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誘ってみた

 翌朝は惨憺たるありさまだった。野郎どもの半数は二日酔いで昼まで寝ていた。

 そいつらは昼食代わりにスープだけ飲んでよろよろしながら帰って行った。


 一人になったオレはグリフォンを洗った。

 こいつのジョブは【ファイター】だ。名前は大きなグリフォンでオオグリ、さらに略してグリにした。


 ところで名前を付けたときからグリフォンの意志を感じることができるようになった。

 こいつは言葉をしゃべれないのでこっちで勝手に解釈しているだけだが。


『ぐりはまだこども』


 こいつ、この図体で幼体だったのか。大きくないじゃん。

 まあ人間も十五歳でジョブをもらうけど大人かって言うとちょっと違う。そのくらいの年頃か。


『もりのおくにこわいのがいてにげてきた』


 今年度の最強パーティーを一蹴したこいつが「怖い」だと!?


「そんなに強い奴なのか?」

『やばい』


 それはそれとしてシャルの曲を聞かせろとうるさい。

 しょうがないのでベガで学校まで飛んだ。グリで行くと管理人に叱られるからな。


 オレはギターの練習をしていたシャルを拝み倒して一緒に来てもらった。


「この前と同じのでいいの?」

「ああ。景気よくやってくれ」


 庭先でシャルはギターを弾いた。

 勇壮な行進曲がカラリと晴れた空に吸い込まれてゆく。


 ヘドバンしていたグリは曲に乗った[ステータス上昇]がかかると後ろ足で立ちあがって激しく体を揺らした。

 グリフォンの縦ノリって初めて見た、というか見たことのある人類って多分オレが初めてだろう。


 隣でベガとベルも踊るように跳ねていて、ハローは周りを飛び回り、分裂したマルはひっくり返ってクルクル回った。

 あれだな、シャル&ウィル曲馬団なんて作ったら見世物で暮らしていけそうだ。


 オレたちはついでに[奪魂]スキルも実験した。


 シャルが例の曲に乗せて[奪魂]スキルを発動するとオレのモンスターたちはみんなボーっとして動かなくなった。

 グリ、ベガ、ベル、ハロー、マル、それにブラウニー、ウンディーネやシルフやサラマンダー、ウィル・オー・ウィスプもだ。


 しかしシャルはもちろんオレにも効果がない。

 このスキルにはどうやらモンスターだけを行動不能にする効果があるらしい。


 もしかして、シャルの[奪魂]とオレの[テイム]のコンビネーションがあれば、モンスターというモンスターをテイムできてしまうのでは……?

 オレはとんでもない予感に身震いした。


「シャル、今日はありがとう。送って行くよ」

「ええ、お願い」

「そうだ、晩飯食べてく? ウェスタで。おごるよ」

「私は寮で食事が出るから。そういえばあなたはどうしてるの?」

「シャルが行かないならパンでも食べるよ」


 レインの料理はあいつらが食べ尽くしてしまって固いパンしか残っていない。


「そう……」


 ちょっと考え込んだシャルは一度は肩に担いだギターを降ろして家に戻った。

 どうした?


 シャルは厨房に入ってあちこち覗き込んで、レインが置いていった野菜やら塩漬け肉やらを引っ張り出した。


 そしておもむろに料理を作り始めた……!


 トントントン、まな板の上でリズミカルに包丁が踊る。

 オ、オレ、どうしたらいい……?


 何だかオロオロしてしまう。

 シャルが鍋をかまどに据えたのでオレはうろたえながらサラマンダーに魔力を送った。


 ウロウロしながら食堂で待ってたら何だかいい匂いがしてきた。


「お待たせ。簡単なものだけど」


 シャルは鍋をテーブルの上の鍋敷きに置いた。

 ポトフだ。


「楽団にいた頃によく食べたの。大鍋いっぱいに作って、みんなで」


 女の子の手料理……だと……?

 か、感動だ……!


 オレは皿に取ってつまんでみた。

 うん、簡単な材料しかなかったのになかなかいける。

 あったかい料理があるだけでも気分が全然違うし。


「ありがとう……!」

「そこまで感謝されるようなものじゃないけど」

「シャルはきっといい奥さんになるな」

「……もう、何を言うのよ。バカ……」


 夕食を作ってもらっていたらすっかり遅くなってしまった。

 シャルはケースにしまったギターを肩に掛けた。


「それじゃ送ってくれる?」

「もちろん……。あ」


 答えながら気づいたけど、今夜は一人か、オレ。


 昨夜はすごく楽しかったなー……。

 オレじゃなくてシャルのギターならもっと盛り上がるんじゃないだろうか?


 そう思ったので誘ってみた。


「せっかくだから泊ってく?」


 シャルはにっこり微笑んだ。


「一人で寝なさい」


 ちぇっ。

 オレはシャルをペガサス便で寮まで送った。

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