ジョック
翌日オレたちは約束通りジョックを訪ねた。
店のことを知ってる人がいて良かった。
完全に信用したわけじゃないがまるっきり嘘でもなさそうだと判断した。
裏手の関係者用の出入り口を叩くとスタッフが出てきて、オレたちは事務所に通された。
しばらく待つと昨日の老紳士がやってきてオレたちに座るように促した。
「いや昨日はあなたの演奏を聞いて年甲斐もなく興奮いたしましてな。事情もわきまえずつい路上で声を掛けてしまいました。申し訳ない」
テーブルの向こうに腰かけた老紳士は上手にリップサービスを交えつつ謝罪から入った。
さすがプロのスカウトマン、参考になるなあ。
「実に素晴らしい。この町から新しい音楽が生まれたかと思うと感動に震えております。いえ、この店でも最近はああいう演奏をする若手が増えておりましてね」
「そうなんですか?」
「そうなのですよ。そしてあなたの演奏がオリジナルだと聞いて見に行ったのです。いやもう、技術も情熱もうちの若手とはレベルが違いました。是非あなたにもここでプレイしてもらいたい! そしてあわよくば、全国にあなたの音を広めてゆきたい。その手助けができれば──とまあ、夢を見てしまったのです」
老紳士は熱心に語った。そしてこう続けた。
「ただし、出演には条件があります」
──そら来た。
どんな無理難題を言い渡されるのかとオレたちは身構えた。
「まず、あなたの曲ですが、古典の編曲ばかりですな」
「はい、私のオーディエンスは音楽のことをあまり知らない人が多かったので、有名な曲をベースにしたものがほとんどです」
「なるほど、そういうことでしたか。しかし私の店のお客様は耳が肥えています。ですから誰も聞いたことのない曲の方が喜びます。できれば誰のものでないあなたの曲を聞きたいですな。それが一つ」
「え、その、つまり……作曲ですか!?」
シャルは目を大きく見開いて驚愕した。
老紳士は首肯した。
「然り。それともう一つ。私の店のプレイヤーは基本的にバンドなのです。ギターソロが悪いとは言いませんが、できればメンバーを揃えていただきたいのです。今後も共に音楽を続けて行ける仲間を。こちらはどうしても見つからなければ紹介します」
その後は演目は三曲、出演料がこれこれとビジネスの話をして解散になった。
まあ出演が本決まりになれば、との条件付きではあったけど。
老紳士はにこやかに笑いながらオレたちを見送った。
「あなたならきっと期待に応えてくださると確信しておりますよ」
オレたちは学校に帰って来た。
うーん、音楽に対する愛と情熱に溢れた紳士だった。なんかメチャいい人だった。
疑った自分が恥ずかしい。
でもシャルは頭を抱えている。
「いっそお金の話をされた方が楽だったわ……」
「作曲ってそんなに難しいの?」
「演奏とは別物よ」
作曲のことはよくわからんけど、難しいというならとりあえず後回しにしよう。
課題も後回しだな。シャルは音楽で食べて行けるなら冒険者なんかよりそっちがいい。
せっかくのチャンスだ、乗るしかない。
まずはできることから始めよう。
メンバー勧誘だ。
以前シャルはアイラとキャロルとでバンドを組めたら、と話していた。
そのことを話したらアイラは感激してシャルの手を取った。
「そんなに私のことを思っていてくれたなんて……!」
「お願いできるかしら」
「あまり自信はないけど、頑張るわ!」
「ありがとう、アイラ」
次はキャロルだ。
探したら森に出かけたということだったのでオレたちは訓練場で待った。
夕暮れまでに各パーティーは順次帰ってきた。
オレは仲のいい奴らを見つけては情報をかわした。ルークのところとか。アイラとあっちの女子たちは複雑な顔をしていた。
「あ、来た」
「キャロル、ちょっといい?」
ようやくキャロルたちのパーティーが帰って来た。
オレたちはキャロルを捕まえて話をした。
「──というわけでバンドメンバーを探してるの。お願いできるかしら」
「無理無理無理! 絶対無理!!」
シャルの勧誘をキャロルは首と言わず手と言わず全身を振って拒否した。
キャロルのパーティーメンバーたちは感心してたんだけどな。
「へー、キャロルって楽器できたんだ」
「できない! できない!」
反射的に否定する機械みたいになってるキャロルを無視して彼女のパーティーメンバーと交渉した。
「どうだろう、キャロルさんを貸してくれないかな?」
「えー、でもキャロルがいないとタンクが不在になるし」
「攻撃力も不安だし」
「うんうん! だよね!」
「そういうことなら借りてる間は代わりにうちのヘルハウンドとリングヘイローを貸すよ」
オレはベルとハローをずずいと前に押し出した。あとマルも。
あっちの連中は興味深そうにオレのテイムモンスターたちを覗き込んだ。
「おお」
「これで攻撃力も防御力もカバーできる。おまけに回復もできる。それとどうしても危ない時には、このマルファスに合図すればなんとグリフォンが救援に来る」
「おおー……」
ちょっと離れて相談を始めたメンバーたちはすぐに戻ってきて、そろって親指を立てた。
「オッケー」
キャロルはショックでよろけた。
「みんなひどくない!?」
「だってジョックだろ?」
キャロルの仲間の男子生徒が言った。
「知ってるのか?」
「聞いた事があるだけだけど。メジャーデビューの登竜門みたいなとこなんだろ?」
「そうなのか」
「せっかくのチャンスなんだから頑張ってきなよ」
その男子生徒はキャロルの肩をポンポンと叩いた。
「むーりー!」
「まあまあ」
「それじゃちょっと借りるね」
「頑張ってねー」
「みんなありがとう。ライブの時は招待するから」
「絶対行く!」
「やああああ!」
足を踏ん張って抵抗するキャロルをオレたちは引きずって連行した。
キャロルのパーティーメンバーたちは優しい笑顔でハンカチを振っていた。




