新しい故郷へ
オレたちは自分の寮に帰還した。テイムしたフェンリルも連れて。
途中でエンターに急ぐ冒険者たちを追い越した。
彼らはフェンリルを見てびっくりしていたが、アルタミラに戻るようにとのバルトの言葉を伝えるとゾロゾロ戻って行った。
フェンリルの名前はブルボン略してロボにした。
デカい分若干知能も高いようだ。
名前をつける前からグリたちと違ってかなりはっきりした意志を伝えてきた。
でもって反抗的だ。例えばこうだ。
「おい、ちょっと乗せてくれよ」
オレがそう言うとロボはフンと鼻を鳴らした。
『そこのヒトメスならともかく、何故お前などを乗せてやらねばならんのだ』
これだよ。まあいいけどね。
オレも小ばかにして鼻先で笑った。
「あっそう、別にいいよ。俺にはドラがいるし」
『……待て。お前がどうしてもと頼むならたまには乗せてやらんこともないのだぞ?』
「よし行くぞ、ドラ」
『おい、待て!』
ティナがそうであったように、【超獣】というのはいるだけでモンスターを威圧する。
グリに言わせるとかつて『こわい』と言っていたのはこいつのことだそうだ。
要するにこいつが奥の方から近づいてきていたために地竜やらグリフォンやらが押し出されていたわけだ。迷惑な話だ。
そこでオレはこいつにエンター側から追いかけさせてモンスターたちを森の奥へと追いやった。
これでウェスタもアルタミラも安泰だ。
『何故我がこのようなことを……』
ブツブツ言ってたけど元々お前のせいなんだから文句言うな。
それに餌の調達も兼ねてるしな。
寮の裏に掘っ立て小屋は何とか用意したが基本放し飼い状態だ。
こいつを満足させられる量の餌なんてとてもじゃないが用意できない。
それと、これはおまけだけどまたも壊れたアルタミラ修築のためにマックもまたまた引っ張り出されていた。
「ほら行くよ、棟梁」
「いーやーだぁぁぁっ!」
「男の子が文句言わない!」
まあ抵抗するマックをアメリが無理矢理引きずって行ったんだけど。
季節は秋に移り替わりつつある。森の葡萄の実が色づき始めた頃同居人が増えた。
シャルとアイラだ。
……なんで?
「どういうこと?」
食堂のテーブルを叩いてティナが叫んだ。オレも聞きたい。
既に自分の部屋を決めて荷物を運び終えたシャルは小首をかしげた。
「え? ティナがいいなら私もいいかなって」
「どういう理屈よ!」
「え? だってウィルは私たちは選ばないと思ってたの。最近は距離を縮めようとしたらかえって遠ざかっていたし」
「あ、結構よく見てくれてたんだね……」
「でもティナとそういう関係になったって聞いたから、私もそうさせてもらおうかな、って。いいでしょ?」
「良くない! それに学校が同居なんて許すわけないでしょ!」
「え? 許可されたけど」
「え……。何で?」
ティナは愕然としていた。
「だって、ここも寮だし。私たちの授業ってもうアルタミラへの往復しかやることないし。どうせ今までも泊まってたじゃない」
「うーん、でもシャル、学生が男女で同居はどうかな? 風紀上問題があると思うんだけど」
それにティナの気持ちにこたえておいてシャルのことも要領よく──なんて、そんな節操のないことはさすがにしたくない。
でもオレがそういうとシャルはすねたような上目遣いでオレを見た。
「私のこと、嫌い?」
「いや好きだけど」
「私もよ。好き合う者同士が一緒にいるのは自然なことでしょう?」
「いやー、でもオレにはティナが……」
「そうよ!」
「別に邪魔するつもりはないわ」
「当たり前でしょ!」
「でも私のための時間をまったく作ってくれないわけじゃないでしょう? コンサートだってあるわけだし」
「うん、まあ……それはそうかな?」
「ならいいでしょう?」
「いいのかな?」
「よくない!」
「駄目よ!」
ティナとアイラがそろって叫んだ。
「そういえばアイラはなんで?」
「私は監視役よ。絶対に二人きりになんてさせないから」
「さすがアイラ! できれば連れて帰ってほしい!」
「私もそうしたいの!」
でもいつものようにシャルは空気を読まない。
意気投合する二人の声は聴かずにオレだけ見つめて言った。
「私って故郷と呼べるものがないの」
「前もそう言ってたね」
「だからみんなと一緒に村を作って、家族になって、ここを故郷にできたらいいなって。そう思って」
オレの心の中に静かな感動が広がっていた。
シャルもそんな風に考えていてくれたなんて。
「……作っちゃう? 新しい故郷」
「ちょーっと待ったー!」
またティナが叫んだ。今度のは絶叫だ。
シャルは不思議そうな顔だ。
「何で?」
「そんなことダメに決まってるでしょっ!」
「何が?」
「それは、倫理的に……」
「何の倫理?」
「そ、それは……」
「何を考えてるの? 倫理的におかしな何が起きるの?」
「……うー! アイラぁ!」
「何?」
「しっかり監視しといてよね!」
「任せて。人倫に悖るようなことは絶対にさせないわ!」
「アイラも私と家族にならない?」
「もちろん、喜んで!」
「さっそく裏切り者が出たし!」
結局ティナとついでにアメリも後で引っ越してきた。
これでパーティーメンバー勢ぞろいだな! 何だか騒がしくなりそうだ。
この辺境にやってきたときには想像もしていなかったような未来がこの先に開けている。
さあ、みんなで新しい故郷を作っていこう。
きっと楽しい故郷になる。
「リサ、ちょっといい?」
午後の探索前、物陰からティナに呼ばれたリサは空き教室に招き入れられた。
「なぁに? こんなところで」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「だから何よ」
「あのね、リサのところって三人で付き合ってるでしょ? ルーク君とミュールと。どんな感じ?」
「どんな感じって……何で?」
「重要なことなの。ねえ、三人でどうしてるの? お願い、答えて!」
「どうしてるって言われても……。普通にデートしてるけど」
「三人で?」
「え? うん、まあ」
「デートの後は?」
「後って?」
「……アトったらアトよ! わかるでしょ!」
「……それ、答えなきゃダメ?」
「お願い! こっちも深刻なの!」
「……。誰にも言わない?」
「言わない」
「引いたりしない?」
「もちろん!」
「……三人でしてる。普通に……」
「えーっと、その……、嫌じゃない? 恥ずかしかったりしない?」
「……そりゃもちろん最初は恥ずかしかったけど。でも……」
「でも?」
「……本当に引かない?」
「引かないってば」
「……あのね、初めてのときから三人だったじゃない? それが普通になっちゃったというか、二人きりだとかえって盛り上がらないというか……。……あーっ! やっぱり引いてる! だから言いたくなかったのにぃ!」
「引いてない! 引いてないよ? ……えー、今日は貴重なご意見、ありがとうございました。今後の参考にさせていただきます……」




