調子の波に乗るサーファー
「ごっめーん!」
キャロルは顔の前でパンと手を合わせた。
女子寮に戻ったシャルたちを待ち構えていたキャロルが捕まえた。
後ろのティナが呆れ顔で見ていた。
「どうしたの?」
「実は、女子寮でライブする約束をしちゃって……バンドで」
「え?」
シャルは驚いた。あの時は全然乗り気じゃなかったのに、急にどうしたんだろう。
「ねー、やってもいいよね? お願いできないかな?」
「どういう風の吹き回し? あんなに嫌がってたのに」
「それがね──」
やはり不思議に思ったアイラが尋ねるとティナが解説してくれた。
──夕食前の女子寮の食堂はごった返していた。
明日は休日ということで探索も早めに切り上げたパーティーが多かったのだ。
食堂に入るやいなやキャロルとティナは数人の女子に取り囲まれた。
「え、何?」
「ねえ、この前ジョックでライブしたって、ホント?」
「え、うん。やったけど……」
「キャーッ!」
その数名の女子は大はしゃぎだった。
「すごーい!」
「私見に行ったけど、凄かったよー! もうすっごく盛り上がってさぁ! キャロルもカッコ良かったぁ!」
「え、そうかな?」
「そうそう! ベース首から掛けてさ、背が高いと立ってるだけでもキマるよね!」
「いやあ……。それほどでもないけど!」
キャロルはちょっと気取った顔で頭を掻いた。
「ねえ、サインちょうだい!」
「サイン?」
「だって将来有名になるかもしれないじゃん」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「いやあ」
「じゃあ私もちょうだい!」
「ま、いいけど?」
「キャー、ありがとー!」
「どういたしまして!」
「きっと来年にはアルバで演奏してるね!」
「かもね?」
「いけるいける、目指せ伝説のベーシスト!」
「超絶テクを聞かせてあげるよ」
「よっ、未来の大スター!」
「ちょっと天下取ってこよっかな?」
おだてられたキャロルが段々気が大きくなっていく様子をティナはハラハラしながら見守っていた。
そして──
「ねえねえ、女子寮でもやってよ!」
「もちろんオッケー!」
キャロルは朗らかに親指を立てた。
「──ってわけ」
「キャロル……」
呆れた顔でティナが説明するとアイラは呆れた顔でキャロルを見つめた。
「だからごめんってば!」
結局四人は翌日の夜ライブをすることになってしまった。
何故かと言えば……
「是非やりましょう」
シャルが乗り気だったからだ。
シャルはとにかく音楽が大好きで機会があれば歌って演奏する。
寮でも求められるとちっとも断らなくて夕食後はしばしば演奏会になっている。
他の三人にとっては初めてだがシャルにとってはいつもの延長に過ぎない。
「わー、ありがとう!」
「こちらこそ、やる気になってくれて嬉しいわ」
「あの、私たちの意見は……?」
「……ダメ?」
「まあ、いいけど……」
「私からもお願いするわ」
「シャルがそういうなら……」
四人は休日を一日練習に当てた。キャッツの再始動だ。
ティナは(ウィルのところに行こうと思ってたのに……)と、アイラは(シャルとデートしようと思っていたのに……)と、内心不満だったけれど。
ちなみにキャロルが一番腕がなまっていた。
夕食後の食堂に即席でステージが作られた。
女子寮といっても力持ちのジョブが多い。会場の設営もあっという間だ。
ドラムスとキーボードは後ろに下げてギターとベースのツートップの配置だ。
後ろの二人はやる気がなかったから。
曲のレパートリーがないので先日やったのと同じ構成だ。
前と同じようにアイラがイントロを弾き出して、他全員が参加した瞬間から食堂は沸き上がった。
盛り上がりを受けてシャルのギターはいつも以上に走っていたし、キャロルもテクニックは未熟ながらもやっぱりノリノリでシャルと並んでステップを刻んだりしていた。後ろの二人はテキトーに流していた。
三曲目は前と同じくシャルの独奏だ。ラブソングを情感たっぷりに歌い始めると食堂が静まり返った。
シャルは今や町でも人気のミュージシャン、演奏でギャラを取っているセミプロだ。
こんな学校なんか辞めてしまっても音楽一本で食べて行けるだろう。
ではなんでそうしないのか……?
女の子ならこの歌を聞けば誰だってわかる──だって入学したての頃に同じ曲を求められた時にはひどくつまらなそうに歌っていたのだから!
この恋愛でライバルにしたくない同級生ナンバーワンの子が自分が狙ってるのとは別の人に恋をしているというのは歓迎すべきことであったので、女子たちはみんな応援していた。
……二人を除いて。
歌が終わると同時に歓声と拍手が女子寮を揺るがした。
前に立っていた二人は大勢に取り囲まれていた。
褒められてさらに調子に乗ったキャロルが「え、次のライブ? ジョックで? うん、またやるからさ、見に来てよね!」などと答えているのをティナとアイラはものすごく冷たい目で眺めていた。




