キャンプの生活
目が覚めたら明け方だった。
板壁の外のずっと遠くから早起きの鳥の鳴き声が響いた。
オレはベッドの上で体を伸ばした。
うおっ、痛っ。体中がバキバキだ……。疲れ切ってるところに板の上で寝たからな……。
足を引きずりながら外に出て、深呼吸しながら再び伸びをした。
何か空気の匂いが違うな。オレの寮だって森のすぐ近くなんだが、やっぱりここは緑の気配が強い。
キャンプの中を散歩してみることにした。
昨日は半分意識が飛んでてよく見てなかったからな。
ブラブラ歩いてたら泉の前にティナがいた。
ティナは柔軟体操していた。うわ、体柔らけー。足を開いて座って、上半身がぺたーっと地面についてる。
スカートから伸びたしっぽがやはり地面の上でうねっていた。
「おはようティナ。朝から可愛いね」
朝起きて顔を洗ったらもう美少女なんだから獣人ってスゴイよな。
「おはようウィル。昨日はお疲れ様! 本当に疲れてたみたいだったね」
「メチャクチャ寝ちゃったよ。おかげで爽快だ、体中痛いけど」
普段のトレーニング不足が祟っている。
帰ったらもうちょっと真面目に走り込もう。
オレはティナと並んで一緒に体操した。
腕を曲げて体の横を伸ばしながら隣で足を伸ばしているティナに謝った。
「一人だけ先に寝ちゃってごめん。あれからどうだった?」
「特に何にも」
ティナは首を振った。
「私は元気だったんだけどシャルとアイラは疲れちゃっててすぐに寝ちゃったし。まだ眠ってるよ。──あ、グリにちょっかいかけようとした冒険者がいてアメリがキレてた。責任者の人に二人とも怒られて、理不尽だって怒ってたよ」
どうもアメリはアルタミラとは相性が悪いようだ。
体操しながらおしゃべりしてたら他の三人とクレアも起きてきた。
「やあみんな、おはよう」
「おはよう。二人とも早いね」
「オレは寝たのも早かったんで」
女子たちは朝食を作るというのでオレはベガの様子を見に行った。
餌をやって、昨日やらなかった分のブラシを掛けた。いつもは毎日やってるんだが昨日はもう限界だったんだ。
それからグリの様子を見に行った。昨日冒険者に攻撃されそうになったっていうし、気になったんで。
グリは自分でモンスターを獲って美味しそうに食べていた。グチャグチャでよくわからんけど竜の仲間っぽい。
まあ元気そうで良かった。
その時大門が薄く開いて冒険者が出てきた。
何故かヤギの首にロープをかけて引っ張っている。全部で十匹いる。
「おはようございます。グリ、ヤギは襲うなよ?」
グリは「もうおなかいっぱいだよ」という顔であくびをした。
「よ、おはよう! 見ない顔だな、新入りか?」
「学生です。昨日初めて来ました。──それ、何してるんですか?」
「ん、これか? 草むしりだよ。何しろここはほっとくとすぐに森に帰るからな。ヤギに食べさせてるんだ」
オレたちが見ている前でヤギたちは柵と森との間に生え始めた木の芽を無心で食べ始めた。
「あー、オレが住んでるところもちょっと気を抜くとすぐに森になるんですよね。やっぱりヤギっていいですか?」
「ヤギは木も食うし乳も絞れるし非常時には肉にもなるし、いいことづくめだ」
「へー」
「まあモンスターも狙ってくるけどな」
「それデメリットが大きすぎませんか?」
ヤギを放牧しながら冒険者はこの周りのことを教えてくれた。
「アルタミラはさらに奥にあるいくつかのキャンプへとつながる中継地なんだ」
ここを中心として放射状に探索拠点を築いているのだそうだ。
ここみたいな古代の町の跡を見つけることができれば一攫千金だ。
「昔に何があったのか知らねぇけどな、金銀みたいな重い物は持ち出せなかったみたいで結構残ってるぜ」
中に戻ってみんなが作ってくれた朝食を食べた。
