚に申し訳程度に置いてある本の背表紙には、筆記体の文字。

英語でも、ドイツ語でもない──I.R.O.H.A……ローマ字?


裕福とは言いがたいが、埃が無い綺麗な部屋。

と、いうより絵のような質感。

夢?にしては、変な実感。


《《母》》の遺体をどうしようか?


悲しいかな、職業病。

清拭をしなければと体が動く。


お湯を沸かすために台所にくると、…うっ!釜戸?

火、起こせるかな?無理そうだなー?

水でごめん。


ひとつしかない蛇口を捻ると、まさかのお湯だった。

どういうこと?

…ま、お湯は確保。

作業をするのに、少し熱い。

薄める水はなさそうなので、バケツ…というかその場にあった桶に、お湯を溜める。


タオルを探すために、家捜し。

うー、ごめんなさい。

キレイにするから、許してね。


浴室発見。

上質とはいえないけど、清潔なタオル。

あるだけ持ってベッドの脇に置いて、桶を取りに行く。

よかった、シーツも発見する。さて。


女性の口の中から、血の塊を取り除いて吐き出した血を拭う。

血…の筈なのに、鉄の臭いがしない。

夢、なんだろうな。


淡々と手を動かしながら、何で私は折角の休みに遊びに行ったゲームイベントで、声優さんの応急措置をしたり、夢の中でまでエンゼルケアしたり、してるんだろう…と、考えていた。


にしても、いつもと違う自分の体の大きさに、調子が掴めない。

ご遺体を動かして、シーツを替えるのに息が上がる。

…っ!やれる!大丈夫!

両手で頬を叩いて、気合いを入れる。


……いつもの三倍は掛かっちゃったな。

清拭を済ませて、椅子に腰かける。

…まず、着替えたいな。


すると、体が勝手に動く。

着替えを用意し、浴室に向かう。

私の意識ははっきりある。

けれど、意識しない行動をする体。

明晰夢ってやつなのかね?


浴室に入ると、シャワーがあった。

湯船は無い。

シャワーなんだ…どこまでも凝った夢だな。

バルブを緩めると、お湯。

ん。熱いよね、知ってた。

むしろ湯船に溜めたいくらいの熱さだけど、

自分の体に付いた、血を流す。

ついでに洗濯。

水の方が良いんだけどな。

桶につけ置くことにした。


ご遺体…どうしようか?

濡れた髪を乾かしながら台所に向かうと、四角い箱。

冷蔵庫かな?木製だけど。

開けると上の段に大きな氷。

……アイスボックスってやつかな?

……でも、冷気が出てる?電気のコードはないし、モーター音もしない。

………考えてもわかる気がしない。

下の段にある、お茶をいただく。

ミントティーだ……


とんとん。

「ラウノ?チィラいる?具合どう?」

ノックと共に入ってきたおばさん。

「ウーラさん…」

と、口からスッと出る名前。

知り合いなのかな?


ウーラさんは、母…チィラを見つけて無言になる。

「…お弔いをしなきゃね…」

良かった。この後の段取りを聞けるようだ。







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