表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

最終話:あなたが泣いたあの日から、私の世界は変わりはじめていた

王宮の中庭で、アメリアはひとり花の手入れをしていた。


季節は少しずつ春へと移り変わり、温室の花々もつぼみを膨らませ始めている。


彼女の顔には、以前のような険しさも、恐れもなかった。


穏やかで、どこか柔らかい微笑。


そこに、王子レオナルトが歩み寄ってきた。


 


「……花の世話、続けていたんだな」


「はい。私、好きみたいです。毎日少しずつ変わっていくから……私もそうなりたくて」


「……少し、話をしてもいいか?」


 


ふたりは温室の中、静かに並んで腰掛ける。


ガラス越しの陽光が、やさしく差し込んでいた。


 


「記憶を失った理由、わかりました。ノアが……薬を使ったんですよね」


レオナルトは頷いた。


「……君の心を守るために。死を目前にした君に、せめてもの安らぎを与えたくて」


アメリアは静かに目を伏せた。


「私は……本当にひどいことをしてきたんですね。たくさんの人を傷つけて、それを正当化して……」


「でも今の君は、それを悔いている。変わろうとしている。

それは、偽りじゃないと……私は思いたい」


 


レオナルトの言葉に、アメリアの目がわずかに潤んだ。


 


「ありがとう。……でも、それでも私は、全部忘れたまま許されるわけにはいかないと思う。

だから、記憶が戻ったとしても──もう“あの頃の私”には戻らない。

……私は、私のまま、生きていきたい」


 


そう言って、彼女は小さな花を指差した。


 


「この花の名前、ノアに教えてもらいました。“フィオリーナ”。“赦し”の花なんだって」


「……君に、似合っている」


 


そのとき、レオナルトがふっと立ち上がり、まっすぐに彼女へ向き直った。


 


「アメリア・ヴェルンシュタイン。

私は、君の過去を赦すことはできない。君が傷つけた人たちがいる限り、それは消えない」


「……はい」


「だが、私は“今の君”を信じたい。

そして、君が選ぶ未来を、支えたいと思っている」


 


アメリアの目が、見開かれる。


「……それって……」


「君に、もう一度“選ぶ権利”を返したい。

君が誰かに愛され、誰かを愛し、君自身として生きる道を」


 


アメリアの目に、涙がにじむ。


けれど、それはかつての絶望の涙ではなかった。


 


「ありがとう……。でも、今の私はまだ、誰かに愛されるには、足りないままだから。

まずは、自分のことをちゃんと好きになれるように、頑張ってみます」


「そのときは、また会おう」


「ええ。次は、胸を張って」


 


ふたりは、そっと微笑み合った。


陽光の中、赦しの花がそよ風に揺れている。


 


かつて“悪役”と呼ばれた少女は、

今、新しい人生を一歩ずつ踏み出していた。


 


──これは、記憶を失って初めて「本当の自分」に出会った、

とある少女の、再出発の物語。


 


「あなたが泣いたあの日から、私の世界は変わりはじめた」


 


──完──



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


『悪役令嬢、記憶を失ってからが本番です』というこの物語は、

「悪役」として生きることを強いられた少女が、

“真の自分”を見つけ、過去と向き合いながら変わっていく──そんな再生の物語として書かせていただきました。


記憶喪失という設定は王道ですが、

その「理由」が“誰かの優しさ”から生まれたものだったというところに、

小さな希望を込めたつもりです。


また、“誰かを赦す”のではなく、“自分自身を赦す”ことの難しさと強さを、

主人公アメリアを通して少しでも感じていただけたなら、何より幸いです。


このまま続編も展開可能ですので、ご希望あればぜひお知らせください!


改めて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