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アルタミラの夜

 帰りは少し時間がかかった。

 三人も乗ってて重かったんだろうな。


 生き残った冒険者が顛末を報告するとバルトは彼をねぎらって宿舎を手配した。

 エンターに帰るほどでもないが元気でもない負傷者たちから優先的に残った建物に詰め込んでいる。彼はその中に入った。


 元気な冒険者はテントを張って野営している。

 オレたちもテント組だ。自前じゃなくて借り物だけど。


 もう一つ別の拠点へ撤退を伝えるお使いに行って、ようやくテントに戻った頃には暗くなりかけていた。

 テントの前でシャルが出迎えてくれた。


「お帰りなさい」


 シャルは割烹着姿だった。そんなの持ってきてたのか。

 炊き出し班に混ざって料理していたようだ。


「うう……。た、ただいま……」


 アイラも帰ってきた。何だかフラフラしている。

 こちらは朝からずっと回復スキルを使いっぱなしだったようだ。


 オレたちはテントの前にシートを敷いて夕食を食べた。

 パン焼き窯も壊れちゃって、小麦粉で作った麺を煮込んだ汁物だった。

 アイラは食べながらうつらうつらしていた。


 ティナとアメリは今日は自分の部屋に帰っているはずだ。

 あっちは何を食べてるんだろうな?


 食後はいつも通りシャルがギターを持ちだした。


「何か聞きたい曲はある?」

「そうだな……陽気な曲がいいな。ちょっと気分が落ち込んでるから」


 リクエストしたらシャルはみんなで作ったあの曲を弾いた。


 ああ、今日も星が綺麗だ。

 オレたちが黙ったら虫の声しかしない森の奥に、星々から降り注ぐような調べが響き渡る。


 こういう時に音楽というのは本当に心に沁みるな。

 近くのテントの冒険者たちもじっと聞き入っていた。


 切りのいいところでシャルは曲を止めた。

 短い曲だしな、次は何を頼もうか……と思ったら、シャルはしーっと声をひそめて口の前で指を立てた。


 その手が降りてアイラの頭を撫でた。

 アイラはシャルの太ももに頭を乗せて、体を丸めて寝入っていた。

 ずいぶん大人しいと思ったら……。まあ疲れてたみたいだしな。


 オレたちは顔を見合わせて小さく笑って、二人してアイラをテントに運び入れた。


 ウィル・オー・ウィスプの光を抑えてテントの中に放つ。

 オレたちはアイラを挟んで横になった。アイラの耳の向こうにシャルの顔がある。


 まだ宵の口だ。

 オレたちは頭越しにおしゃべりした。


「帰ったらライブの準備をしないと」

「次もジョック?」

「ええ。キャロルがやる気なの」

「え、何があったの? あんなに嫌がってたのに」

「それがね──」


 シャルは女子寮でのドタバタを教えてくれた。

 うーん、キャロルに意外な一面が……。


 聞きながら手を伸ばしたらひんやりした指と触れ合った。

 シャルもちょうど手を探してたみたいだ。


 指を絡めて握ったら同じ力で握り返された。


 それからジョックでのライブの予定や曲目とか、帰ったらゆっくり風呂に浸かりたいとか新曲が浮かびそうだとか寮で鶏を飼いたいとか公会堂でのコンサートはいつ再開するかとか話していたら久しぶりに年相応の、いや年齢よりも少し幼い気持ちになれた。


 バルトや冒険者たちや、それからティナの前でも。

 ここのところ無我夢中で、周囲に合わせて大人じみた振る舞いをしていた。

 精一杯背伸びして自分を大きく見せようとしていたように思う。


 それがシャルのギターを聞いて、子供みたいに眠るアイラを見て、そして今おしゃべりしていたら、ようやく等身大の自分に戻れた。

 そんな気がした。




 ところで翌朝、オレは金切り声のアイラにガシガシ蹴られて目を覚ました。

 どうもシャルと左右からアイラに抱き着いて眠っていたようだ。


「なっ、なっ、何考えてるのこの痴漢! 変態! 強姦魔ああっ!」


 痛い、痛いって。

 オレが悪かったけどさ、不可抗力だって。


 何だろうね、これ。こんなこと初めてのはずなのに何だかすごい日常感があるんだけど。

 アルタミラにいながら学校に帰ってきたような、そんな気がした。

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