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当世流行りの異世界顛末生  作者: 有城 沙生
alfiksita 御破算顛末断(ごわさんてんまつだん)──もしくは、男達の記憶
17/41

1話 月朔

むせ返るような花の臭い。

空々しいシュクフク。

何となく見覚えのあるスチル。

居心地の悪い、足場。


 ああ、知ってる。

 この間撮った、何とかってゲームだ。

 何だって、俺はこんな夢を見てるんだ?

 入院なんてしたからか。

 普段は仕事の夢なんざ、見やしないのに。

 見や…してたのはいつの事か。

 俺は、いつからこなすだけの仕事をするようになったのか。

 夢?あった気もする。

 何だったけ…


 ああ、そうだ。

 役者になりたかった。

 舞台でも、映画でもいい。

 重厚な、存在感のあるそんな役者。

 食うために始めた声優で、うっかり人気なんか出てしまって、抜け出せなくなって。

 ちやほやされて、舞い上がって。

 でも、芝居は芝居。

 それなりに楽しんだが、熱は覚めた。


 チマチマと貯めた金が、そこそこの額になり、ちょっと休むかと、セーブしながら仕事してたら、あっという間に十年経っていた。

 何とかなるもんだな?と、思ったが、流石に金は尽きるし、お子さま向けの番組を見ていたやつらはいい年になり、俺を引っ張り出したがる。

 で、何で女子供のオモチャの仕事なんだよ。

 溜め息しか出ないが、金払いはいい。

 仕事だ、仕事。


 と、割りきろうとしていたが、気持ちは割りきれてなかったらしい。

 最近は何だな。

 芝居だけじゃなくて、イベントやらにも引っ張り出される。

 芝居をしない空間に、押し出される苦痛。

 そりゃ、倒れもするってもんだ。


 胃潰瘍、だと。

 ぽっかりと穴が胃に開いた。

 酒?タバコ?悪いか。


 イベント会場で気を失って、

 目覚めたら、シラナイ天井ってやつだ。

 年は取りたくないねー。


「[[rb:勢雄 祥匡 > せお よしまさ]]さん?」

 病院で喫煙室を探してうろうろしてたら、談話室があった、が禁煙。

 ったくよ。

 見れば…中学生か?

 あの、何とか言うゲームの影響か?

 ?


「あ、あたし、『だいこうかいものがたり』のキャプテンが大好きなんですぅ…」

 と、キラキラした目で言いやがる。

 ん?でも、

「お嬢ちゃん、生まれる前だろ?あれ」

 俺が日銭欲しさに初めて演った吹き替え。

 三十年は前だぞ?もっとかも知らんが。

 聞けば、母親の影響だと。

 いろいろ捲し立てられたが、半分以上聞き流してしまった。


「イベントで倒れられたのですよね。すいません、長話してしまって。クリス様も大好きです!」

 と、言うと彼女は器用に車イスを回して出ていった。

 ああ、何とか云うゲームキャラ、クリスって、言ったっけ?

 チャラチャラした、灰色の頭した男。

 二人も子供がいる男を恋愛対象にするとか、世の中わからんわ。

 

 ……タバコ吸いてえ…

「ダメですよ?」

 声にしてたのか?回診のナース…て、言っちゃいかんのか、めんどくせぇ。

 看護師が言う。

「お仕事的にも、タバコは良くないと思いますけど?」

 しゃらくせぇ。

「そうですけどね、止められなくて」

 営業用の顔で答えると、看護師は吹き出した。

「胃潰瘍で入院してるんですから、ストレス溜めるようなコトしなくていいですよ」

 見透かされていたらしい。

 

「入院とか、退屈極まりないな」

「ゲームでもします?【デイムメイカー】とか」

「なんだそりゃ?」

「……ご自分が出演されてたゲームですよ。そのイベントで倒れたんじゃないですか」

「だっけ?」

 看護師が大きく溜め息をついた。

「いろいろあるとは思いますけどね……ご自愛ください」

 そう言うと、病室から出ていった。


 【デイムメイカー】……ねえ?

 とは言え、俺はちょい役だ。

 個別で録音するゲームじゃ、全体の話なんざ、把握出来るかってんだ。

 俺がゲームの録音に偏見があるのはこの辺だ。

 言葉だけを話す。

 そこにある感情は、芝居は、果たしてホンモノなのか?

 それにしても、腹へった。

 タバコ吸いてえ。

 酒、呑みてえ。



「クリス様の子供は一人ですよ?」

 件の中学生…と思ったら、高校生だった。

 杉田 弥依(みい)と言うらしい。

 談話室でちょいちょい会うようになって、暇潰しに話すようになっていた。

 

 なんでも、入学式の朝に骨折して入院したらしい。

 気の毒なこって。

 その上、還暦近いオッサンの相手までしてくれるとは。


「?チャラチャラした灰色の髪の兄貴と、出来のいい妹じゃなかったか?」

 設定くらいは知ってるぞ?

 記憶の彼方だが。

 呆気にとられてる?と、廊下に向かって嬢ちゃんが声をあげる。

「それ…あ!志山さん!!良いところに!!」

 と、看護師を呼び止める。

「杉田さん、院内ではお静かに…と、勢雄さん?どっちがナンパしたの?」

「あたし。や、それより、勢雄さん、おかしい!」

 なんだと?

「杉田さん、目上の方に失礼ですよ?」

「だって!クリス様に子供が二人って!セイレン様を銀髪って!!」

 看護師と小娘は異なものを見る目で俺を見る。

「なんか、違ったか?直近の仕事はそれしかしてないから、確かだと思うが?」


「ゲームでのセイレン様は、赤い髪です」

 ?ああ、そうか。

 キャラ表はそうだっけ。

 でも、灰色ってか、白い頭の方がしっくりしてる。

「分岐とか、別シナリオとかじゃねえの?

 あったっけ?声なしかも知れんし」


「それ…別シナリオって言うか…」

 小娘が言う。

「別世界…」

 看護師が言う。


 なに言ってるんだ?


 

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