エンター
早朝の訓練場にオレたちは集合していた。
季節は夏だ。この時間でももう明るい。
オレの住んでる寮から北東に向けて一時間ほど歩いたところにエンターという村がある。
冒険者たちの出発拠点だ。
学校側から森の奥に向かおうとすると途中道もない山を越えていかなければならない。
エンターからだと山の切れ目を縫った平坦な道を最短ルートで進むことができることから森の入り口になっている。
アルタミラ・キャンプは位置的にはウェスタから見てほぼ真西、徒歩で八時間ほどの行程だそうだ。
もっとも、慣れた冒険者の話なので学生ならもっとかかるだろう。
だから早めに出発することにしたんだ。
「先を越されたか」
「チクショー、おめでとう!」
見送りにやってきたルークたちが悔しがっていた。
今回は学校から飛び立つ予定だったのでベルたちはお休みだ。レインと一緒に寮を守ってもらっている。
グリとベガに分乗して、ティナは空中を歩いて、手を振るルークたちに見送られてオレたちは飛び立った。
誤解されても困るし村の手前で降りて、オレたちは歩いてエンターに向かった。
グリたちには冒険者に攻撃されないように離れたところを飛んでいてもらうことにした。
エンターは既に雑然としていた。
道を行きかう冒険者、立ち話する冒険者、装備や荷物を確認している冒険者……。
プロの冒険者がいっぱいだ。
森の際にある村って言ってもオレの故郷みたいな農村じゃない。
冒険者じゃない人たちも農民には見えない。
村全体の雰囲気がガヤガヤ忙しそうで……そうだ、ちょうど近くの町にあった問屋街みたいな感じだ。
場違いなオレたちは都会のおのぼりさんみたいに目立ってて、通りすがりの冒険者たちからジロジロ見られていた。
オレたちは学校で言われた通り村の入り口近くにある建物の門を潜った。
ここが冒険者ギルドだ。
初心者丸出しでキョロキョロしながら依頼受付カウンターに向かって声を掛けた。
「すいませーん、ここに来るように言われたんですけど」
「何だ、新人か? ……おっ、学生さんか。今年一番手だな。頑張りなよ」
「はい。よろしくお願いします」
オレたちは受付の職員から簡単なレクチャーを受けた。
まあ学校で教官たちに言われたのとほとんど同じだったけど。
「三番の倉庫に行ってこの札を見せろ。そしたら荷物が出てくるから、それをアルタミラまで運べ」
「はい」
「初回だけ案内人をつけるからあとはそいつに聞いてくれ」
「わかりました」
オレたちは札を受け取ってその案内人とやらが来るのを待っていた。
「ヘッヘッヘ……」
そしたら横から笑い声が聞こえていた。
何だ?
見ると冒険者たちがこっちを見て笑っていた。
男、男、女の三人組だ。
「ヘッヘッヘ、こんなかわいらしいお嬢ちゃんが何しに森に行くって言うんだ?」
「そうでしょう、うちの女の子たち可愛いでしょう」
自慢すると三人はオレのパーティーメンバーを感心したように眺めた。
「いや、マジで可愛いな……」
「別嬪さん、別嬪さん、一つ飛ばして別嬪さんやね」
「あ?」
アメリが半ギレで凄んだ。
「いやジョークやで、ジョーク。そない怒らんでや」
「怖いなぁこの子」
「まあこっち来い。おごっちゃる」
オレたちは三人に連れられてテーブルについた。
冒険者の男が受付とは別のカウンターに何やら注文するとソフトドリンクが人数分出て来た。
「お酒とか飲まないんですかー?」
ティナが聞くと三人は一斉に首を振った。
「お嬢ちゃん、馬鹿言っちゃいけねえ。冒険者は命がけなんだ」
「せや。仕事前に飲んでられへん、危ないわ」
「その分仕事あがりの一杯がこたえられねぇってワケよ」
「なるほど」
「さて……。お前ら、何しに森に行くんだ?」
「それはアルタミラ・キャンプまで物資を運びに──」
しかし冒険者たちはまた首を横に振った。
「そういう意味じゃない。人生に目的はあるのか?」
「こんなヤクザな商売やってちゃいかんぞ? 本当に。せっかく可愛く生まれてきたんだし」
