故郷
再開しました。
寒空の下、半裸で待ち続けたティナの運命や如何に。
風邪引いてないといいのですが。
「ま、待って! 落ち着いて!」
押しとどめようとするんだけどティナはさらに一歩を踏み込んできた。
抱き着かれた。
や、柔らかい……。戦えばあんなに力強いのに、舌がそうであるように全身が骨なんて入ってない肉だけの存在なんじゃないか、そういう柔らかさだ。
喉がカラカラに渇く。ど、動悸が……。
あああもう、オレの方が落ち着いてない!
ティナは抱き着いたままもう一度同じことを言った。
「私を選んで」
「うん、ティナの気持ちはわかったからまずは話し合おう。とりあえず服を着よう?」
「やだ」
「だからなんで? とりあえず離れて?」
「ウィルが恋人になってくれるなら放す」
「どうして急にこんなこと……」
「だって、シャルが」
……。何となくわかった。この前のシャルのアレに触発されてティナもこんな真似をしてみたってわけだ。
「どうしてオレなんだよ。ティナならもっといい相手がいくらでもいるだろ」
実際オレなんてどうしようもない田舎者で、貧乏人の小倅で、学費のために冒険者開拓者になる以外の選択肢がない男だ。
都会に帰ればティナならもっと条件のいい相手がわんさか見つかるだろう。
しかしティナは抱き着いたままゆっくりと首を振った。
「いないよ。ウィル以外の男の子はもう私のことを可愛いって言ってくれないと思うの」
「何で……。ティナはこんなに可愛いのに、なんでそこまで悲観的になってるんだよ」
「……。私って、子供の頃にはみんなから可愛い可愛いって言われてたんだよ? でもここに来てから、ううん、【超獣】のジョブをもらってから……みんなが私を見る目は恐怖か敵意しかなくて……。可愛いって言ってくれたのはウィルだけだったの」
……おい戦闘科の男子共、お前らちょっと不甲斐なさすぎないか?
「そんなに心配しなくてもティナは可愛いよ。誰が見たってそう」
「……本当に?」
「うん。顔が可愛いし耳が可愛いししっぽも可愛い。ちょっと小柄で細身なところも可愛いよね。声も可愛いし手が小さくてあったかいところも可愛い。優しい性格も社交的なところも家庭的で料理や裁縫が上手なところも可愛いしオシャレに一生懸命なところも可愛いし、胸の大きさをちょっと気にしてるところも可愛い。うーん、こうしてみるとどこもかしこも可愛いね」
ティナはオレの胸に顔を伏せて照れた。
「ほ、褒めすぎだよ……」
「そうかな、全然褒め足りないんだけど」
「でも、ダメなの?」
顔が上がって、目が合った。
「何が足りないの?」
「足りないわけじゃなくて……だって、ティナはいずれ故郷に帰るだろ? オレは多分一生ここに住むんだよ。一緒にはいられないよ」
「帰らないよ」
ティナの声ははっきりしていた。
「無理なの、帰れないの。偉い人が私はアルバに住んじゃダメって言うの」
「そんなの……その偉いさんとやらが何を言ったって、ティナがその気ならどうにでもなるだろ」
「私を止められる人はいないかもね。……でも、歓迎してくれる人もいないの。お父さんもお母さんもお姉ちゃんも弟も、私に帰って来てほしくないみたい」
息が詰まった。
「もうあそこは私の街じゃないの」
抱きつく腕に力がこもった。
「ねえ、いいでしょ? 私を選んで、私もここに住んでいいって言って? そうしたら、きっとここが新しい故郷になるから」
「……」
心の内側に静かな感動が波紋のように広がっていた。
『新しい故郷』か。新鮮な言葉だ。
オレも故郷を失って……そうだな、ここを新しい故郷にできるといいな。
オレはそっと細い肩を抱いた。
「……作っちゃう? 新しい故郷」
故郷って何だろうか。オレにとっては人と場所だ。子供の頃のように村があって、村人がいて……そうだよ、隣の家の爺さん婆さんやギターの上手いおっさんや村長さんにオレの家族がいて、木を伐って牛を飼ってお祭りをしてた……。
あの村のようなことを、もう一度やりたい。
まずは自分の家と家族から始めよう。
「オレから言うよ。ティナ、好きだ。オレとつきあって欲しい」
「……嬉しい!」
「とりあえず服を着よう。みんなが来るから」
「あ、そ、そうだね。……急に恥ずかしくなってきた」
ティナはようやく体を離してくれた。
自分の体を抱きしめて、顔色が赤い。
オレは落ちていた服を拾い上げて、後ろから掛けてあげた。
なお(この世界では)ティナの考案になるこのスケベワンピースは後にドスケベ種族獣人たちの間で広まってたいそう流行ったとの噂。




