ウィズ
「ベルナと付き合ってたわけじゃなかったのね」
いつもの訓練場でシャルにそんなことを言われた。よりによってシャルに言われるとは。
「んなわけないじゃん、二人のために一肌脱いだだけ。……あ、もしかして妬いてる?」
「そんなわけないじゃない」
「心配しなくてもあれはオレのタイプじゃないし」
「だから心配なんてしてないから」
「オレのタイプは──そうだな、頭の上に猫みたいな耳がついてて、その毛はふわふわ」
「……え?」
「歌が上手くてギターが上手くて長いしっぽがチャーミングな、そんな女の子だ」
「……バカ、バカ!」
シャルは走って行ってしまった。
チャーミングな長いしっぽがリズミカルに揺れていた。
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「ねえ、ちょっといい?」
ベルナたちが上手く行った次の日、昼食前に女子から呼び止められた。
同じクラスのウィズ、レパードのところの【ウィッチ】ジョブの子だ。長い髪を編み込んで右肩の前に垂らしている。
「何か用?」
「えーっとね、その……」
ウィズは髪の先をいじったりして、何だかモジモジしている。
「あのね、ちょっとお願いがあって……」
「オレにできることなら聞くよ」
「ありがとう。……その、えーっと」
何かループしてるな。しょうがない、言えるようになるまで少し待つか。
ウィズは頬を赤くして、指先をこねくり回したりなんかしてしばらく立ち尽くしていたが、やがてようやく勇気を出したようで、言った。
「あの、ベルナがうまくいったのってあなたのおかげだって聞いて……」
なるほど、そういう相談か。
よし、頼られたからには何とかしてみよう。
オレはウィズから話を聞いた。ちょっと気になってる相手がいるそうだ。
名前はマルス。あー、知ってる。ほとんど口聞いた事ないけど。
マルスはやっぱりレパードと同じパーティーで、ジョブは【レンジャー】。戦闘から探索まで何でもこなせる頼れるジョブだ。
午後の探索が始まる前に話は通しておこう。
オレは訓練場でレパードのパーティーを探した。
……お、いたいた。
「ちょっといいか?」
オレはマルスを手招きして物陰に誘った。
マルスは一応ついて来たけど不審げな顔をしている。まあこいつ戦闘科だしトップパーティーのメンバーだし、普段接点ないもんな。
「何の用だ?」
「なあ、お前彼女って欲しい?」
「当たり前だろ!」
「そりゃ良かった。実はお前のこと好きって子がいてさ」
「誰だ──まさかキャロルさんか!?」
あ、ウィズじゃなかった。仕方ない、テイムしよう。
「紹介する前に一つお願いを聞いて欲しいんだが」
「おう、何でも言ってくれ!」
じゃあ遠慮なく──テイム!
テイムが入った手ごたえがあった。報酬型テイムだな。
これで良し。ウィズについて聞いてみて、不調だったら聞いた記憶は消してしまおう。
「正直に答えてくれ。ウィズさんのことどう思ってる?」
尋ねるとマルスは急に気を落として、下を向いてボソボソ言った。
「……一回勇気を出してデートに誘ったけど、断られた」
「……え?」
オレはマルスはひとまず置いておいてウィズのところに行った。
「──って言ってたけどどうなってるの?」
「うん、誘われたけど軽くかわしたわ」
いや、何でだよ!
その時オーケー出しとけばオレを頼る必要なかったんじゃないか!?
「……何で?」
「駆け引きよ。だって本気なら何度でも誘うはずでしょ?」
目の前がクラクラした。
「……いや、それは本気だったから諦めたんだよ」
「そうなの?」
「むしろそれで何度も誘ってくる男って信用しない方がいいよ、遊んでるだけだから」
「え?」
「本気じゃないから断られてもダメージが軽いんだよ。だから何度でもチャレンジできるの。本気だったら心が折れちゃって立ち直るまでに時間がかかるって」
「そうかなぁ?」
ウィズは疑問顔だ。
そんなウィズを見てオレは少し昔のことを思い出していた。
「……オレの家の近所にエルマって人が住んでたんだよ」
オレの家というか爺さんの家だが。
何だかヨレヨレのオバサンが歩いているのを見た従兄が面白がって教えてくれたんだ。
「その人はオレが見たときにはもうすっかりオバサンだったよ。でも若い頃は美人で結構モテてたらしいんだ。男をとっかえひっかえして、まあ男を手玉に取るのが楽しかったらしいんだ。だからどんなにいい男が相手でも恋人になっちゃうと物足りなくて浮気を繰り返してたそうなんだ。若いうちはそれでも男が切れなかったんだけど、オバサンになっちゃったらもう誰も相手してくれなくなったんだ。若い頃と同じように酒場で声を掛けられるのを待ってるんだけど、でももう誰も誘ってくれなくて……。酒場にいる時間は長いし面白くないから酒が進むしで、もうすっかり酒浸りで年齢よりもずっと老けて見えたよ。もちろん家族も恋人も友達もいなくて、独りぼっちだった」
エルマの話をするとウィズは少し顔色を悪くした。
「そう言えば私の家の近くにもそういう人いた……」
「思うんだけどさ、恋愛って付き合うまでよりも付き合った後の方に主軸を置いた方がいいんじゃないかな? まだ恋愛したことのないオレが言っても説得力ないかもしれないけど」
「……え?」
ウィズはオレを二度見した。
「えっ?」
「何だよ」
「本気で言ってるの?」
「もちろん。付き合うまでのあれこれも楽しいかもしれないけどさ、それよりも付き合った後の目の前の恋人を大切にしてあげる方が人生豊かになると思うよ、オレは」
「いやそっちじゃなくて。ちょっとひどくない? うーん、相談する相手を間違えたかな……」
急に距離を置かれたんだが。何故だ。
「とにかくさ、自分が選ぶ立場になりたいんだろうけど、普通の男はそういう恋愛の駆け引きみたいなの好きじゃないんだよ」
「でも女から好きって言うのって負けたみたいで嫌じゃない?」
……何を言ってるんだこいつは。
めちゃくちゃめんどくさいぞ、こいつ。
「……わかった。絶対に上手くいかせてあげるからオレの言う事に従ってくれ。オーケー?」
「うん。わかった」
よし、テイム!
同意を得られた瞬間にテイムした。
こいつは誤った認識を少し是正した方がいい。
──素直になぁれ!
その日の探索はお休みした二人は人気のない校舎裏で早速見つめ合っていた。
「好きだ!」
「私も!」
ほら一瞬で上手く行ったし。




