講習会
明けましておめでとうございます。
案の定、短編では終わりませんでした。中編になります。
去年の正月特番「公爵令嬢と王太子殿下と聖女様 見守る私は侍女でございます」の続編になりました。お楽しみいただければ幸いです。
デパ国、正式名称デルスパニア王国において、近衛騎士は特別な地位だ。
全員が公爵家と侯爵家の出身、つまりは王位継承権保持者。
国王の側近中の側近であり、実家の権力と合わせてエリート中のエリート、だったのだが。
時代は変わる。
その日、王城の一室に集められた若手の近衛騎士たちは、全員が騎士爵だった。
騎士爵は名前だけの爵位だ。一代限りの下位貴族で、子の代からは平民になる。
法的特権は皆無。周囲から一目置かれはするが、正式な爵位持ちとは見なされず、はっきり言って平民と大差無い。
「よし、全員そろったな。着席せよ」
ドアを開けた途端声を掛けられて、スウェン・カスターは遅刻したかと焦った。ちらりと壁を見やれば、時計は定時十分前を示している。
良かった。間に合った。
「早速、座学を始める。王族警護に必要な知識を詰め込むが、国家機密、特に王家の秘匿事項が含まれる。守秘義務は重い。聞いたが最後だと言っておく」
そう宣言したのは、ベテラン近衛騎士。公爵家出身で、本物のエリートだ。スウェンのような「俄か」とは違う。
「今ならまだ引き返せる。辞退しても何ら不利な扱いにはならないと保証する。たとえ妻子を人質に取られても情報を漏らさない覚悟の有る者だけ、残れ」
近衛騎士とは名ばかりで、王城、時には貴族街の警備に駆り出される立場。そこから抜け出せるチャンスをようやく掴んだのだ。脅されたところで、尻尾を巻く気はない。
王族警護の任に就けるようになれば、彼女の家へ正式に婚約を申し込める。
ちらりと脳裏を横切った恋人の顔を振り切って、スウェンは前を向いていた。
「よし。辞退者は居ないな。ではまず、基本からだ」
デパ国の世襲を許された爵位は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵まで。伯爵から上が上位貴族、子爵と男爵は中位貴族と呼ばれる。
その下の騎士爵と準男爵は下位貴族。
下位貴族に成るのは、家督を継げない貴族の子弟と、功績を上げた平民。
功績の基準は法律でしっかり定められている。覆すには、国王陛下の勅命が無ければ無理だ。
貴族学園卒業が功績に加えられてからは、毎年かなりの数の平民が騎士爵に叙されるようになっている。
「ここには、平民からの成り上がりが居る。だが、騎士爵を賜り苗字を名乗った以上、貴族出身者と立場は同じだ。引け目を感じる必要は無い。同じく、王族警護の任を賜れば一人前の正騎士だ。近衛騎士として上下は無くなる」
誰かの喉がヒュッと鳴った。
近衛騎士は国王陛下の私兵であり、王族の警護を任務とする。
国軍とは全くの別組織ゆえに、王族以外の命令は受け付けない。それだけではない。緊急時には護衛対象の代理を務める権限を持つ。
当然、見合うだけの頭脳が必須だ。
それだけの立場に、平民出身者が成るなど不可能としか思えない。
「何を呆けている。卿らは既に近衛騎士だ。この講習を修了すれば古株連中と同僚になる。言っておくが、出身がどうのこうのと論う者は古株に居ないぞ。その必要が無いからな」
スウェン・カスターは家から独立して騎士爵になるまで、カスター伯爵家の次男だった。その頃に戻ったところで、本物の近衛騎士の皆様とは格が違い過ぎて、歯牙にもかけてもらえなくて当たり前だ。
卑下しているわけじゃない。単なる事実だ。
なのに同僚と言われるなんて。今更ながらに違和感が押し寄せてきた。
「肚をくくれ。辞退は受け付けない。その段階は過ぎた。これから近衛騎士の真実を伝える。我らは天津箱舟の乗組員。星の海を旅する宇宙船の操縦技術を伝える者。その存在を守る場所として王族の身辺を利用している」
…………は。
突然理解不能な言葉が降って来て、硬直してしまった。
天津箱舟って、子供でも知ってるおとぎ話だよな。いったい何を言われたんだ。
前々から書きたかった近衛騎士の設定の薀蓄話です。
ミリアちゃんを主人公にしようかと考えましたが、スウェン・カスター君に当事者として語ってもらうことにしました。
完結できるよう頑張ります。
お星さまとブックマーク、今年もよろしくお願いします。