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ネコミミカルテット

 翌日、オレたちはバードの訓練と言って音楽室を借りた。あながち嘘でもない。


 ここは軍学校なので音楽室がある。行進に音楽はつきものだからな。

 もっとも、士官学校の方なら必須だろうけど、こっちではあまり需要がない。


「へえ、そんな話になってたのか」


 昨日のことを説明するとレインは座っていた椅子を斜めに傾けながら相槌を打った。


「というわけで冒険はしばらくお休みだ。悪いな」

「いいよ、どうせ先生が捕まらないし。どうしたもんかなー……」

「そっちも考えないとな……」


[忍び足]スキル、他に使える人はいないのかね?


 シャルたちは楽器を調整して練習を始めようとしている。


「一回だけ! 一回だけだからね!?」


 渋々自分のベースを持ってきたキャロルは不承不承ながらもバンドに加入してくれた。


 とにかくこれでスリーピースバンドの形ができた。

 ギター兼ボーカルはシャル、ベースはキャロル、キーボードはアイラだ。


「……あれ? もしかして私だけ仲間外れ?」


 それぞれの楽器を手にした獣人仲間を見たティナが呆然と呟いた。

 オレが留守にしていたので昨日は教官と訓練していたんだ。


「待って、何でみんな楽器なんてできるの?」


 まあ庶民は普通楽器なんて縁がないよな。

 オレだってシャルに教わるまで触ったこともなかった。


「私の父って軍人なんだけど、部下の人がよくうちに来て……。その人たちに教えてもらったの。軍隊で流行ってるんだって」

「花嫁修業でさせられたの」


 キャロルは恥ずかしそうに、アイラは嫌そうに答えた。


「うー……」


 ティナは椅子の上で体育座りして丸まった。


「では曲の練習と一緒に基本的な技術の底上げもしていきましょう」


 バードが全員そうなのかは知らないが、少なくともシャルのスキルは曲と関連付けられている。

 例えば[奪魂]を発動したかったらあの古い楽譜の曲と一緒でないとできない。[ステータス上昇]に使ってる行進曲では発動しない。


 だからシャルのライブの一曲目は大抵[高揚]がかかるお馴染みの古典から始まる。

 今回も一曲目はいつもの曲から始めようということになっていた。


 アイラは一応通して弾けるらしい。


「イントロはアイラに任せるわ」

「責任重大ね!」

「キャロル、リズム隊は自信を持って。あなたのベースが曲全体のテンポを支配するの」

「はいぃい!」


 シャルの指導の元二人が一生懸命練習しているのを黙って見ていたティナはポツリと呟いた。


「何か足りないような気がする」


 シャルの耳がピクッと動いた。


「何かって、何?」

「えー? 昔見たバンドは鐘と太鼓を叩いてる人がいたような……」

「ああ、そういうこと。ドラムスね」


 シャルは使われることもないまま奥に鎮座していたドラムセットを指さした。


「そうそう、ああいうの! ねえ、やってみせてよ」


 ティナはスティックを取って来てシャルに渡した。

 シャルは不思議そうな顔でドラムセットを前に座った。


「じゃあアイラ、やってみましょうか。1、2──」


 アイラの演奏に合わせてシャルは一曲通して叩いた。

 さすがというかなんというか、ドラムもできるのか、シャル。逆に何ができないのか知りたい。


「ふーん、なるほどなるほど。じゃ、今度は私が叩くね」

「? 一回見ただけでできるわけないじゃない」

「まーいいじゃん。試しにやってみてよ」


 ティナはシャルと場所を替わった。

 シャルは機嫌が悪そうだ。多分音楽を馬鹿にされたような気がしてるのだろう。


「~♪」


 スティックを軽く握ったティナはゴキゲンでドラムを叩いた。

 ドンッ! スティックが跳ねて、乾いた音が鳴った。


「えっ」


 驚くシャルをしり目にさらに逆の手でシンバルを叩く。

 シャン! これもいい音だ。


「いつでもいーよー」

「じゃ、じゃあ行くわ。1、2──」


 今回の編成ではこの曲はまずはアイラのソロから始まる。

 シャルの合図でアイラが弾き始め、途中からベースが加わる。


 音が次第に高まっていき──今!

 ギターとドラムが同時に参加した!

 ギターが唸りを上げドラムの上でスティックが暴れまわりビックリしたキャロルが音を外した。


 おお、演奏になってる!


 ティナの技術は目を見張るものがあった。

 というかシャルのドラムそのままだ。完コピだ。


 結局三人の演奏の裏側でティナは一曲叩ききった。


「おおおおお……」


 パチパチパチ、レインもアイラもキャロルも手を叩いている。

 オレも無意識に拍手を送っていた。スッゲ。


「フフン、どう?」


 ティナは得意げだ。


「嘘でしょ……」


 シャルは愕然としている。


「何でできるの……?」

「えー? 楽器わからないから音楽じゃなくて筋肉の動きをトレスした」


 一曲分の動きを覚えたのか……。

 というか単に動きを真似するだけじゃなくて手足の長さの差を考慮に入れて修正もしてるよね?


 さすが超獣、理外の攻略法だ。人間業じゃない。


「私も仲間に入れてよね!」

「もちろんだよ!」

「ティナってすごいのね」

「私、要らなくない?」

「信じられない……」


 シャルは口の中でブツブツ音楽というものに対する哲学的な問いを発している様子だが、ともかくこれで四人目が加入した。

 ドラムはティナだ。


 思いがけず猫耳四人楽団が誕生してしまった。

 うーん、ビジュアルだけでもう流行る予感がする。


「そうだ、バンド名はどうする?」


 何の気なしに聞いたら四人は顔を見合わせて口々に意見を述べた。


「ピーチ・ガールズとか?」

「ニャートルズはどうかな?」

「私はプリティ・フェイスで!」


 アンタラ、キッズ、マソソソ・マソソソ、エタルナ、傑作バンド──ダメだ、パロディしか出ない。


「偏差値30の大喜利はやめましょう」


 パンパン。アイラが手を叩いて止めた。

 率先してやってたのに。


「ウィルは何か思いつかない?」

「そうだな……」


 シャルに意見を求められたオレはちょっと考えて、四人を一人ずつ示して言った。


「キャロル、アイラ、ティナ、そしてシャルのイニシャルを取って『キャッツ』はどうだろう」

「どういう意味なの?」

「特に意味はないけど。何故か君たちにはピッタリのような気がするんだ」


 結局他にいいアイデアも出なかったのでそれでいいじゃないかということになった。


「反対! 反対!」


 アイラだけは執拗に反対してたけど。

 キャロル(Carol)、アイラ(Ayla)、ティナ(Tina)、シャル(Shall)のイニシャルを取ってキャッツ(CATS)。

 この世界で使われている文字は現実のアルファベットとは違う設定ですが、そこはご容赦ください。

 あとシャルのイニシャルはCじゃないのかというのもごもっともですが勘弁してください。

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