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超獣VS超人

 間近で見ると竜人というのは人間なんかよりずっとデカかった。

 ティナとじゃ大人と子供以上の体格差がある。身長なんて倍も大きく見える。


 その竜人とティナは真っ向から殴り合っていた。


 凄まじい速さのパンチの応酬だ。オレの目では追いきれない。

 とりあえずリーチの差がかなりあるのはわかった。竜人の距離ではティナはたまに足が出るだけでガード一辺倒、でも至近距離ではかえってティナに分がある。


 懐へ潜り込もうとしたティナを竜人は押すようなパンチで突き放した。

 ティナは逆らわずに後ろに飛んで、空を蹴って再びダッシュ──いつもの分身だ!

 左のティナへの攻撃は空振り、右のティナが体軸の高速回転でブン回した右フックが竜人をとらえた。


 激烈な殴打音が大気さえも揺るがした。

 竜人はかろうじてガードしたが体が浮いた。


 エアウォークで蹴りたてて空中に止まった竜人がティナにつかみかかった。

 でも間合いの取り方はティナの方が上手い。

 軽くバックステップして絶妙の距離を空けると竜人の手は空振り、その小指を取ると同時に脇に潜り込んで体ごと捻って投げた。四方投げだ。


 竜人はこちらも逆らわず投げられた。いや、両足と尻尾で宙を叩いて跳ねている。

 両足を揃えた回し蹴りがティナの後頭部を襲う。

 ティナはとっさに小指を離して前方宙返りした。後ろに目がついてるのか?

 頭があった空間を竜人の足とティナの足が交互に通り抜ける。


 二人は同時に着地、そして二人共に回し蹴りを放っている。

 ただし竜人のはオーソドックスな右回し蹴り、一呼吸遅れたティナは内側から引っ掛けるように左足を回した。

 それで威力があるのか? ──と思ったらティナは伸ばした左足の裏を竜人の蹴り足の太ももに乗せて押さえた。

 そしてそこを踏み台に勢いよく飛び上がって右膝蹴りで顎をカチ上げた!


 ──しかし不発。

 竜人は両手のひらでガッチリガードすると同時にティナの膝をホールドしている。


 ティナはその姿勢から竜人の頭目掛けて肘を落とした。

 竜人はティナの膝をつかんだまま地面目がけて叩きつけるように投げた。

 右肘が竜人の鼻先をかすめて空振り、ティナは後頭部から落ちる──大丈夫だ、しっかり受け身を取っている。


 しかしそのティナの頭目がけて巨大な足が迫る、竜人の踏みつけだ。

 今度はティナが両足としっぽの力で斜め後ろに跳ね飛んでかわした。ティナの頭があったところの地面が弾けた。


 さかさまに跳ね飛んだティナは空中に両手をついて逆立ちした。

 えっ、それもエアウォークなのか?

 空気を捻って体を回してひっくり返った勢いを乗せて左のかかとと右のすねで連続回し蹴り、しかもマナブレードが乗っている!


 上半身をのけぞらせて左かかと蹴りをかわした竜人は、しかし右足の追撃を受けて結局バックステップしてかわした。


 竜人はその遠間から鋭い抜き手を突き込んできた。

 やはりマナブレードが乗っている。魔力の込もった指先は岩でも貫けそうだ。

 空中で逆立ちしたままだったティナはその抜き手を両手で挟み込んだ。白刃取りだ。

 同時に上から覆いかぶせるようにして両足を腕に絡めている。変則の飛びつき腕十字だ。

 竜人は間一髪腕を引き戻して脱出、しかしティナは伸ばした足からマナバースト!


 竜人はデコピンで弾かれた小石みたいに吹っ飛んでバウンドした。


 バネ仕掛けみたいな勢いで跳ね起きた竜人にティナは今度は指先から放つタイプのマナバーストを三連射、竜人は三発とも魔力を込めた手のひらで弾いた。

 即座にティナは反対の手の手刀を横薙ぎに振り切っている──マナブレードが飛んだ!

 竜人は慌ててジャンプしたが尻尾の先が切れた。


 しかし空中にいるうちに肉が盛り上がって再生している。

 何て強力な回復スキルだ……!

