奇跡の歌声
三日ぶりにマルから合図があった。シャルだ。
向こうのマルと意識をつなぐとシャルたちは山の中の小さな家の前にいた。
『今から帰るわ』
オレはマルにこくりとうなずかせた。
オレたちは南の空に気を配りつつ木を切っていた。
三十分くらい待ったかな?
湖の向こうからペガサスが飛んでくるのが見えた。
上には二人乗っている。シャルたちだろう。
二人に向かって手を振るとペガサスの上の小さな人影がひとつ、手を振り返した。
「お帰り」
「ただいま」
ベガを降りたシャルは少し疲れた様子だった。
「どうだった?」
聞いてみたら二人は顔を見合わせて、困惑とも拍子抜けともつかない何とも微妙な表情を作った。
「どうしたの?」
「それがね──」
シャルの話によればこうだ。
二人はあの日南の山を目指して飛んだ。
お目当ての山の周りをぐるりと飛ぶと、中腹に木々に埋もれるようにして一軒家が隠れているのを見つけた。
訪ねるとそこには中年女性が一人暮らししていた。
ペガサスで前庭に降り立った二人はちょうどそこにいた女性に尋ねた。
『あなたが作曲家ですか?』
彼女はそれには答えずシャルをジロジロ眺めたそうだ。
『お前はバードか?』
『そうです』
『曲を教えてほしいのか?』
『そうなんです!』
さらに頭を下げて頼むと彼女は少し考えて了承した。
『いいだろう』
ライナと名乗った女性はシャルに猛特訓をつけた。
過酷なボイストレーニングで出血した喉を癒しながらアイラは『もうやめましょう』と言ったけれど、シャルは最後までやり通した。
「そしてついに伝授されたのがこれ」
シャルは湖に向かった。
そして叫んだ。
何も聞こえない──と思った次の瞬間湖面が爆発した。
湖がパンケーキみたいに膨れ上がって轟音と共に破裂した。激しく広がった音というか衝撃がオレを叩いた。
湖面にぽっかり空いた大穴に水が落ち込んで、また大きく水柱が跳ねた。
オレたちは揺れ続ける湖面を呆然と眺めていた。
「……ナニコレ?」
「バードの攻撃スキル[ミラクルボイス]」
このスキルを初めて使用して山の木を吹っ飛ばしたとき、二人はやはり呆然としたそうだ。
ライナという女性は満足だったみたいだが。
『我が秘曲[ミラクルボイス]! 使いこなせ』
そしてライナは姿を消してしまったの──とシャルは言った。
「……作曲家じゃなかったの?」
「作曲家じゃなかったの」
シャルは沈痛の面持ちでうなずいた。
アイラが凄い剣幕で詰め寄ってきた。
「あなたがガセネタをつかませたせいでとんだ寄り道だったわ!」
「ご、ごめん!」
「いいの。課題だった攻撃スキルも手に入ったし……」
「姿を消したって、それまさか[忍び足]か!?」
レインが横から食いついてきた。
「わからないわ。でも目の前でパッと消えちゃったの」
「そうね。いきなり姿が見えなくなって驚いたわ」
「そうか……」
二人が口々に答えるとレインは考え込んでしまった。
その日のうちにレインはマックとマルスを道連れにして三人で山に向かった。
その謎の作曲家(?)と会って暫定[忍び足]スキルを教えてもらうために。
ミラクルボイス……少年ジェットの必殺技。
ただしこのエピソードの元ネタは怪盗アマリリス版の方です。




