日常への回帰
休日の前の夜に打ち上げパーティーをやった。
うちのパーティーだけじゃなくていつものメンツもやってきて大いに盛り上がった。
ティナとアメリは先日の鬼ごっこやアルタミラでの戦いについて質問攻めにあってた。
ところがシャルは何だか上の空だった。
視線は手に持った皿を向いていても目の焦点が合ってない。
そしてずーっと知らないメロディを口ずさんでいる。
テントで浮かびそうと言っていた新曲だ。
シャルはアルタミラから戻るなり猛然と作曲を始めた。
多分メロディはほとんど頭の中にできてたんだろう。昨日には完成していた。
それをさらに編集してるんだ。
というわけで翌朝、オレたちは休日にもかかわらず学校の音楽室に集まっていた。
シャルはそれぞれのパートを一回弾いてみせた。
ティナはまだ楽譜が読めないし、他の二人も一度聞いてからの方が理解が早い。
めいめいちょっと練習してから合わせてみた。
……うん、すっごくカッコいい曲だ。行進曲の分類になるんだろうか? でもこんなの今までに聞いたことがない。
勇壮でありながら高揚感よりはむしろ危機感を煽るメロディだ。気持ちを急き立てて危難に立ち向かわせる、そういう意志を感じる。
でも……。
とりあえずキャロルは無邪気に感動している。
「イイじゃん! メッチャカッコいいじゃん!」
ティナものん気だ。
「へー、中はこんな感じだったんだー」
でもアイラは何とも渋い顔をしていた。オレもだ。
シャルは頬をほんのり染めて生き生きしていたが、オレたちの顔を見て急に自信なさそうにソワソワし出した。
「……気に入らなかった?」
「いや、いい曲だと思うよ?」
曲は確かにいいと思う。曲じゃなくて、オレの問題なんだ。
「でも、オレはこの曲を聞いているとドラと一緒にボスを奇襲したときのことを思い出すんだ……」
心臓がドキドキしていた。
期待感とか恋のときめきとかじゃなくてあまり良くない感じのやつだ。冷や汗もかいてるし。
「あなたも? 私は竜人に襲われてる時のことを思い出したわ……」
アイラは胸を押さえて目をぎゅっとつぶってしまった。
オレたちの気持ちはともかくとしてレパートリーが増えた。
シャルはジョックに顔を出して、ちょうど十日後に空きがあるというのでライブの予約をして帰ってきた。
また十日で仕上げないといけないのか……。
キャロルのパーティーには再びベルとハローを貸し出した。
今度はグリがいないのでドラに空の上を巡回させた。マルに合図したら救出に向かう手筈だ。
そう、ライブの準備をしている間、アメリはプロの冒険者パーティーに混ぜてもらってアルタミラに向かった。
もうこっちだとやることがないし。それにアメリは向こうのマッピングをしたがっていた。
ちょうど冒険者たちがアメリとパーティーを組みたがってさかんにアプローチしてきたのも渡りに船だった。
「ついでにマックを連れて帰ってよ」
「オーケー」
まあオレたちがしばらくライブの準備だと言ったらアメリもそれならしばらくあっちにいると答えたので、マックが帰れるのもまたしばらく先のことになりそうだけど。
ライブは見たいと言っていたのでその頃までには帰ってくるだろう。
──二人は八日後にようやく帰ってきた。
「お帰り」
「ただいま」
アメリがグリから飛び降りた。
マックは何だかゲッソリしていた。目の下に隈もある。
「……遅せーよ!」
「すまんすまん。あっちはどう? 直った?」
「おかげさんで、時間はたっぷりあったんでな!」
「でも迎えに行ったのはそんなに遅くなかっただろ?」
「だってアメリ、どんなにお願いしても帰ってくれないんだもん……」
「お、呼び捨て。仲良くなった?」
「いやいやいや、あいつ怖いし。単独で甲竜殺ってたし」
甲竜は全身が装甲で覆われた竜だ。オレはまだ見たことがない。
「へー、甲竜! デカかった? 強かった?」
「美味しかったよ」
さてライブ当日。
客席は今日も一杯だ。
シャルたちは今回も三曲演奏した。
いつものクラシックアレンジと前回も弾いたあの愉快な曲、それから新曲だ。
新曲はお客には受けが良くてアンコールでもう一回やった。アイラは途中から目をつぶって弾いてたけど。
それからリクエストを受けてシャルは例のラブソングを歌った。
演奏が終わった。シャルたちは観客たちの声にこたえて手を振って……ん、何だ?
シャルがオレを見た。手招きしてるし。
何だかはしゃいでるな? 見た目にはあまり出ないシャルだけどオレにはわかる。
オレは呼ばれるまま袖からステージに出た。
「何か用?」
隣に立ったら客席の方を手のひらで示したのでそっちを向いた。
シャルが背伸びした気配があった。
頬に暖かくて柔らかな感触が触れた。
オレは硬直した。
客席も凍り付いた。
な、何してるんだ! お客さんビックリしてるだろ! オレもビックリしたし!
──っていうか今オレに殺意を向けてる人いたぞ? 後ろのドラムとキーボードの辺りからもすごい圧力を感じるし!
でもシャルは空気を読むということをしない。
「ありがとう」
周囲の目というものをまったく気にしないで、シャルは春の日の太陽を反射するさざ波のような輝く微笑でオレを見つめていた。
それはどうもだけど、何か礼を言われるようなことしたっけ?
それからシャルがキャロル、アイラ、ティナと順番に頬にキスをして回ったらようやく客席の緊張が解けた。
でもしばらく夜道は背後に気をつけよう……。