 さらに鋭い爪を振り抜くとマナブレードが飛んだ。ティナの技の原理を今の一瞬で見切ったんだ。

 ティナがかわした後の大地が爪の形に抉れた。


 次の瞬間には二人同時に間合いを詰めて近距離での殴り合いに移行している。


 ……かろうじて見えたいくつかの攻防がそれだ。

 間に挟まれてる殴り合い蹴り合いはもうオレの目で追えるスピードじゃない。

 魔力の乗った拳の残光が描く軌跡でかろうじてパンチを打ったことがわかるだけだ。

 お互いいったい何発殴り合ってるのか見当もつかない。


 傑出した二人の戦士の闘いにオレは瞬きするのも忘れて見入っていた。


 壊れた門から竜人が逃げ出してきて、超越者たちの戦闘を見てオレと同様に立ちすくんだ。

 さっきまでは見られなかった光景だ。


 やはりドラの一撃があっちのボスを倒していたんだろう。

 門の中に見える竜人たちは急に統率を失って冒険者が押し返している。


 それでも【超人】個体の動きには動揺が見えなかった。


 内心はわからない。でも外面的には辛抱強く、一見単調にも見える攻撃を繰り返している。

 竜人は懐に入ろうとするティナを突き放すように拳を連打、ティナはそれを捌き続けてる。

 ガードが固い。ティナが圧倒的に優勢だ。


 だからこそ、オレは竜人が反撃に出る瞬間に備えた。


 そう、現状はティナが優勢なんだ。

 一見ガード一辺倒のようだが、これはティナが着実に相手の選択肢を奪った結果だ。


 ロングレンジでのマナバーストの打ち合いは互いにノーダメージ。

 ショートレンジではティナが強い。

 ミドルレンジでは竜人に分がある、でもちょっとでも隙のある技にはティナは確実にカウンターをかぶせている。

 さらに少しでも間合いが開けばティナは分身を使っている。そして竜人は分身には対応できていない。


 竜人は決め手を欠いて得意の距離で回転の速い小技を続けるだけだ。

 あとはティナのミスを期待するしかない。

 でもティナがそんなミスをするとも思えない。


 一方のティナは竜人の魔力が尽きるのを待てばいい。

 この竜人ならそんなことは承知している。

 だったら魔力が尽きる前に勝負をかけるだろう。


 ──そこを狙う。


 オレはティナが今まで攻撃スキルを使っているところを見たことがない。

 超獣や超人には攻撃スキルがないんだと思っていた。


 違うな。

 もしかしたらあるのかもしれないが、スキルを使うより殴った方が速いんだ。


 ティナと竜人の戦いを見ていてわかった。

 このクラスの速度だとスキルを使ってもまず当たらない。

 下手をすると発動までのタイムラグの間にやられかねない。


 もし当てるとしたら発動が速くて速度も速くて広範囲に効くスキルじゃないと駄目だ。


 例えばドラの[プラズマブレイズ]は威力は大きいが発動から発射までに少しタメがあるし、火球自体も速くはない。有効範囲も狭い。

 だからボス竜人を倒す『必殺の間合い』を作るために上空からこっそり近づくと同時に落下の速度も乗せてやる必要があった。

 この竜人に使ったところで無駄撃ちだろう。


 しかし[ライトニング]なら当たる瞬間がある。

 そのタイミングが読める。


 竜人は魔力が尽きる前に恐らく最後のスキルを使う。

 しかし今の間合いでは駄目だ、スキルが発動する前にティナの攻撃が当たる。それは致命の一撃となるだろう。

 竜人はスキルを使う前に何らかの方法で適切な距離を取るはずだ。


 そしてそれはこっちの距離でもある。


 [ライトニング]は発動までも速いし相手まで届く時間も一瞬、範囲も広く威力もそこそこある。

 距離が開けばティナを巻き込む心配もない。


 竜人の注意がティナとスキルとに集中した瞬間、その瞬間なら必ず当たる。


「ドラ──」


 オレはドラの首筋をさすってタイミングを計った。ドラはオレにこたえて雷撃を溜めた。


 高速回転する連打のさなか、竜人はふいに両手で突いた。

 ティナはガードの構え、しかし竜人はその前で両手のひらを打ち叩いた。

 猫だまし、いや、両手の間で魔力が弾け飛ぶ──自爆的マナバーストだ!


 閃光と爆風が走る、ティナも竜人も両方吹っ飛ばされた。


 距離が離れた。

 ティナは再び間合いを詰めようとしたが竜人が一拍速い、何かのスキルを使おうとしている。


 ──させるか、そして今だ!


「撃てッ!」


 雷光が空気を割った。

 雷が竜人を打った。竜人のスキルが霧散した。


 雷鳴と竜人の悲鳴が耳を貫く。

 雷撃が空気を焼いた臭いが鼻をついた。


 直撃だ、さすがにこれなら──


 ……ゲッ、耐えた!

