トリュフ
寮に帰ったら玄関の脇でベルが一心に餌を食べていた。大きな骨付き肉だ。
色あいから見てじっくり茹でて柔らかくしてあるようだ。どこでもらってきたんだか。
着替えて食堂に戻ったら誰か来た。あ、アイラだ。
アイラはオレとシャルが二人でいるのを見て早速睨みつけてきた。
「変なことしなかったでしょうね」
「変なことはしてないって。ちょっとしたハプニングはあったけど」
「はあ!?」
「ちょっとしたことだって。シャルの意外な一面が見られただけ」
「何もなかったから!」
シャルは慌てて否定した。
「チ──ッス!」
「ウェ────イ!」
明日は休日だ。いつもの非モテ系男子たちもやってきた。
バサバサ……
外で大きな羽ばたきの音がした。アメリも帰ってきたようだ。
「よー、みんなお揃いだな。今日はこいつらのお祝いだからな、楽しんで行ってくれよな!」
みんなが揃ったのを察したのか厨房からレインが出て来た。
うん、確かに今日の料理はなんかすごい。
テーブルの上いっぱいにうまそうな料理が並んでいるのはいつものことだが、今日はそれに加えてかつてない馥郁たる香りで食堂が満たされている。
「確かにすごいな。金かかっただろ? 悪いな」
「それがさあ、ベルがでっかいトリュフを掘り当てたんだよ!」
ははあ、それで骨付き肉なんて食わせてもらってたのか。
「半分売ったけど、よかったよな?」
うーん……森で取れたものは自分で食べる分には問題なかったはずだが、売るのはどうだったかな?
密猟になるような気もするんだが、まあ黙っておこう。
「それでその金で食材いろいろ買ってきたんだ。まずはこれ食ってくれよ、自信作だぜ!」
喜色満面のレインはオレに深皿を寄越してきた。
中に入っているのは……何だこりゃ、トロトロのゆで卵? それとも生のまま? それに黒っぽいソースがたっぷり掛けられている。
生卵とか食べたくないんだけどな……。
「なんだ、これ」
「『温泉卵のトリュフソース掛け』! かき混ぜて食べてくれ」
「じゃあ……」
せっかくの心遣いだ、仕方ない。
オレは言われた通りに皿の中身をかき混ぜた。
黄身のオレンジとソースの黒が渦巻いてマーブル模様になった。見た目はなんか綺麗だ。
「いただきます……」
……。
…………!
「ウッメエエエエッ!」
うっま! これメッチャうっま!!
口の中で旨味と香りが爆発した!
何だこれ、何だこれ──わけがわからないくらいうまい!
「うおおおおおお!」
オレの様子をみた男共も真似して食べて、同じ様に吠えた。
……あー、よくわからんうちに飲み込んじまった。
シャルもアメリもあっという間に食べてしまって驚いている。
アイラだけはひと匙ずつすくって食べていた。
目を閉じて、香りを確かめているようだ。
「……まず、トリュフの香りが卵の臭みを上手にコーティングしているわ。いえ、むしろ良い香りに昇華させていると言ってもいいかも」
「だろ?」
「このソースは玉ねぎの類をバターで丁寧に炒めて、ワインとフォンをひたすら煮詰めて、裏ごししたトリュフを加えて塩で味を調えたものね。──それにしてもこのトリュフ! こんなに香りの強いものは初めてね。新鮮さが違うわ」
「シーズンもいいしな!」
「同じようなソースを肉に掛けたものは食べたことがあるけど、卵は初めて……。トリュフと卵ってこんなに相性が良かったのね。今まで食べた卵料理で一番おいしいかも……」
「お褒めにあずかり光栄です!」
アイラは食べながらじっくり解説してくれた。
うーん、何言ってるのかさっぱりわからんけどとにかくうまい!
他の料理もかくのごとしで、この日はトリュフをふんだんに使ったメニューが勢ぞろいしていた。
全員大いに食べて、飲んで、シャルのギターにあわせて歌って、盛り上がった。
でもティナは最後まで来なかった。
このメンバーがそろっててティナだけ来ないなんて珍しいこともあるもんだ。
もったいないな、せっかく楽しかったのに。




