再び誘ってみた
「ここがオレの新居。一応学校の寮の扱いなんだ」
「へー。寮にしては遠くない?」
「通えるのはオレとティナだけだね」
オレは自宅の中を案内した。
建物は南向き、つまり湖の方を向いている。
玄関を入ってすぐのホールをオレは食堂にしている。
多分元はビヤホールみたいに使われていたんだろう。食堂部分は二階まで吹き抜けだ。
右手に厨房、その奥にオレの部屋がある。
オレの部屋は建物の外側にはみ出している。建て増したような感じだ。
正面奥には風呂場とトイレ、それと物置。
ウンディーネとサラマンダーの合わせ技で風呂に入り放題だ。
左手に階段があって風呂場なんかの上に四室、厨房の上に二室で計六部屋の客室がある。
オレの部屋も客室も入ってすぐのところで靴をスリッパに履き替えるようになっている。
一通り案内してオレたちはホールに戻ってきた。
オレはティナにイスにかけるように促しながら言った。
「実は大切な話があるんだ」
校舎裏でその話をしようとしたんだけど、ティナがうちに来るって言うから後回しにしたんだ。
「……え」
ティナは大きな目をさらに大きく見開いた。
それから耳の端を触ったりハンカチを取り出して汗を拭いたり襟を直したり制服の裾を気にしたり、その動作を二度繰り返した。
何だか挙動不審だ。
「あ、そうだ、ちょっとあ、汗かいてたんだよね」
そしてギクシャクしながらとんでもないことを言った。
「お、お風呂借りてもいい?」
……え、普通男の家で風呂入るものなの?
都会っ子はやはりちょっと違うんだな。
オレは自分でもよくわからないまま風呂を沸かした。
頑張れサラマンダー。ちょっとうろたえてしまう。
風呂の方からバシャンと水の跳ねる音やカコンと高い木の桶の音が聞こえてくる。
うわー何だろ、すごくオロオロする。
オレは食堂をウロウロしながら待った。
「お、お待たせ」
戻ってきたティナは全身ほてって頬がほんのり赤かった。
汗取りに渡した男物のシャツの裾からはみ出たしっぽがうねっている。
あ、待って、何だこれ。
風呂上がりの同い年の女の子inオレのシャツ。
良くないですねこういうの。非常に良くないと思います。
さすがに下着はつけてるよな? 信じていいんだよな?
オレは不道徳な心に蓋をして後ろの壁へと目を逸らした。
紳士たれ!
ティナのおみやげはカップケーキというか蒸しパンケーキだった。
焼き菓子は日持ちするし、こっちを先に出すか。
オレはお茶を淹れてケーキと一緒に持って行った。
「おもたせで悪いけど」
「やった。ちょうどこれ食べたかったんだ」
テーブルに向かい合わせでかけてオレは引っ越しの話をした。
この建物を一人で掃除する覚悟をしてたらクラスメイト達が手伝ってくれたこととか。
マックの実家は大工で器用に屋根を直してくれたこととか。
レインが全員分の食事を作ってくれたこととか。
ルークのパーティーが来てくれたこととか打ち上げで大騒ぎしたこととか。
いろいろ話した。
ティナはケーキをつつきながら聞いていた。
食べたいと言った割りに口をつけずにケーキを穴だらけにしていたティナは上目遣いで口を開いた。
「──それで、大切な話を聞かせてほしいんだけど」
あ、そうだった。
「うん、実はパーティーを作ろうと考えてるんだ」
「……はい?」
グリフォンを始めとしてテイムモンスターも充実してきた。
思いがけずアイラもパーティーに入ってくれたおかげで(くれたのかな?)メンバーも五人そろった。
そろそろ本格的に探索を始めてもいいはずだ。
「それで、ティナもオレのパーティーに参加してくれると非常に心強いんだけど……」
「あ、そういう話……。大切……うん、大切だね……」
ティナはうわの空というか、意識がどこかへ飛んで行ってしまったようだ。
何故だ。
「それで、どう?」
「──え、何が?」
「いやだからパーティー。参加してくれるかな?
「うん、それはもちろん、喜んで。……やった、私も初パーティーだ! これは大切だね!」
ティナは急にはしゃぎ出した。両手を頬に当ててニコニコしてる。
今まで誰もパーティーに入れてくれなかったって言ってたもんな。喜んでくれてよかった。
「私もこれでちゃんと生徒の仲間入り! うふふ……。それで、他のメンバーって決まってるの?」
「うん。前に一緒に森に入ったあいつら」
アメリはティナを怖がってたから説得しないとダメかもしれないけど。
「あー、あの子たち。いいじゃん。ねえ、お祝いしようよ」
「いいね! パーティー結成祝いのパーティーだ。ここでやる? どこか店借りる?」
「ウィルはどっちがいい?」
「オレはここがいいな。料理なら当てがあるし」
ホームパーティーってメッチャ楽しかったし。
またレインにお願いしよう。今度はオレも手伝うぞ! 野菜の皮むきくらいならできる、はずだ。多分。
「そうなんだ。そういえばご飯ってどうしてるの? 独り暮らしで。良かったら作ってあげようか?」
「ありがとう。すごく嬉しいけど、材料が何もないんだ。昨日全部使っちゃって」
オレはテーブルの端に乗せっぱなしだったポトフの鍋を見せた。
ティナは鍋を覗き込んで感心したように言った。
「へー、ウィルって料理できたんだ」
「シャルが作ってくれたんだ」
「……誰だって?」
「え、シャル。支援科の子。獣人だけど、知らない?」
「えー? もちろん知ってるけど……」
「何で?」
口調が少し強かった。
思わずその顔をまじまじと見て……オレはビビった。
口元は笑ってるんだ。
口元は笑ってるのに、可愛いはずのティナの目が何故か怖い。
オレはグリをテイムした経緯を説明した。
「──というわけでシャルの曲を聞きたがるんで来てもらったんだけど、その時ついでに作ってくれたんだ」
「ふーん……」
ティナは突然席を立って外に出た。
「グーリーくーん?」
庭先でミミズをつついていたグリは名前を呼ばれて振り向いた。
で、ティナを見て即膝を屈した。
四肢を折り畳んでおでこを地面にこすりつけるグリを見て、オレはグリフォンも土下座するんだな、などと考えていた。




