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テイマー・バードが兵隊ならば、蝶やトンボも鳥のうち

 午前中は座学だが午後の授業は実習だ。


 スキルは持っているだけでは宝の持ち腐れだ。使わないと成長しないし、他のスキルに発展していかない。つまり実戦を積む必要がある。

 そのため生徒たちには実際にモンスターと戦闘することが義務付けられている。


 といっても最初の一か月は訓練場という名の校庭で走ってばかりだったけどな。

 それから教官に率いられて森の中へ入った。


 周囲を教官たちに固められたオレたちは森の奥へと一時間も踏み入った。


「学生が入っていいのはここまでだ」


 教官が示した先に頑丈なロープが三本、柵のように張り渡してあった。


「このロープの手前なら危険なモンスターは出ない」


 教官はそう言った。

 それから一か月の間、順繰りに引率を受け持った教官たちはサバイバル技能やモンスターの習性といった実践的な知識を教えてくれた。


 この間にオレはモンスターを一つテイムした。

 ウンディーネってやつだ。神が水に【水霊】のジョブを与えた状態だ。


 森の中の給水所になっている水たまりみたいな泉で、ある時変なものを見つけた。

 そいつは不定形の水の塊のような姿をしていて、宙をふよふよ漂っていた。

 移動によってクラゲのような姿になったかと思うとその触手がちぎれて水玉になり、後を追いかけて再びくっつくのだ。


 ウンディーネだ。


 この手の精霊系モンスターは魔力を報酬として与えるだけでテイムできる、と手記に書いてあった。テイマーの基本だそうだ。

 オレは泉に近寄った。ウンディーネは逃げない。それどころか勝手に近寄って来た。


 手を伸ばすと指先が入った。空中にあるのに水面に指を突っ込んだような感触だ。

[魔力共有]スキルでこちらの魔力を融通してやるとウンディーネはオレの指先から魔力を吸って嬉しそうに震えた。


 ──テイム!


 簡単にテイムできた。

 モンスターがみんなこんな感じだと楽なんだけどなー。


 ウンディーネはオレになつくみたいにまとわりついた。服に触れても濡れなかった。変な感じだ。

 今のところまだ大したことはできない。空気中から水を取り出したり飲み水を浄化したりすることができるくらいだ。


 いや、それって結構すごくない?


 ----------


 教官の引率による実習はまた一か月間続いた。

 その後はいよいよお待ちかね、生徒たちでパーティーを組んで森に入る本当の実習だ。


 森に入るパーティーは安全のため五人以上で組むことと定められている。

 一人だけで入ろうとしても許可が下りないので、生徒たちは思い思いに仲間を勧誘してパーティーを組む。


 これまでの実習でオレたちはお互いをよく見ていた。

 そのため同じ支援科の生徒でも需要には差が出た。


 例えばベルナ、【メディック】というヒーラージョブの女子生徒は支援科では一番人気だ。


 回復役は冒険者パーティーには必須だが、単に回復役だからというだけじゃない。

 垂れ目の左の目じりの下にほくろがあって下唇がぷっくりしてて、同い年とは思えないような色気がある。何より胸がデカい。

 ベルナは戦闘科の男どもからチヤホヤされてサークルの姫の座に君臨している。


 しかしテイマーというのはまるで需要がなかった。

 びっくりするほど人気がなかった。


 まずテイマーに何ができるか確認しておこう。オレ自身に戦闘力はない。

 戦闘には使えないが牛や馬、あるいは移動に使える魔物なら扱うことができる。


 外れジョブのテイマーとはいえ輜重輸卒くらいには使えるというわけだ。


 しかし輸送なら【ポーター】という完全上位のジョブがある。

 例えばオレが荷物を運ぼうとしたらまず馬がいり、馬車がいる。

 荷物の上げ下ろしだってしなきゃならないし、舗装されてない道では牛馬に直接荷物を積まなければならない。


 ところがポーターの[ストレージ]スキルを使えば馬車一台分の荷物を収納できるし、しかも収納してしまった荷物には重さがない。

 本人だけの身軽な旅だ。


 テイマーが勝ってるところと言ったら牛馬を複数操れるところくらいだが、熟練のポーターは馬車十台くらいの荷物は楽に収納できるそうだ。

 そして当然ながらここには舗装された道も馬車もなく、もちろん馬もいない。


 なら戦闘に使えるモンスターをテイムすればいいじゃないかと思うかもしれないが、まずオレ自身は戦闘にはまるで役に立たない。


【テイマー】に[テイム]があるように、【ポーター】に[ストレージ]があるように、ジョブにはスキルがついている。

 例えば【ソードマン】には剣技スキルがあって攻撃に使える。

 剣の扱いに補正もつくし[豪剣]スキルなんてのを使えば鉄の剣でも岩を断てる。


 テイマーだって別に剣を持てないというわけじゃない。

 しかしスキルがあるとないとじゃ大違い、オレが持ってたってただの鉄の棒だがソードマンが使えば必殺の武器だ。


 そして森の中のモンスターたちはみんなそういうスキルを使ってくるわけで、自分も戦闘に向いたスキルを持っていないととても太刀打ちできない。


 つまりオレがモンスターを序列型テイムしようと思ったら仲間に頼んで目当てのモンスターを死なない程度にボコッてもらう必要がある。

 犬猫ならともかくモンスターの報酬型や親愛型のテイムとかどうやったらいいかわからんし。モンスターのエサなんて用意できねぇよ。


 それでいい目を見るのはテイマーだけで、仲間たちはくたびれもうけだ。

 しかもそこまで頑張ってテイムしたって、それしょせん学生でも倒せる雑魚だし。

 クソ、テイマーが外れジョブ扱いされてる理由がよくわかったよ!


 ともかく基本役立たずのテイマーを仲間に入れてくれる者なんているわけがなかった。

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