飛竜
オレたちはそろそろ帰還することにした。
倉庫に行って帰りの荷物と受渡書を受け取った。今度預かったのはモンスターの革なんかだ。
これもまた向こうの倉庫で印をもらってギルドに提出すればいい、と担当の冒険者は言った。
さて、マッピングできたし帰りは飛んでしまおう、と思ったんだが……。
オレはアメリと一緒にグリに乗せてもらおうとしたんだが拒否されてしまった。
「そんなに嫌わなくてもいいじゃないか……」
「いやそうじゃなくてね……」
「学校を出るときは乗せてくれたのに」
「だってあの時はまさかこんなだとは思わなかったんだもん」
アメリは何かを恐れている様子だった。うん、ごめんね。
「なら私と一緒に乗る?」
「待って、三人は無理!」
シャルの提案をアイラが即拒否した。まあ無理だよな。
「だったら私がおんぶしてあげようか?」
「え?」
ティナの提案に今度はシャルが反応した。
何か見つめ合ってるし……。すごい緊張感だ。パーティーメンバー同士仲良くしようよ!
「ありがとうティナ、でもそれはさすがに遠慮するよ。ごめん、贅沢言った。歩いて帰ります……」
昨日の疲れが抜けてなくて歩いてても速度が出ない。
今から出発したら今度こそ暗くなりそうだけど仕方ない。
──その時にわかにキャンプが騒がしくなった。
見張り台の上の冒険者が大声で注意を促している。
「飛竜だ!」
冒険者の指さす先の空に飛竜がいた。
悠然と体をくねらせて、蒼穹の空を泳ぐように飛んでいる。
「マジかよ!」
「なんでこんなところに!?」
アルタミラの冒険者たちは慌てて武器を取って配置についた。
まだこちらに向かってくる感じではないが、様子でも伺っているのか周囲をグルっと回る軌道だ。
いつ向かってくるかわからない。バリスタが狙いをつけて警戒している。
そんな中一人だけ違う動きを見せる者がいた。
ティナだ。
「ちょっと行ってくる」
クラウチングスタートの姿勢から──ヨーイ、ドン!
一気に空中を駆け上がった。[エアウォーク]だ。
すごい速さだ、今の一瞬で飛竜との距離をもう半分に詰めている。
飛竜が反応した。その体の表面を稲妻が彩った。飛竜の目の前の空間が一瞬白んだ。
その瞬間……ええっ? ティナがまた分裂した?
ゴゴゴゴ……! 雷光に少し遅れて雷鳴が響いた。
また二人に分かれたティナの偽物の方を雷が打った。
まったく速度を緩めないまま飛竜に突撃したティナは、しかし衝突直前ですり抜けるように後ろに回った。
ティナはあっという間に飛竜の背後を取った。
そしてその勢いを殺さないまま背中から首に這い上がってしがみついて、その太い首に足を巻き付けて締め上げている。足でのチョークスリーパーだ。
飛竜は体をくねらせて暴れた。
ひっくり返って宙返りして、体に稲妻を走らせて、抵抗はしているんだけど何もできていない。
ほどなく飛竜はふっと動きを止めた。ひっくり返ったまますーっと真下に落下してゆく。
飛竜は二つの意味で落ちた。
ティナはその飛竜を空中で抱きとめて、こっちに向かって走ってきた。
「何だ、今の……」
「すごいことするな……」
目撃した冒険者たちは顔が引きつっていた。
「飛竜なんか中には入れないでくれ」と言われたのでオレたちは外に出て待ち受けた。
「ただいまー」
「お帰り。大漁だね」
飛竜はなかなかデカかった。長さだけならグリよりも長い。もし乗るとしたら三人くらいは乗れそうだ。
ただスマートな体形なので太さはグリよりずっと細い。
手足も長く、蹄がなくてその形は馬とかよりもネコに似ている。そうだ、首と尾がながーいネコ科の猛獣だ。頭は鳥とトカゲの中間みたいだけど。
口は犬みたいに長くて鋭い歯が生えている。耳の穴は耳朶が覆いかぶさって隠れているようだ。
全身が鳥とよく似た羽毛に覆われている。全体にカラフルだが特に長い尾が美しい。
翼竜なんかは腕が羽根になってるんだけど、飛竜はグリフォンと同じように両手両足があって別に翼が生えている。
羽根があるとはいっても鳥とは全然違うな。腕にも足にも羽根が生えているけど、補助翼というより飾り羽根のようだ。
「これをテイムしたらいいよ!」
「お、サンキュー」
やったぜ……! 飛竜に乗るのってメッチャカッコよくない?
オレもアメリみたいにジョブが変わってドラゴンナイトとかドラゴンライダーとかになれるかも!
テイムしてみたらジョブは【スレイヤー】だった。名前はドラメンテ略してドラにした。
アメリもアイラも興味深そうに飛竜を撫でていた。
シャルは何やら口の中で呟いていた。
「何でこんなところまで飛竜が来てるんだ?」
「うーんまあ飛べるやつだし……。たまにはそういうこともあるかもな?」
テイムされた飛竜を見物にわらわら出てきた冒険者たちは首をひねっていた。
シャルとアイラはベガ、クレアにはアメリと一緒にグリに乗ってもらった。
オレはドラに乗った。前にアメリがやっていたようにクッションを敷いて、その上に跨って、長いロープで固定してもらった。
帰ったら鞍を探してみよう。
そしてティナは[エアウォーク]で空中を走ってエンターへと向かった。
ティナもドラに乗ろうとしたんだけど、いろんな綱引きがあったんだ……。
もう半分くらい来たかな? 何もないところで突然アメリが叫んだ。
「クレア、捕まって!」
クレアが慌てて腰に回した腕にぎゅっと力を込めると、グリはほとんどひっくり返るようにして真下目掛けて突撃した。
何やってんだ!?
アメリの手の中に光が束となって凝り固まる。[ライトジャベリン]だ。
同時に森の中から何かの攻撃スキルが飛んできた。それを見たティナも下へとダッシュする。
下から上がってきた攻撃スキルとアメリが投げ打ったライトジャベリンは真ん中でぶつかって砕け散った。
押し勝ったライトジャベリンの光の欠片が流星のように地上に降り注いだ。
グリとティナはその後を追って森の中に消えた。
オレたちも後を追って降りると冒険者たちがグリの爪とティナの[サイコキネシス]で取り押さえられていた。
どうもアメリの[索敵]スキルに引っかかったぽいな。あれって人間も見えてたのか。
グリフォンと超獣の力で地面に押し付けられた冒険者たちは指一本動かせない。
事情を聴くと苦しそうな顔で答えた。
「モンスターが町の方に向かうのが見えたから……」
「二人とも、開放してあげて」
クレアに言われてようやく動けるようになった冒険者たちは体を起こして苦しそうに座り込んでいた。
それにしてもそういう誤解をされちゃうのか。
少しやり方を考えないとな。
「もうちょっと高いところを飛ぼっか」
「しょうがないね」
クレアは一方でアメリに驚いていた。
「アメリ、マッパーじゃなかったの?」
「マッパーだよ。グリフォンナイトも兼ねてるけど」
「はー、そんなジョブ初めて聞くんだけど!」
道中そんなこともあったけど、帰りは結局半日もかからなかった。
頑張れば日帰りで行けるな。モンスターたちの負担が大きいからやらないけど。
預かった荷物を納入して印をもらってギルドに報告した。
これで今回の実習はおしまいだ。
「いろいろとお世話になりました! ありがとうございました!」
「どういたしまして! また機会があったら一緒に仕事しようね」
オレたちはクレアに礼を言って別れた。




