挑戦者たち
オレたちはもう学校の森に行くことはないんで帰って草むしりでもしようと思ってたんだ。
ところが通りかかったらその日の午後の訓練場は何だかざわめいていた。何だ?
学生たちが遠巻きに見守る真ん中に見慣れない一団がいた。
冒険者らしき男女が七人だ。
中に知った顔がある。クレアだ。
「やめなって」
「うるせー!」
「止めるな!」
よくわからないがクレアは彼らを止めようとしているようだ。聞く耳を持っていない様子だけど。
オレは近寄ってクレアに声を掛けた。
「お久しぶりです」
まあアルタミラで一緒に戦ってたんだけどね。
「おひさ」
「どうしたんですか?」
するとクレアは呆れたように肩をすくめた。
「こいつら私の知り合いのパーティーなんだけどさ……。あんたら大活躍だったじゃない? もう嫉妬しちゃってさあ」
「嫉妬じゃない!」
「これだけは言える!」
「嫉妬でしょ。学生相手にみっともないからやめろって言ったんだけどね? とにかくあんたらに挑戦したいんだって」
えー……。
それはオレも呆れる。本当に学生相手に何を言っているんだろう、この人たち。大人げないにも程がある。
難色が表情に表れていたみたいだ。クレアも渋い顔をした。
「無理だって言ったんだけど、言ったら余計ムキになっちゃって……。ずーっと止めようとしてるんだけど全然聞いてくれないの」
「この人たちあそこにいたんですか?」
「それがいなかったんだよね。自分たちもいたら活躍できたって悔しがっちゃってねー」
自信家だなあ。こっちはいいところ見せてやろうとかそんな余裕まったくなかったんだが。
「見てたらこんなこと言えないと思うんだけど」
参戦していたクレアは今度こそ本当に呆れてため息を漏らした。
「──あ! おい、お前アルタミラにいたテイマーだな?」
うわ、こっちに飛び火した。
そのパーティーの前衛担当っぽい男が迫ってきた。胸倉をつかむばかりの勢いだ。
うーん、とぼけてしまいたいところだけど、この人たちにそんなことをすると余計面倒なことになりそうだ。
仕方なくオレはあいさつした。
「はい、そうです。初めまして、ウィルと言います。あなたたちはどなたですか?」
「知らないか? なら教えてやろう。俺たちは『竜殺の白刃隊』の者だ!」
へー、知らなかった。
オレはちょっと感心してしまった。冒険者パーティーに名前をつける文化なんてあったんだな。
オレたちも何かつけるべきだろうか? 『蒼穹のグリフォン隊』とか。
少し心をくすぐられたのでクレアに聞いてみた。
「パーティーには名前があったんですね」
「普通はないよ、普通はリーダーの名前で通るから。あんたらのところなら『テイマーのパーティー』でみんなにわかるでしょ? こいつらカッコつけてんの」
あ、そうだったのか。やべー、早まるところだった。
「それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
「聞いただろ、決闘だ! お前たちのパーティーに挑戦する!」
「いえ、うちはそういうのはちょっと……。申し訳ございません」
「何だと? 逃げるのか?」
「お前たちは決闘から逃げたと、俺たちの勝ちだと吹聴して回るが、いいんだな?」
「あ、はい。別にいいです」
「ほら、学生にこんなこと言わせて恥ずかしくないの? もうやめなよ」
「……なるほど、今更中傷されたところで評判は傷がつかないほど盤石、と、そう考えてるわけだ」
「俺たちなんか眼中にないってか」
「いえ、そういうわけではなくてですね……」
「なら受けろ!」
「もう、しつこいったら!」
うーん、ただやりたくないだけなんだけど。
決闘とか無益だし時間の無駄じゃん。
チラッと横目で見たらアメリがキレてる雰囲気が伝わってきた。
