その中の異世顛末生~志山風花◆1
深い、えも知らない悲しみ。
絶望……何だ、これ?
突然、なだれ込む、私のものではない感情。
目の前のベッドに、横たわる女性。
条件反射で、女性に駆け寄り頸動脈に触れる。
目にはいる、小さな手。
……。
脈、無し。
胸の動き、呼吸、無し。
ペンライトを探すが、私の服じゃない。
虚ろな瞳が映す少年。
位置的に、私。
大量出血による窒息死。
今回は間に合わなかったか…
女性の目蓋を伏せ、手を合わせる。
改めて、窓に映る自分を見る。
誰だろう、───ラウノ?誰?
部屋を見回しても、まるで見覚えがない。
私の部屋ではないことは確か。
棚に申し訳程度に置いてある本の背表紙には、筆記体の文字。
英語でも、ドイツ語でもない──I.R.O.H.A……ローマ字?
裕福とは言いがたいが、埃が無い綺麗な部屋。
と、いうより絵のような質感。
夢?にしては、変な実感。
《《母》》の遺体をどうしようか?
悲しいかな、職業病。
清拭をしなければと体が動く。
お湯を沸かすために台所にくると、…うっ!釜戸?
火、起こせるかな?無理そうだなー?
水でごめん。
ひとつしかない蛇口を捻ると、まさかのお湯だった。
どういうこと?
…ま、お湯は確保。
作業をするのに、少し熱い。
薄める水はなさそうなので、バケツ…というかその場にあった桶に、お湯を溜める。
タオルを探すために、家捜し。
うー、ごめんなさい。
キレイにするから、許してね。
浴室発見。
上質とはいえないけど、清潔なタオル。
あるだけ持ってベッドの脇に置いて、桶を取りに行く。
よかった、シーツも発見する。さて。
女性の口の中から、血の塊を取り除いて吐き出した血を拭う。
血…の筈なのに、鉄の臭いがしない。
夢、なんだろうな。
淡々と手を動かしながら、何で私は折角の休みに遊びに行ったゲームイベントで、声優さんの応急措置をしたり、夢の中でまでエンゼルケアしたり、してるんだろう…と、考えていた。
にしても、いつもと違う自分の体の大きさに、調子が掴めない。
ご遺体を動かして、シーツを替えるのに息が上がる。
…っ!やれる!大丈夫!
両手で頬を叩いて、気合いを入れる。
……いつもの三倍は掛かっちゃったな。
清拭を済ませて、椅子に腰かける。
…まず、着替えたいな。
すると、体が勝手に動く。
着替えを用意し、浴室に向かう。
私の意識ははっきりある。
けれど、意識しない行動をする体。
明晰夢ってやつなのかね?
浴室に入ると、シャワーがあった。
湯船は無い。
シャワーなんだ…どこまでも凝った夢だな。
バルブを緩めると、お湯。
ん。熱いよね、知ってた。
むしろ湯船に溜めたいくらいの熱さだけど、
自分の体に付いた、血を流す。
ついでに洗濯。
水の方が良いんだけどな。
桶につけ置くことにした。
ご遺体…どうしようか?
濡れた髪を乾かしながら台所に向かうと、四角い箱。
冷蔵庫かな?木製だけど。
開けると上の段に大きな氷。
……アイスボックスってやつかな?
……でも、冷気が出てる?電気のコードはないし、モーター音もしない。
………考えてもわかる気がしない。
下の段にある、お茶をいただく。
ミントティーだ……
とんとん。
「ラウノ?チィラいる?具合どう?」
ノックと共に入ってきたおばさん。
「ウーラさん…」
と、口からスッと出る名前。
知り合いなのかな?
ウーラさんは、母…チィラを見つけて無言になる。
「…お弔いをしなきゃね…」
良かった。この後の段取りを聞けるようだ。