「あんたらまだ若いんやしいくらでも他の道探せるやろ。森に行っとる場合やないで」
「いやーそれはそうなんですが、とりあえず卒業して冒険者にならないと学費が返せなくて……」
「世知辛れぇ……」
「金がないのは首がないのと一緒やね……」
何だか暗くなってしまった。
気を取り直すように咳払いして男冒険者が聞いてきた。
「ところでお前、ジョブは?」
「テイマーです」
「テイマー!」
おー……。
三人はそろって感嘆の声を上げた。
意外な反応だ。バカにされるかと思ったんだが。
「ってことはお前が学生の癖にグリフォンテイムしたっちゅう噂の新人か」
「え、何で知ってるんですか?」
「有名人やでアンタ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。おい、後でグリフォン見せてくれよ」
「待てよ……ってことはこっちのピンクの髪の子は【超獣】か!」
「あれ、私のことも知ってるんですかー?」
「当ったり前よ。超有名だぞお前」
「お前ら今年の学生のトップと二位のカップルなんだってな」
「将来有望でええことや」
「カップル! えへへ……」
ティナは両手を頬に当てて微笑んだ。
「お前らは?」
「マッパーです」
アメリが自分のジョブを(半分だけ)言うと冒険者たちは色めき立った。
「マッパー!」
「キタコレ」
「こいさんさっきはすまんかったね」
冒険者たちは急に低姿勢になった。揉み手でも始めそうな勢いだ。
「お前ら卒業したらうちに来いよ!」
「うちは大手だから探索も安全重視で進められるし福利厚生も充実してるぞ」
ニコニコ笑顔で勧誘されてしまった。
「で、他二人は?」
「プリーストです」
「バード」
アイラは普通に、シャルはぶっきらぼうに答えた。
シャルはさっきから不機嫌そうだ。
「はあ?」
「プリースト?」
「バードだぁ?」
しかし冒険者たちは二人のジョブを聞くと急に顔つきを険しくした。
「何か問題でも?」
「当たり前だバカ! プリーストがこんなとこに来るな! 町で医者でもやってろよ!」
「冒険者に何の夢を見てはるんか知らへんけどな、危ないことばっかやのに金にはならんメシはまずい、寝床も汚ないもんや。がしんたれのなるもんやで?」
「医者なら全部手に入るだろが」
「それは、その……。いろいろと事情がありまして……」
「バードも同じだ! 冒険者なんか今すぐ辞めて大都会で音楽家を目指せ!」
「あっ、はい……」
それはまったく同感です。
「ったく……お前ら将来についてもう少し真面目に考えろよ?」
「俺がお前くらいの頃にはな──」
説教タイムが始まってしまった。
二人はごもっともな高説をうなだれつつ伺っていた。
「あの、その辺で勘弁してやってください」
オレが止めると冒険者はチッと舌打ちした。
「まあそういうわけや。人生見つめ直したり」
「ところでさ、超獣が実際どんだけ強いもんか、ちょっと見せてくれよ」
冒険者の一人が小さいテーブルを持ってきて肘を乗せた。
腕相撲だ。
「じゃあちょっとだけ」
ティナはその男と手を組んだ。
オレは二人に合図を出した。
「行きますよ。レディー、ゴー!」
「ふんっ! ぐぬぬ……」
冒険者は全力で体重をかけたがティナの手は微動だにしなかった。
かたや必死の形相だがティナは涼しい顔だ。左手を垂らしてしっぽをプラプラさせて、本当に腕の力だけでやってる。
ティナが少し力を加えると手はゆっくりと冒険者側に傾いていった。
「クソッ! ダン、アンリ、手伝え!」
「おう! ──うおっ!」
「何やこれ!」
三人がかりで全身の力で突っ張ってるのに腕が傾いてゆくスピードは変わらない。
「気合い入れていくぞ!」
「せーのっ、おあっ!?」
バコン!
とうとうテーブルが壊れて三人組はひっくり返った。
「何やってんだお前らぁ!」
「す、すいませぇん!」
三人はギルドの職員に滅茶苦茶怒られていた。




