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新曲

 結局新曲はできなかった。


「もう諦めるわ……」


 シャルは落ち込んでいた。

 オレが余計なことを言ったせいで無駄足を踏んで……。


 うーん、さすがに罪悪感を感じてしまう。

 ここは男として責任を取らなければ。


「──シャル、右手の爪を右手で切るにはどうしたらいいと思う?」

「え?」


 シャルは少し考えた。


「できないわ」

「チッチッ。簡単さ、他人に切ってもらえばいいんだよ」

「何それ。そんなのあり?」

「爪を全部自分で切ろうと思うな、オレを頼れ! オレは音楽のことは役に立たないかもしれないけど、それでも頼ってくれ」


 カッコつけてシャルの手を取ったら横からアイラがオレを押しのけながら言った。


「はあ? ド素人のあなたが何を言ってるのおこがましい。シャル、私を頼って!」

「二人とも、ありがとう……」

「私も! 私も! 作曲とか全然知らないけど流行の歌なら歌えるよ!」

「え……じ、じゃあ私も……?」


 ティナたちも手を挙げた。


「よし、みんなでやろう! だってみんなの曲だもんな!」


 そしてオレたちはワイワイ曲を作りだした。


「ねえ、ある恋の歌のメロディ入れてよ! 『言葉ではなくこの歌であなたに思いが届いたら~♪』のところ!」

「ええ。でもそのままはダメよ?」

「えーっと、私の故郷だとこういうのが流行ってたんだけど……」

「あら、素敵な曲ね」


 オレは下手なギターを奏でた。


「なあ、このフレーズかっこよくね?」

「別に? それならこうよ!」


 アイラが即座に訂正したメロディを奏でるとシャルがそれを五線譜に落とした。


 オレたちはああでもないこうでもないと音符を連ねた。

 もちろん全然形になってないんだけど、シャルはそれを訂正して曲の形にしていった。


 めいめい好き勝手にぶち上げる全然調子の違う曲をつないで、不自然じゃないように音を直して──


 そして翌朝──


「できちゃった……」


 シャルは呆然としていた。


 盛り上がってつい徹夜しちゃったよ。

 ティナは椅子をくっつけてその上で丸くなってるしキャロルはテーブルに突っ伏して寝落ちしちゃってるけど。


 とにかく賑やかな、元気の出る曲になったと思う。短いけど。


「本当にこれでいいのかしら?」

「いいんじゃない? なんて言うかこう……すっごくオレたちらしい! って感じだし」

「そうね。……ウィル、ありがとう」


 何だか見つめ合う形になってたら眠気と興奮が混じってテンションがおかしなことになったアイラが間に割って入った。


「キエエエエ! ──じゃあ一つ足りないけど、この二曲の演奏で申し込みましょう」


 アイラはそう言ったんだけどシャルは首を横に振った。


「少し短いでしょう?」


 そしてシャルはオレたちに頭を下げながら言った。


「みんなありがとう。三曲目は私が責任持って演奏するわ」




「曲ができました」


 オレたちはジョックへ行った。

 今日は折よくオーナーの老紳士がいて面会できたので、ライブ用の新曲ができたことを報告した。


「その方たちがメンバーですか? 全員獣人とは珍しいですな」


 あ、そういえばメンバー集めも要求されてたんだった。

 案外あっさり見つかったんで忘れてた。


「それでは是非聞かせてください」


 Oh……。


 そりゃそうだよな。

 例えばオレが商店の経営者だったとして、営業さんがうちの商品置いてくれって言ったら見本見せろって言うわ。


 でも準備ができてるのはシャルだけだ。

 キャロルとアイラは自分のパートもまだ把握できてないしティナは一回叩いてもらわないと真似できない。


 仕方なくギターパートだけ聞いてもらったんだけど、オーケーが出た。


「なるほど、体が勝手に踊り出しそうになる楽しい曲ですな。バンドでの演奏が楽しみです」


 そして相談の結果十日後のライブが決定した。

 そこしか空いてないそうなんだ。十日で演奏できるようになるかなぁ……?


 四人はオレの寮に泊まり込んで練習した。

 ここならどんなに音を立てても迷惑にならない。


 セットは学校から借りてきた。

 普通なら運ぶのは大変だが、オレにはルドルフがいるからな。ポケットに入れて一発だった。


 睡眠時間を削れるだけ削って、起きている間はひたすら練習を続けた。

 食事を作る時間ももったいないので三食買ってきたパンを温めるだけだ。

 あ、ティナは多少余裕があったのでスープやらなんやらを作ってたけどね。


 こういう時いつもなら料理してくれるレインはまだ帰ってこない。

 あっちはあっちで無事なんだろうか。

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