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それから

 あれから五年が経った。


 オレたちは無事学校を卒業した。

 今は冒険者稼業を続けながら村も経営しているところだ。

 あの頃から住んでいる元開拓村の権利を手に入れたんだ(というのも放棄された開拓村の再開拓の権利は実質無料だからだ)。


 まあ、近頃は冒険者の方はあまりやってなくて、村の経営の方がメインだけど。

 村民絶賛募集中だ。


 一番順調にいってるのは牧場だ。

 森をどんどん切り開いてスペースを増やしているんだ。

 学生の頃から飼い始めた鶏はずいぶん増えて卵を出荷できるほどになった。


 森の中で捕まえた甲竜の飼育も始めた。

 地竜みたいに大きくなるようなら飼えないけど、こいつは甲竜の中でも小さい種類のやつで、成長しても牛よりちょっと大きいくらいだ。

 木の芽や葉っぱを食べてくれるし、なにより美味だ。

 動物たちの監視はマルに、怪我をした時の治療はハローに任せて、基本的に放し飼いだ。


 卵や肉は自分の家でも食べてるが、レストランでも出している。


 オレたちは学生の頃住んでいた寮を買い取って宿屋にした。

 ……最初は冒険者向けの宿屋を検討してたんだが、これはどうも上手くいきそうになかったので諦めた。

 場所も中途半端だし、それに冒険者相手には酒場と賭場がついてる売春宿でないと商売にならないそうなんだ。それはあまりにも風紀がよろしくない。


 結局ウェスタの中流層向けの隠れ家的宿屋を始めた。

 町の喧騒を離れ、自然に抱かれて眠る非日常の空間──とかそれっぽいコピーをつけて。


 オレたちには日常でも町の人たちには非日常だろう。普通の人は森の側なんかで過ごせないからな。

 ここは何しろグリフォンやら飛竜やらの物騒なモンスターがウロウロしているおかげで森のモンスターも泥棒も近寄って来ない。セキュリティは万全だ。

 番犬改めトリュフハンターとなったベルはすっかり野生を失って、お客さんにベタベタ触られても気にしない。玄関前で日向ぼっこしつつ昼寝を決め込んでいる。


 セールスポイントは何と言ってもレストランだ。

 森の恵みをふんだんに生かした料理は好評だ。先述の肉や卵、それにキノコ。

 特に甲竜の肉とトリュフは垂涎の的となっている。竜の肉なんて他所じゃまず食べられないし。


 希望があればペガサスで送迎もする。

 実はペガサスも数を増やした。ベガの群れが湖の上を飛び回っているのが窓から見える。

 これがお客さんには珍しいようだ。


 この宿屋はレインが夫婦でやっている。

 勤め先のレストランでウェイトレスをやってた彼女と結婚したんだ。去年には子供も産まれた。

 レインがシェフで彼女には女将さんをやってもらっている。


 レイン以外も、学生の頃のカップルの多くは別れてしまったが、中にはそのまま結婚したのもいる。

 例えばルークはあの二人と結婚してこの村を拠点にしている。どっちにも子供が生まれて毎日にぎやかだ。

 まあ子育てにかかりきりのおかげで冒険ができなくて、近頃はタマと一緒に木こりがメインの仕事だけど。

 ルドルフも貸し出して、伐った木の売買もやってもらっている。


 アメリとマックはくっついたり別れたりよりを戻したり、何をやってるんだか……。いい加減落ち着けばいいのに。

 オレたちのパーティーは半分休業状態で活動は不定期なもんで、二人は他所のパーティーに傭兵的に参加しながら冒険者メインで頑張ってる。


 アイラは村医者をやっている。レインの宿で静養しながらアイラの治療を受けるのが結構繁盛してる。

 それはいいんだけど、人の家庭の子育てに口出しするのはちょっとやめて欲しい。


 そう、オレも今では三人の子持ちだ。来年にはまたもう一人産まれちゃうし。

 元寮をレイン一家に明け渡してしまったのでオレたちは新居を建てて引っ越した。


 長女のウィナは三歳になったばかりだ。

 村でも最初に生まれた子供でみんなから「ういちゃん」と呼ばれて可愛がられている。


 ロボはこの「うい」を次代の王にすると息巻いていて、隙あらばフェンリル流の英才教育を施そうとするので目が離せない。

 今日はウィナに『森の奥に面白いものがいるから見せてやろう』などと言い出した。


『ヒト共の世界では決してお目にかかれないものだ』

「やったー!」


 止めても聞かないんだよな、こいつ。オレがご主人様なのに。

 ウィナも喜んできゃあきゃあ言ってるし……。


 ティナもシャルも今はちょっと動けないので仕方ない。オレが一人でついて行くことにした。


 ロボの背中に乗って朝から出発だ。

 オレたちは空高く舞い上がった。こいつが走り出すと凄いスピードだけど、シールドで取り囲まれていて風は感じない。


 こいつは手綱も鞍もつけさせようとしないので昔やっていたように紐で巻き付けて体を固定している。

 もうね、ウィナは大喜びしてるけどこっちは気が気じゃないんだ。

 キャッキャと手を伸ばして体を乗り出して、あっちを見たりこっちを見たりしてるもんだから、危なっかしくてしょうがない。


「おい、落とすなよ」

『お前は知らんが「うい」を落とすわけがないだろう』


 心配になって声を掛けるとロボはいつものように人を小ばかにした調子で鼻を鳴らした。


 途中でロボが仕留めた獲物を分けてもらって捌いて食べた。塩を振って焼いただけだけど。

 それと近くの木に果物がなっていたのでもいで食べた。ウェスタの方ではめったに見ない高級なやつだ。


「おいしーい!」


 初めて食べる果物にウィナも大喜びだった。

 みんなにも食べさせてあげたい。おみやげに持って帰ろう。


『ここだ』


 そんな感じであちこち寄り道して、夜遅くにようやく目的地に着いた。

 暗くて何を見せたいのかさっぱりわからないけどな。


 ロボは『朝になればわかる』というのでテントを張って野営することにした。

 森の中なんだがここはぐるりと壁がそそり立っていて広場になっている。


 オレたちはテントの前に布を敷いて寝そべった。

 見上げれば夜空が壁の縁に切り取られて黒く丸く、満天の星がまき散らした宝石のように輝いている。


 目を丸くして空を見つめるウィナのお腹をポンポンと叩く。

 ウィナはオレに視点を変えてニコッと笑った。


「おとうさんとお外で寝るの、はじめてー!」

「……そうか。そうだな」

『我とはいつものことだがな』


 体でウィナを守るように隣に伏せていたロボはムクリと頭を起こし、優越感をもってオレを見下ろした。

 クッ……悔しい!

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