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秘密

 昼食後校舎裏に行ったらティナがいた。

 オレは毎日来てたけどティナがいるのは先日以来だ。


 バイト先のレストランに行った時にも避けられちゃったしな。

 正直ショックだったけど、どうやらようやくお許しが出たらしい。


「や、久しぶり」


 声を掛けたら耳の端がピクッと動いた。

 でもこっちを見ない。


 オレはティナの前に立った。

 久しぶりのティナはちょっと難しい顔で、オレと目を合わせようとしなかったけど、そんな顔でもやっぱり可愛い。


「ティナは今日も可愛いね。しばらく会ってなかったから余計に可愛く見えるよ」

「……もう、いつもそんなことばかりなんだから」


 ティナはようやく顔を上げた。

 そして真っ直ぐオレを見つめて真剣な声で尋ねてきた。


「ねえ、テイムって誰にでもできるの? それとも何か条件があるの?」

「誰にでもはできない。相手の同意がないとダメなんだ」


 オレは人間にするテイムの3つのパターンについて説明した。


「ふーん、そうなんだ。……ねえ、ちょっとテイムしてみて」

「え? いや、ダメだろ。オレはティナにそんなことはしたくない」

「そう堅いこと言わないで、ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから」


 ねーねーねーねー、ティナは何だかしつこかった。

 オレはとうとう根負けした。


「ちょっとだけな」


 ──テイム。


 スッとテイムが入った。

 ティナは目をぱちくりさせた。テイムされた実感がないようだ。


「これってもうテイムされてるの?」

「うん」

「全然わからない」


 最初は相手の意識を奪ってしまっていたけど、人間をテイムするのも段々慣れて来て意識を残すことができるようになった。

 テイムされてる意識はないけどな。


「ティナ、握手しよう」

「えー、突然なに?」


 そう言いながらティナはすっと右手を前に差し出した。


「その手。ティナは自分の意志でそうしたと思ってるだろうけど、実はオレの命令に従ってるんだよ」

「……えっ? うわっ、これそうなの?」


 ティナは自分の手を見て驚いている。


「酷いスキルだよな。自分でも怖いよ。でもジョブって一生のものだし、逃げてるわけにもいかないからな」


 オレは先日からこっち女の子たちの依頼を受けてカップル成立を手助けした話をした。

 ティナはびっくりしていた。


「え、急に彼氏いる子が増えたと思ったら、あれウィルの仕業だったの?」

「頼まれちゃったからには断れないのがオレさ。人間をテイムするのがいいことだとは思わないけどな、これからも必要があればやるよ」


 例えそれでティナに嫌われることになったとしても──


 ……んん? もしかしてスキルを封印した方がマシなのか?

 でもその場合オレはこの先どうやって生きていけばいいんだ?


 ちょっと真剣に悩んでしまった。まあいい、考えるのは後にしよう。


「もういい? テイムを解くよ」

「ねえ」


 しかしティナはテイムを解除しようとしたオレを止めた。


「私がされたテイム。どのパターンだと思う?」

「それは──」


 序列型、ではないだろうな。報酬型? 何か報酬があったかな?


「親愛型だよ。私ウィルのこと好きだもん」

「光栄だね」

「ウィルが私に悪いことするわけないって信じてるからテイムされても平気。他の人にも酷いことはしないって信じてる」


 ティナはもう一回手を差し出した。

 今度はオレの命令じゃない。


 オレはティナの手を握った。

 ティナの手が力強く握り返してきた。


 暖かくて、吸い付くような手のひらだった。


「あ、そうだ」

「何?」

「今、私ってウィルのものなんだよね?」

「……確かにそうだけど言い方を考えよう」

「どういうことができるの?」

「そこまで試したことはないけど、その人にできることなら多分何でも」

「そうなんだ」


 人差し指を顎の先につけて考え込んだティナはオレを見てニコッと、いやニヤッと笑った。


「したいことないの? 何でもできるよ?」


 そりゃオレがその気なら何でもさせられるけどさ。

 ティナにしてもらいたいあれこれのことを。


「ご飯にする? 世界征服? そ、れ、と、も……?」


 可愛い顔がいたずらっぽい笑みでキラキラ輝いている。

 何て顔するんだよ、もう。


「……それじゃ命令させてもらおうかな。ティナ」

「うん」

「『自分を大事に』」

「あっ、はい」


 オレはテイムを解いた。

 ティナはちょっと不満そうな顔で上目遣いにオレを見た。


「もう、何でもしてよかったのに」


 さっき信じてるって話をしたばかりなのにできるわけないだろ!


 まったく、あまりからかわないでほしい。

 ドキドキしたじゃないか。


「ねえ、このことって他に誰か知ってる?」


 唐突にティナはそんなことを聞いてきた。


「どのこと?」

「ウィルが人間もテイムできるってこと」

「いや、ティナだけだ」


 テイムした相手はそのことには気づかないし、ティナ以外の誰にも教えていない。


「ふーん……じゃあ二人だけの秘密だね」

「オレとティナだけの秘密だ」


 ティナは口元を押さえてふふ、と隠すように笑った。


 公言できるようなスキルじゃないけど、ティナならいいか。

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