現状確認
えーと、参考文献です。
彼男本編、第二章、「貴族階級起訴講座 ミリアちゃんとオスカー父さん」及び「近衛騎士とは」
なるべく矛盾しないよう、頑張ってます。
講習生たちは呆然としていた。
五千年前に起きたという争い。そんな話、全くの初耳だ。嘘か真か、判断が付かない。
「お、おい、あれ」
一人が床を指差した。
惑星と言う名の巨大な球体。その輪郭の左側に黒い線が現れた。線は太くなり、影となって大地を侵食していく。
それはまるで呪いのようで。何が起きているのか、不気味でしかない。
「あれは夜だ」
あっさりと、教官役の騎士が言った。
「太陽に向いている面が昼、陰になっている部分が夜。夜と昼の境界線は、日の出と日没の場所だ」
昼と夜。それは時の移ろいを示す言葉で。こんな、両方同時に『見る』ものではなかった。
常識がガラガラと音を立てて崩れていく。
「こうして見下ろせば、国境など無に等しい。地上の権力争いがいかにちっぽけか、感覚的に分かりそうなものなんだがな」
確かに。これこそ神の視点と言う奴なんだろう。地図の上に引かれた国境線なんて、どこにも見当たらない。
これが世界か。
「だが、残念なことに人間と言うやつは争いをやめられない生き物だ。天津箱舟も例外ではなかった」
はて。
スウェン・カスターは違和感を抑えられず、口にしていた。
「教官殿。天津箱舟は天津神が乗って来られたのでは。神々の世界は人と違わないのですか」
教官がフッと笑った。
「言っただろう。この惑星に生命は無かった。地上で生きる全ての人が、天津箱舟の乗員の子孫だ。天津神と言うのは御伽噺。天津箱舟の実在を誤魔化すための方便に過ぎない」
常識の崩壊は、まだまだ序の口らしかった。
二つの恒星が、共通の重点を中心に互いの周りを公転する。いわゆる連星だ。
その片方に星としての寿命がきた。
質量不足のため、ブラックホールはおろか中性子性にもなれず、小ぶりな白色矮星が残された。
白色矮星の周りには、大規模な小惑星帯があった。
どんな重力バランスが働いたのか、それとも人工物なのか。それは卵の殻のように成長して、白色矮星を覆い隠した。
ダイソン球の誕生である。
ダイソン球の内側は、白色矮星から放たれる不安定な熱量と放射線の影響で、生存には適さない環境だった。
外側には、元々の連星の片方が唯一の太陽として残っている。その周りをダイソン球は公転していた。
馬鹿でかくはあるけれど、太陽と大地があるなら、普通に惑星と見なせるのではないか。
このままあてどなく宇宙を放浪するより、大地の上て暮らしたい。
そう望む一派が支持を集めたのは、自然な成り行きだった。
「天津箱舟に蓄えられた知識の中には、ダイソン球に入植した実例は記録されていなかった。何しろ中空の天体だ。少しでも重力バランスが崩れたら大惨事になる。どんな天災が想定されるかも分からない。生命の無い惑星に一から生態系を構築するとなると、数世代、悪くすれば半永久的に足止めされることになる。天津箱船の船長は、リスクが大きすぎると判断した」
ダイソン球から離脱しようとする船長以下乗組員。地上に降りて入植しようとする恒星間移民団の乗客たち。
どちらの派閥も一枚岩とは言い難く、色々な思惑が交差し、テロ事件が起きた。
「狙いは天津箱舟の足止めだった。推進機関と生命維持機関の一部が破壊された。生き延びるためには地上に降りるしかなかった」
離脱派は、一時避難のつもりだった。修理を終えたら旅立てると。ところが。
最悪の事態が発覚した。乗員登録施設が破壊されていた。現役の乗組員が引退してしまったら、それで終わりという事態に追い込まれた。
正規の乗組員が居なければ、天津箱舟は新しい指示を受け付けなくなる。
「生存に必要な物資と施設を、天津箱舟から持ち出せるだけ地上に下ろし、最後の指令としてダイソン球、いや、この惑星の生態系構築と生存圏確保を命じた。それから五千年間、天津箱舟は月として上空でテラフォーミングを続けている」
淡々とした教官の説明に、全員が目を剥いた。
月って。あの月のことですか。テラフォーミングって何。理解が追い付きませんよっ。
いやー、SFの薀蓄は書いてて楽しいです。
ダイソン球の一歩手前、リングワールドという古典SF、大好きでした。
もう一話あたりで完結できるかな。一月中に終われるよう、頑張ります。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。