さて、帰ることを考えようか……とその前に、一つ拾って持ってきていた走竜の死体のことを思い出した。
ティナが蹴り飛ばしたやつだ。これが一番原型をとどめてたんだ。
クレアも報告したいと言うのでオレたちは走竜を担いで(ティナのサイコキネシスでね)責任者のところに行った。
「ごめーん、ちょっといい?」
「おう、何だ?」
バルトは倉庫の前で物資の仕分けの相談をしているところだった。
クレアはそのバルトと立ち話を始めた。
「これ、昨日も話してたけど走竜。三番で襲ってきた」
「あんなところでなあ」
「私も変だと思ったんだけどさ」
「最近どうもおかしいな。奥の方のモンスターが溢れてきてる。何かに押し出されてるみたいだ」
「何かって?」
「考えたくないな。……正直、メガラは放棄も検討してるところだ」
「わー……。大昔もこんな感じだったのかな?」
「かもな。後はこちらで注意喚起しておく。ご苦労だった」
話を終えて戻ってきたクレアは走竜の死体を指さした。
「これでよし、と。ねえ、これどうする?」
「えーっと、食べます?」
「こいつら臭くて食えないんだよね」
「肉食っぽいですしね」
「でもこの皮は需要あるよ」
走竜の表面には小さなウロコがびっしり生えていて、撫でると手にザラザラした。
「鎧にも使えるけど一般人もカバンなんかにするよ」
「オレもベルトでも作りましょうかね」
「何よあんた、冒険者の癖にオシャレだね。後はこの爪かな。好事家がペーパーナイフにするんだ」
「肉でも切れそうですけど」
「衛生的にちょっとね。どう、バラす?」
「うーん、竜はやったことがないですね」
オレの家は農家だったので豚や鶏なら解体できるんだが竜はやったことがない。
「教えてあげようか」
「! それは是非お願いします!」
こうしてクレア先生の走竜解体講座が始まった。
ところでうちの女子たちは都会っ子が三人と音楽家だ。解体を正視することができず遠く離れてどこかへ行ってしまった。
二人で一時間ほど頑張って走竜はパーツごとに綺麗に解体された。革はなめしたら上物になりそうだ。
中身はすっかり腐ってたけどね。すっごく臭い。
「この中身ってどうしてるんですか? 食べないんですよね」
グリだって獲物は新鮮なやつしか食べない。使い道が思いつかない。
「捨てるしかないんだけど、ここはゴミ捨てがまた大変でねー……。餌になるものは特に。近くに捨てるとモンスターが寄ってくるし、なるべく離れたところに捨てに行くんだけど……。臭いし危険だし、ここの仕事で一番嫌がられるのがゴミ捨てだね」
クレアが本当に嫌そうな顔をしているのを見て、オレはちょっとしたアイデアを閃いた。
「あー……。うちが力になれるかもしれません。ちょっと仲間に聞いてみます」
オレはかくかくしかじかとここの事情を説明してアメリにお願いした。
「グリで遠くに捨ててきてくれないかな?」
アメリはとても嫌そうな顔をした。
「私だってグリにそんなもの運ばせるの嫌なんだけど?」
「そう言わずに頼むよ。ほら、戦闘以外にもこんなことに役に立ちますよーってアピールになるだろ? その方がグリも受け入れてもらいやすいじゃん」
アメリは白い目でオレを見た。
「……ウィルって本当に口が上手だよね。そうやってあの二人もたぶらかしたの?」
「たぶらかすって……。人聞きが悪いなぁ。本当にそんなつもりはなかったんだよ、最初は。ただ可愛い子に声を掛けてみただけで……」
「今は?」
オレは頭をかいてごまかした。
アメリはブツクサ言いながらも結局受け入れてくれた。
箱に入れた生ゴミをグリに掴ませてずっと離れたところに投棄したらクレアを始めとして大変に喜ばれた。
「あんたたち最高だね!」
「卒業したら絶対にここに来いよ!」




