ネコミミロック
というわけで練習を繰り返して、三日後のシャルは再び街角にいた。
今日は制服のブレザーを脱いでタイも外して、シャツの裾もスカートから出している。長い髪を後ろでまとめて、そして座らずに立ったままだ。
ギュイ──ン……
ギターが唸りを上げた。
通行人たちが思わず立ち止まって、こっちを見た。
音を聞けお前たち、この音を聞け。
これは人類が初めて体験する音楽の産声だ。
そしてシャルの手が見えない速さで動き出し、音が走り出した。
イントロからブッ飛ばしてる!
弦が爆発してるんじゃないかというようなハイスピードだ。あの指どうなってるんだ? お客さんついてきてるー!?
シャルが弾いているのは誰でも知ってる古典の名曲をアレンジしたものだ。
ただそのアレンジが違う。恐らく誰も知らない。暴力的なまでに激しく、情熱的で、そして扇動的だ。高音は天に駆け上るようだし低音は地獄の底から響くようだ。
オレが知らないってだけじゃない、これはまだこの世のどこにもない音楽に間違いない。
これがハチャメチャに受けた。
すごい美少女が全身を、とりわけ胸を揺らしながら超絶技巧でギターをかき鳴らしているんだから目立たないはずがない。
おまけに曲に[高揚]スキルが乗ってるしな。
ギターのネックが踊る。
白磁の指が六弦と五線譜の上を縦横無尽に跳ね回る。
通りがかる人がみんな足を止める。
生まれて初めて聞く音楽に街の人々は酔いしれた。未知のメロディは若者たちの胸をかき乱した。
曲が進むごとに聴衆はどんどん増えて、シャルは壁を背に半円形に取り囲まれていた。オレは整理係だ。
オーディエンスのボルテージは既にマックス、自然に体が動き出している。
いやすごい縦ノリだ。絶叫している奴までいる。
あー、オレも早く上達して一緒にライブやりたい。
「プリーズ! プリーズ!」
まあ今はこれが精一杯だ。オレは空き缶を持って聴衆たちに投げ銭をせびって回った。
興奮状態の観客たちはよく考えずにジャンジャン硬貨を投げ入れた。おひねりが缶から溢れたのでポケットに突っ込んで、もう一周ぐるっと回ったらまた空き缶が一杯になった。
キュイ────ン……
長い曲を余韻を持たせて締めると観衆から割れるような拍手と大歓声が沸き上がった。
客に応えて手を振って、シャルは大成功のうちに街頭ライブを終えた。
「シャル、最高だ!」
ハイタッチを求めるとシャルも気分がアガってるのか満面の笑顔で手を挙げて応えた。
「ありがとう!」
玉の汗を額に浮かべて、頬を紅潮させて、光を放つような笑顔だ。
「これだけあれば当分やっていけそうだな」
オレは眩しさにクラクラしながらシャルに缶を渡して、さらにポケットの中の小銭を袋に入れて押し付けた。
「ありがとう。これはお礼」
そう言ってシャルは半分よこして来た。
一瞬迷ったがもらっておいた。