 竜人はブスブスくすぶってるがまだ動いている。


 動いてるどころか憎々しげな眼でオレとドラを睨みつけてきた。

 おい、竜人は人間と思考回路が違うなんて言ったの誰だよ! すげえわかりやすく怒ってるじゃん!


 竜人は足をたわめ、標的を変えてオレに襲い掛かってきた!


 それは本当に一瞬の出来事だった。

 逃げなきゃ、でもオレの反応より竜人の動きの方が速い──なのに、信じられない!

 目の前にティナの背中があった。


 ティナは飛び掛かってきた竜人を追い越してオレの前で立ちはだかった。


 竜人の表情が驚きに変わる一瞬より速く、空中のエアウォークを踏み台に体ごと突き上げたパンチが竜人の顎にめり込む、間髪入れず追撃の左アッパー!

 二段式ジャンプだ。竜人が飛んだ、真上に打ち上げられた。

 ティナは飛び上がった竜人の尻尾を掴んだ。そして全身で巻き込むように投げて地面に叩きつけた。

 竜人がバウンド、ティナは投げた勢いのまま前宙して両足を揃えての踏みつけ──足に魔力が乗っている──マナバースト!


 閃光が炸裂した。


 光が竜人の体を突き抜けた。

 地面が割れて砕けて飛び散った。




 ……竜人はすり鉢状に窪んだ地面の底にいた。


 超人は瀕死だった。

 上顎も下顎も完全に砕けてだらりと垂れ下がっている。

 内臓が潰れているんだろう、開きっぱなしの口の奥からゴボゴボ血が溢れてくる。

 胸全体が陥没してるのは胸骨が砕け切っているんだ。

 時々細かく痙攣してるのは呼吸しようとして、しかしできないせいだと思う。

 回復スキルの淡い光が薄れて、止まった。


 放っておいても時間の問題だろうが……。


 オレは門の近くに転がっていた槍を見た。

 黒曜石の石槍だ。竜人のどれかが持っていたんだろう。


 オレは槍を拾い上げて竜人の口に突っ込んで体重をかけた。

 鈍い手ごたえの後、槍の先がすっと首の後ろに抜けた。


 そして竜人は動かなくなった。


 みんなは大丈夫だろうか? 中の様子が気になる。

 でも今はティナのケアを優先しよう。


 ティナは震えていた──でも無傷だ。

 ……そうだろうな。


 最後のあの動き……実のところ、どうやらティナと竜人の実力差は相当あった。


 オレはティナの強さを見誤っていた。

 ティナは想像していたよりずっと強かった。


 ティナが最初から本気だったなら竜人がいかに【超人】でも相手になってなかっただろう。


 でも、相手がなまじ人型だったために戸惑ったんだと思う。ティナは人型のモンスターと戦うのは初めてだったから。

 だから相手の魔力切れなんて消極策を狙ったんだろう。


 なのにオレを助けるためにティナはつい本気を出した。

 その結果がこれだ。


 そしてティナは人に似た姿の相手を殺しかけたことにショックを受けていた。


 オレはティナをそっと抱きしめた。


「頑張ったね」

「……うん」

「ありがとう、助かったよ。ティナがいなかったら死んでた」

「……」


 ティナは無言で抱き着いてきた。


 生き残りの竜人がバラバラに逃げていく。

 オレたちを避けるように両脇を駆け抜けて。


 ティナもようやく気づいたようだ。

 体を離してオレの顔を見上げた。


「あ、みんな大丈夫かな!」

「うん。行こう」


 オレたちはアルタミラに駆け戻った。


 冒険者たちは泉の前でグリを中心に集まって山みたいになってた。

 彼らも目ざとく集まってグリのシールドに隠れて戦ってたみたいだ。

 そして泉を中心に放射状に竜人が倒れていた。


 橋頭堡のつもりだったけど、これはもう即席の要塞だな。

 いったい何匹倒したのやら。上から見たら花でも咲いてるみたいに見えるんじゃないだろうか。


 うちのパーティーの三人はグリにぐったり寄りかかっていた。

 そしてオレたちを見ると力なく手を振った。


 どうやら無事だったみたいだ。良かった……。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 今回はマジで薄氷の上を歩く並みにギリギリ首の皮一枚な勝利でしたね…。出来れば勝利を引き寄せたティナには余り思い悩んで欲しくない所ですが、はてさて? それでは今日はこの辺りで失礼…
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