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ウィル・オー・ウィスプ

 シャルとつるんでたおかげで今日は男連中には振られてしまった。


 夕暮れ時、一人で寮へ帰る途中に森の薄暗がりの中に何やら光るものを見つけた。

 何だありゃ。


 ぼんやりした光を灯すそいつは一足早く暗くなった梢の下をふわふわと綿埃のように舞っていた。

 ウィル・オー・ウィスプだ。

 空気が【光霊】のジョブを得たモンスターだ。


 魔力を送るとそいつは鉢の中の金魚が餌をねだるように体を震わせながら宙を泳いできた。

 オレになついたのか、体にまとわりつくように周りを漂っている。

 触れてみる……熱くない。ただ指先から漏れる魔力を吸収して光を強く放った。


 ──テイム。


 やってみたら簡単にテイムできた。

 ウンディーネと同じく報酬型テイムだな。


 ウィル・オー・ウィスプを引き連れてオレは寮に戻った。廊下の窓の鎧戸はまだ開かれていて暮れかかった外の光が床の木目をぼんやり照らしている。

 しかし部屋の中は真っ暗だった。いつもなら換気のために鎧戸を上げるところだが今日はまだしない。


 オレは暗い部屋の中にウィル・オー・ウィスプを放った。

 ウィル・オー・ウィスプは天井辺りをグルグル回った。


 光の粒子が尾を引いてキラキラ煌めきながら床に降り注ぐと、部屋の中は日の光を直接取り入れたかのように明るくなった。

 箱の中でうつらうつらしていたブラウニーがびっくりして跳ね起きた。


 こりゃいいな。ランプの燃料代もバカにならないと思ってたところだ。こっちの方が断然明るいし。


 ……うーん、テイマーは戦闘には役立たずかもしれないが、もしかしなくても生活を便利にするという点ではピカイチじゃないのか?

 明かりはウィル・オー・ウィスプがいればOK、ウンディーネがいれば飲み水に困らないだけじゃなく除湿も加湿もできる。

 部屋の掃除はブラウニーに任せて、後は火が扱えれば困ることはない。


 卒業したら軍人だの冒険者だのではなく宿屋の亭主になって経営できないか本気で検討しておこう。


 ----------


 昼食後校舎裏に向かう途中、女子生徒とすれ違った。

 こっちを完全に無視してたのでオレも礼儀としてあまり見ないようにした。


 しかしあんな子いたっけ?

 何というかあまり印象に残らない感じの顔だった。


 いつもの場所に行くとティナはもうそこにいた。

 自分で敷いたハンカチの上に腰を下ろして、いつものコップは石段に置いて、スカートの裾から出したしっぽの先の白いところをイジイジいじっていた。


 子供っぽい仕草が妙に絵になっている。印象に残りまくりだ。


 シャルが「綺麗」ならこの子はやっぱり「可愛い」だな。

 なので思ったことをそのまま口にした。


「昨日ぶり。ティナは今日も可愛いな」

「こんにちは。本当に調子いいんだから……」


 オレはウィル・オー・ウィスプをテイムした話をした。


「──というわけでオレはランプのヤツに言い渡してやったんだ。『ランプ、君は首だ』ってね。ランプよりずっと明るいし燃料は魔力だけでタダ同然、オレと同じ名前の可愛いやつさ」

「アハ、ほんとだ。いいなー、同室の人も喜んだでしょ」

「え、男子は個室だよ。ボロいけど。女子は違うの?」

「そうなの? 私たちは二人部屋だけど」

「へー、女子はそうなんだ。誰と一緒なの?」

「キャロルって子」

「名前じゃわからないなぁ。ってことは戦闘科?」

「そう。ジョブはパラディン、獣人だよ。髪が青くてストレートロングで──」

「あーわかったわかった。彼女か」

「あ、知ってた?」

「ティナとよく一緒にいるから覚えてた」


 すっごい巨乳で男子の間でも噂になってる子だ。身長も男子並みに高くて尻も太もももデッカくて、ティナやシャルとは別の意味で同じくらい目立ってる。


 対してティナは背が高いわけじゃない。むしろ平均より低いくらいだろう。手足も細い。

 やや短めにしたスカートの下から覗くすらりと長い足はすべすべして、触ったらもちっと柔らかそうで、膝も綺麗だ。


 都会育ちの彼女の足の形の良さはオレの田舎の農家ではちょっとお目に掛かれない。

 腰も細いしお尻もプルンと丸くて、こんなところにいないでカフェとやらの女給でもやっていたらさぞやモテたことだろう。


 その形の良い太ももに挟まれたしっぽの先をティナはまだ持ったままだった。

 以前から気になっていたので聞いてみた。


「それってどうなってるの?」

「え?」

「しっぽ。どこから生えてるの?」


 きょとんとしていたティナはすぐにカーッと顔を赤くした。


「セクハラ! それセクハラだから!」

「え、そうなの? そりゃ失礼」

「もう……」


 話題を変えよう。


「えーっと、午後からまた訓練なんだろ? どんなことしてるの?」


 ティナは毎日森にも行かず闘技場で特別訓練を受けていると言っていた。


「えー……格闘技とか。すごくつまらないの」


 本当につまらなそうだ。まあ、どう見たって格闘技やってますって感じじゃないしな。

 そんな彼女がどんなことをしているんだろう。


「格闘技って、例えば? ちょっとやって見せてよ」

「本当に面白くないよ?」


 ティナは座ったままの姿勢から軽く跳ねた。体重がない生き物みたいだ。

 着地と同時に気のない顔でアップライトに構えた。


 パン、空気が割れた。速すぎてよくわからんが左ジャブだ、多分。

 ジャブ、ジャブ、流れるようなウェイトシフトで右ストレート。多分。うん、見えん。


 右腕を引いて、ストレートのために踏み込んだ左足を軸に右後ろ回し蹴り──かと思ったら左足が飛び跳ねて追いかけるように回し蹴りを放った。

 どうなってるんだ、その動き。


 着地と同時にその脚が地面を蹴ってそのまま前方宙返り、左踵蹴りと右踵蹴りが連続して宙を切った。気軽にやるなあ。

 そして空中を踏んで──ええ?


 ティナは空中の見えない土台を力強く踏みしめて見えない相手の喉を狙った足先蹴りを放った。

 引き足がまた空中の足場を捕まえて反対の足の足先がさらに深く突き立っていた。


 ふわりと着地したティナは呼吸も乱していないし汗一つかいていない。


「こんな感じ」

「……今空中蹴ったけど、どうなってんの?」

「[エアウォーク]ってスキル」


 ティナはつまらなそうに答えた。


「あのティナさん、格闘技つまらないっておっしゃってましたよね……?」

「うん。嫌いだよ。できるだけ」


 やる気なくてもこれか……。才能の塊だな、この子。

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