でもどんどん強くなってる今のアメグリVSナントカ隊とか、やっても虐殺になる予感しかしない。
どうしたら諦めてくれるだろうか……。
「お前ら、何をしているんだ!」
押し問答してたら教官たちがやってきた。
誰かが呼んでくれたみたいだ。オレはほっと息をついた。
「ああ、先生。すいません、助けてください」
「あ、先生方、お久しぶりです」
竜殺の白刃隊の面々は教官たちを見て頭を下げた。
どうも元教え子っぽいな? まあそりゃそうか、冒険者なら全員ここを卒業してるはずだ。
教官たちも彼らを覚えていたようだ。急に笑顔になって彼らの肩を叩いて回った。
「おお、お前たちか。噂は聞いてるぞ」
「活躍してるそうだな。今日はどうした?」
「はい、実は──」
そこで冒険者たちがかくかくしかじかということでオレたちに決闘を申し込みに来たのだと馬鹿正直に説明すると教官たちはまた一斉に顔つきを険しくした。
「馬鹿者! 何を考えてるんだお前ら!」
ですよねー。
竜殺の白刃隊はタジタジだった。「いや、しかしですね──」などと言い訳しようとして、さらに大きな声で説教を食らっていた。
「決闘なんてものは冒険者同士でも推奨しとらんのだ! まして学生にさせられるわけないだろ!」
「少しは成長したかと思って喜んでたら、何という情けないことを……!」
「そんなことをしてる暇があったらアルタミラに戻れ! 今は大変な時だろう!」
「交代でこっちに戻ったばかりなんです!」
冒険者は叫んだ。
「昨日の朝までずっと詰めっぱなしだったんです……」
「俺たち襲撃があったなんて知らなくて、まったく役に立てなくて……」
「大工仕事も慣れなくて、学生の方がずっと上手かったし……」
……あ、そうだ。そろそろマックを迎えに行ってあげないと。
「せめて、せめて、俺たちもあの時にいたら活躍できたんだと、それだけは証明したくて……」
「それにはこいつらと戦ってみせるしかないと思い詰めて……」
「そ、そうか」
彼らの魂の訴えに教官たちはたじろいだ。
何だか身につまされるなぁ。かといってオレたちが付き合う義理もないんだが。
教官たちとついでにクレアは少し離れて協議を始めた。
いつもの相談タイムだ。
「待たせたな──おい、アメリ!」
ようやく戻ってきた教官は大声でアメリを呼び立てた。
学生たちの視線の集まる中、アメリは小走りでこちらにやってきた。
「何でしょうか」
「お前、ちょっとティナと戦え」
「いえ、無理です」
即答だった。
さすがのアメリも、というかアメリだからこそだろうか、ティナとの実力差をはっきり認識しているようだ。
「こいつが人間城か」
「やめてくださいよ、それ……!」
竜殺の白刃隊に珍獣を眺めるような目で品定めされてアメリは静かにキレた。
「何も本気で戦えと言っているわけじゃない。模擬戦だ。──おーい、ティナ!」
「はーい」
今度はティナが呼ばれた。ティナはひとっ飛びで寄ってきた。
「お前たちにはこれからちょっとしたゲームをしてもらう」
「ゲームですか?」
「ああ。お前たちには鬼ごっこをしてもらう。ティナが鬼でアメリが子だ。アメリ、お前は子だが反撃オーケーだ、何をやってもいい。それからティナ、お前は攻撃もシールドも禁止、やっていいのは回避だけだ」
「はあ」
「えー?」
「アメリは一発でも当てたら勝ち、ティナに触られたら負け。ティナは攻撃してもシールドしても負けだ」
「そのルールなら、まあ……」
「わー、結構難しそう」
「そしてお前たちはこの二人のゲームを見て、それでもチャレンジできると思うなら考えてやる」
「……いいでしょう!」
「やりますよ、俺たちは!」
──というわけで急遽対戦カードが組まれた。
今年度の学生の最強決定戦だ。ハンディキャップマッチだけど。




