超獣とグリフォンナイトの鬼ごっこファイト
ティナとアメリは訓練場で距離を取って向き合った。
オレのパーティーと竜殺の白刃隊、教官たちの一団、それに学生たちも森の探索どころじゃなくなってしまってここにいる。
全員でぐるりと取り囲んで見物の構えだ。
ティナはいつものように学生用の迷彩服の上着にスカートを合わせている。
武器はないし足も靴を脱いで素足だ。
アメリはもうグリに跨っている。
服は迷彩服の上下で、それ以外には何も持っていない。
グリは真新しい布をスカーフみたいにして首に巻いている。
つい先日ギルドからグリ、ドラ、ベガに贈られたんだ。識別用として。
他のモンスターと間違えられて攻撃されないようにという配慮だ。
ちなみにベルたちにはオレが自費で買ってやった。
グリがつけている布は若干オレンジがかった明るい赤だ。
ふんぞり返ってると首元の赤が目立って、ちょっと誇らしげに見える。
訓練場で向かい合っていた二人+一匹はその距離を保ったままスーッと真上に昇っていった。
なんかもう普通に飛んでるし……。
ところでこの前の戦闘後にオレは[スキル看破]というスキルを手に入れた。
今までもテイムしたモンスターについてはジョブとスキルを知ることができていたのだが、このスキルはテイムしていなくても目の前の相手の使っているスキルがわかるんだ。
そのスキル看破で見ると、アメリとグリはすごい量のスキルを使っている。
[エアウォーク][フライ][人馬一体][空間識][索敵][赤外線視力][マーキング][ターゲッティング][弓術][槍術][筋力増加][速度増加][生命力増強][幸運][光無効][闇耐性][衝撃耐性][状態異常耐性][威圧][殺意の波動][アンチマテリアルシールド][アンチマジックシールド][バリアブルシールド][リアクティブシールド]──これでようやく半分ってところだ。
さらにその手の中に光が凝り固まって弓の形になった。
[ライトボウ]というスキルのようだ。
「何だ、あれ」
呟いたら隣にいたクレアが教えてくれた。
「マジックボウ系のスキルよ。ほら」
クレアも自分の手の中に真っ黒な弓を出した。すぐに消したけど。
「普通の弓より威力も連射性も応用力も上だけど魔力の消耗が激しいんだよね。私もここぞというところでしか使わないね」
「なるほど」
一方のティナはシンプルだ。[超獣化]というスキルひとつしか使っていない。
どうやらその超獣化スキルにエアウォークやらなんやらが内包されてるっぽい。
双方準備は整ったようだ。時間いっぱいだ。
「それでは──始めッ!」
教官が開始を告げると同時に[ライトアロー]が飛んだ。
ティナはライトアローを軽くかわして一気にダッシュ、それこそ矢のような速度──ところがアメリの直前で急に方向を変えた。
グリの[ショックウェーブ]を回避したんだ。
真上を通り過ぎる形のティナをアメリは拡散ライトアローの連射で追撃しまくった。空に描く軌跡が綺麗だ。
ティナは一瞬で遠くに追いやられた。
「今のはグリフォンがよく見てたな」
クレアの逆隣にいた教官の解説が始まった。
「ティナのとんでもないスピードに目がついていってますね」
「ああ。アメリの追撃も見事だ。馬じゃないが人馬一体だな」
空の端を蹴ってVターンしたティナが再びアメリに迫る。
グリはティナの直進を避けるように横を見て駆け、アメリはティナの進路を見越して偏差射撃、花束みたいに広がった拡散ライトアローがティナを貫き──いや、消えた! いつもの分身だ!
えええぇー……?
観客から上がった驚きの声が訓練場にとどろいた。
いつもはパッと二人に分かれるだけだが今日のティナは分かれた後もさらに分かれて分かれて分かれて一瞬何人もいるように見える。
それがついたり消えたりしてるもんだからチラチラして見づらい!
右に左に上に下にライトアローは偽のティナを撃ち続け、ティナは不規則な進入路を高速で爆走、アメリの懐に迫る。
──が、唐突にライトアローが本物のティナを捕らえた。
偽物の方に誘導したはずのライトアローが目の前に迫ったティナは慌てて進路変更、容赦ない連射に追い立てられてまた距離が開いた。
「先生、あれはいったい……?」
「三人拳という技だ。我々は通常ごく無意識に相手の姿勢や重心、視線などから次の動作を予測している。そこで態度で行きたい方向を示しておいて、いざ動くという瞬間にマナバーストの放射で違う方向にスライドすると──」
そう言いながら前に向かって走り出そうとした教官は次の瞬間オレの後ろに回っていた。
後ろから肩を叩かれてオレはビビった。
「……えっ?」
「このように、意識が誤作動を起こす。姿を見失ったり、あるいは増えて見えたりするんだ。熟練の使い手なら三人くらいに分かれて見える、だから三人拳と呼ばれている。──だが、あいつのは百人拳とでも呼ぶべきだろうな」
上空でティナはやっぱり十人にも二十人にも増えて見えていた。
でももうアメリには通じていない。ライトアローは的確に本物のティナを狙い、ティナはなかなか近寄れず苦戦している。
教官は首をひねった。
「わからんのはアメリだな。どうやってあれを見切ったんだ?」
「あー、あれはですね、見切ったというか見るのをやめたんですね」
「……どういうことだ?」
動き回ってる上に遠すぎてよく見えないけど、どうもアメリは目を閉じているようだ。
[索敵]は全開だけどね。
「つまり目で追うと惑わされると考えて索敵スキルだけで見てるんです。動くのはグリに任せてるようですね」
「なるほどなあ」
グリは果敢に動き回っていた。
宙を蹴って跳ねまわって、この距離でもあの速さで見えるってことは相当なスピードで動き回いてるはずだけど、でもティナが速すぎる。
全然引き離せない。
ティナはもうアメリの索敵スキルに対応している。
まっすぐ迫るティナをライトアローが捉えて──あ、当たる直前でヒラリとかわした。
分身を撃たせるのではなく見てからかわす方針にシフトしたようだ。すごい反射神経だ。ティナしか無理だ。
追い付かれる──
刹那、アメグリが分身した。あの巨体が一瞬分かれて見えた。
三人拳だ!
