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レパード

 オレは石段に深く腰掛けて顔を覆った。

 あー、畜生……。

 ティナにあんな目で見られたのは正直こたえた。


 そのままじーっとしてたら下げた視線の先に二人分の足が見えたのでオレは顔を上げた。

 教官とベルナだった。


 ベルナは教官の腕につかまって体をもたれかけさせていた。

 教官が不審げな顔で言った。


「お前こんなところで何やってるんだ?」


 オレは瞬間的に逆上した。

 お前に言われたくないわ!


「何やってんだはこっちのセリフだ! 教師が生徒と何してるんだあああっ!」

「ヒッ……」


 二人は体をビクッとすくませた。

 その瞬間に──テイム!


 多分オレの剣幕にビビったんだろう。すっとテイムが入った。序列型だな、多分。


 チッ……。

 オレには関係のないことだけど一応確認しておくか。どう見ても遊ばれてるベルナがちょっとかわいそうだし。


「先生、彼女のことは本気ですか? 正直に答えてください」

「いや、遊び」


 教官は何とも軽く答えた。

 ……生徒に手を出す鬼畜下半身教師が!


「帰れ!」


 命令に従って教官は元来た方へと帰って行った。

 ベルナはさすがにショックを隠し切れない様子だ。


「そんな……」

「いや、誰が見たって遊びだろ。本気だったらなおさらヤバイし」

「……何で?」

「向こうは大人でこっちは子供じゃないか」


 確かあの教官、二十四歳だったはずだ。オレと同学年のベルナは今年十六歳。八歳の差がある。


「十六歳の男が八歳の子供に本気で好きって言ってたらどう思うよ」

「最低」

「な? 本気でも本気じゃなくてもあり得ないだろ?」

「私はそこまで子供じゃないわ」

「じゃあ十六歳と十二歳でもいいや。遊び慣れた二十四歳と十六歳じゃそのくらい差があるって」

「……」

「悪いこと言わないから教師はやめときなよ。他に気になってる男とかいないの? 正直に答えて」


 テイムされているベルナは正直に答えた。


「レパード」


 ……え?

 い、意外すぎる!


「ごめん、あれのどこがいいの?」

「熱心だったし本気ならいいかなって。でも何もしてこないの」

「え、何で?」

「さあ。それでちょっとがっかりしてたら先生に口説かれてその気になっちゃって……」


 テイムしている今ベルナの気持ちは直に伝わってくる。

 ベルナは本気で落ち込んでいた。


 レパードは期待外れだし教官には遊ばれちゃってるし、そりゃそうなるよな。

 なんかかわいそうだな……。


「──よし、君の恋を応援するよ」

「もういいわよ。そこまでの気持ちはなかったんでしょ」

「いやいや、どう見たってあいつは君のこと好きだって。あれでヘタレなんだろ、多分。ちょっと押したらコロッと行くって」

「そう?」


 オレたちは作戦を練った。




「ようベルナ、今日も俺たちと行こうぜ」


 訓練場でレパードはいつものようにベルナに声を掛けた。

 隣のオレはまるで目に入ってない様子だ。


「あら残念」


 しかしベルナはすげなく断りを入れた。


「今日は彼とパーティーを組むの」


 言いながらベルナはオレの腕に抱きついた。

 ウヒョッ、柔らかな感触が……。


「だって彼って素敵なんだもの」

「そういうわけだ。悪いな」

「え……あ、おい!」


 レパードは呆然としている。

 オレはベルナに組み付かれながらいつも吹き溜まっている隅っこに移動した。


 いつものメンバー+ベルナ、五人いるから本当にパーティーを組めなくもないな。そんなつもりはないけど。

 レインとアメリがオレを凝視していた。……シャル、そんな目で見ないで。


 レインに問い詰められた。


「おい、どういうことだ?」


 アメリもだ。


「何があったの?」

「実はな──」


 説明しようとしたところにレパードが追いかけて来た。

 レパードはベルナに見つめられて一瞬ひるんだが、目をそらしてオレの腕をつかむと同時に引っ張った。


「おいおい、どこに連れて行くつもりだ?」

「うるせェ!」


 オレは校舎裏で壁に押し付けられた。


「こんなところに連れ込んで何の用だ? 愛でも囁く気か?」

「ふざけんな! テメェ、どういうつもりだ!」

「どういうつもりだと思う?」

「……ッ!」


 質問にニヤニヤ笑いで返したらレパードは胸倉をつかんできた。いきなり腕力に訴えかけるとは原始的な奴だ。

 オレは掴まれたまま大げさに肩をすくめて見せた。


「やれやれ、それがわからないからお前はモテないんだよ。折角惜しいところまで来てるのにな」

「なんだと?」

「おい、オレとベルナさんの間に今まで接点があったと思うか?」

「お前みたいな底辺テイマーと何もあるわけないだろ!」

「じゃあ何で急にあんなことになったと思う? 頼まれたからだよ」

「……は?」

「気になる男子がいるんだけど意気地なしでなんにもしてこないんだとさ。だから見せつけてやったんだよ、危機感を煽るために。演技だよ、演技」


 レパードはバカみたいにぽかんと口を開けている。胸元を握る手の力が少し緩んだ。


「まあ狙いはドンピシャだったわけだが、しかしなぁ……。お前はベルナさんのところに行くと思ってたんだよ。『あんな男より俺の方にしろよ』なんてさ。それがまさかオレの方に来て、しかも話も聞かずにいきなり暴力を振るってくるとはな。……これじゃちょっとオススメしづらいな」


 レパードは慌てて手を離した。


「いやあ、俺が良くてもベルナさんのことを思うとなぁ。だってお前早とちりして彼女を殴ったりしそうじゃん?」

「す、すまん!」


 レパードは勢いよく全身で大地に伏せた。全力の土下座だ。

 オレもまたしゃがみ込んでレパードの耳元で囁いた。


「お前が俺の『仲間』になってくれるっていうなら……仲を取り持ってやってもいいぜ」

「た、頼む!」


 レパードがそう言った瞬間テイムが入っていた。

 報酬型テイムの成功だ。


 よしよし、これで嘘のないところが聞ける。


「一応聞いとくけど、お前ベルナさんのこと好きなの?」

「もちろんだ!」

「じゃあ何で普通に誘ったりしなかったんだ?」

「いや、だって、その……。勇気が……」

「は?」


 傷害事件(未遂)を起こす短気さはあっても女の子に声をかける度胸はない、と。さっぱりわからん。


 しょうがないのでオレはレパードの心を操って『勇気』とやらを与えてやった。

 好きな子誘うのってむしろ率先してやりたいことじゃないのか? 勇気がいるというのは本当にわからん。

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