スゲ、見よう見まねで技を盗んでる。
しかしティナには分身が通じていない、本物のアメリの方へ迫ってる。
タッチされる寸前グリは大きく跳ねて宙返りして回避、さかさまにひっくり返ってティナを見た。
突如光の巨柱が宙を貫いた。アメリとグリのマナバーストだ! いつの間に使えるようになってたんだ?
主従一体で放つそれは塔みたいな極太。威力、範囲ともかつて見たことのない規模だ。
いくら相手がティナとはいえそんなの人間に使っていいのか?
でもティナはこれも読んでいた。真横にすっ飛んで軽くかわした。
あ、そうか。三人拳が使えるってことはマナバーストが使えるってことだもんな。それでアメグリの攻撃を予測してたのか。
マナバーストは訓練場に着弾して大爆発、ビビッた生徒たちが慌てて逃げ出した。
ティナはかわしたもののマナバーストの範囲が広すぎて距離が開いた。また鬼ごっこの再開だ。
互いにマナバーストを利用しての無茶苦茶な変態機動はほとんど瞬間移動じみていた。
追われるアメリが直角にスライドしながらライトアローで応射するとティナは鋭角に進路を変えて回避しつつアメリに迫る。
空の上で二人と一匹はぶつかり合うおはじきみたいに動き回っている。
オレたちはぽかーんと口を開いて立体追いかけっこを眺めていた。
あれだな、この二人が同期生では間違いなく一位と二位だな。軍学校の方まで見渡しても相手になる者がいるとは思えない。
教官は「俺でももう勝てそうにないな」と感心してたしクレアは「はえーすっごい」とか言ってたし、近くでマルスが「まるで参考にならねぇー」なんてボヤいているのも聞こえてきた。
「おいお前たち、あのグリフォンナイトに勝てるか?」
「……」
教官の問いかけに竜殺隊の面々は沈黙した。
「それにしても、あれだけのスキルにマナバーストに三人拳……魔力の大盤振る舞いだな。あれで最後までもつのか?」
「アメリの魔力は普通の人よりかなり多いはずですが」
「それにしても使いすぎだ。短期決戦の腹づもりだな」
アメリの猛攻に押したくられてひとまず距離を取ったティナは天の縁を高速で駆け抜けた。
ライトアローが後を追う、進路を見越して撃たれたそれの先をさらなる高速でティナが通り過ぎる。
ティナとライトアローの軌跡が螺旋を描いて動き回る中心へと落ちてゆく。
飛び去ったライトアローの群れが星を取り巻く雲のように二人を丸く包み込んだ。
次の瞬間、すべてのライトアローが反転してティナ目掛けて降り注いだ。
そうだった、最初に見た時から知っていた。ライトアローは一度だけ射線を曲げることができる。
ライトアローの大群は大いなる流れとなってティナを追った。ティナは追われるままにアメリに迫る。
迎え撃ったアメリとグリは再びあの極太マナバーストを放った。ライトアローと挟み撃ちだ。
ライトアローとマナバーストが激突した瞬間ティナが消えた。
いや、消えたんじゃなくて見失ったんだ。竜人戦の最後で見せた神速だ。
ここまで力を隠していたティナはとうとう本気を見せた。
ライトアローもマナバーストもオレたちの視線もすべてを置き去りにしたティナはグリのシールドを突き破り索敵スキルすらすり抜けてアメリの後ろに回り、ぽんと肩に手を乗せた。
「そこまでッ!」
教官がティナ側の旗を挙げた。決着だ。
ワアアアアアアアッ!!!
大歓声が訓練場を揺るがした。
学生たちが大声を上げ、手を振って飛び回る中竜殺隊は呆然と上空を見つめていた。
そんな竜殺隊に教官が声を掛けた。
「ティナはただのフィジカルバカじゃない。パワーもスピードもスキルも人類の枠を踏み越えているが、それだけでなくセンスもテクニックも人類最高峰──おいコラお前たち、まだあれと戦うつもりか?」
居並ぶ教官たちにジロリと睨みつけられて竜殺隊のメンバーは一斉にうなだれた。
「いえ……」
「こいつらと戦うのはやめておきます……」
「よし」
「もしやると言ったら教官総出で叩きのめすつもりだった」
勝負を終えたティナとアメリが降りてきた。
「はー、楽しかったー!」
「あんなにハンデもらったのに負けたーっ!」
「いや、ティナ相手にあそこまでできる者は世界中探しても何人もいないぞ? 自信を持て」
ティナはいい汗かいたという笑顔だった。
グリはしょげていて、悔しがるアメリを教官が慰めていた。ティナ相手に悔しがれるのがすごい。
それにしても……ティナにしてもアメリにしても、もし今みたいなジョブをもらわなかったら、これだけの才能をアルバの片隅で腐らせたまま一生を終えてたんだろうか。
神様って本人の資質を見てジョブをくれてるのかもしれない。
だとしたら、オレのテイマーにも何か意味があるんだろうか……?




