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ジュリ

 自分のジョブながらちょっと怖くなってきた。

 手記には人間もテイムできるなんて書いてなかったぞ!?


 テイマーの能力が実際のところどこまで及ぶものなのか検証する必要があるな。

 ティナじゃない、テイムしても心が痛まない奴でやろう。


「レイン、ちょっといいか」


 手招きして物陰に引っ張り込んだ。

 キョロキョロ見回して誰も聞いていないのを確認する……よし。


「ちょっと教えて欲しいことがあるんだが」

「何だ?」

「お前、戦闘科に泥棒がいるって言ってたよな? 誰だか教えてくれよ」




 午前の授業が終わった。

 他の生徒が昼食を食べている頃、校舎裏で待っているとレインたちが駆け寄ってきた。


「あいつまたやりやがった! こっち来るぞ!」


 オレとレインは校舎の陰に隠れた。ティナとの待ち合わせ場所よりも手前の角だ。

 こっそり覗いていると……そいつが来た。


 ジュリという名前の【ソードマン】ジョブの女子生徒だ。


 背が高くて髪はショートカット、顔は薄めだ。

 姿も立ち居振る舞いも何となく印象に残らない。それがあいつの策略だ。


 今日は朝からレインたちに授業をサボってジュリを監視してもらっていた。

 シーフはそういうのはお手の物だ。


「多分[視線誘導]スキルだ。相手の気を逸らすやつ。俺も隠れて見てたのに、気を付けてなかったら引っかかってた」

「すげぇ鮮やかな手並みだったぜ。ありゃ常習犯だな」


 ジュリは昼食に並ぶ生徒の列の中から一瞬の隙を狙って財布を掏り取ったそうだ。


 オレは名前を聞いて以前そいつと校舎裏への途中ですれ違ったことがあるのを思い出した。

 あいつもしかして戦利品の確認でもしてたんじゃないだろうか?

 女子寮の部屋だと同室の子がいてそういうことは安心してできないだろうし。


 そう当たりを付けて待っていたんだが……どうやらビンゴだったようだ。


 近づいてくるジュリはオレたちに気づいていない。誰かがいるとも思っていないんだろう。

 だから周囲を気にする素ぶりもなく、オレたちの見ている前でポケットから盗んだ財布を取り出し、金を抜き取った。


 そして空の財布を森の中に投げ込もうとした瞬間、オレたちは校舎の陰から飛び出した。


「現行犯だな」


 ジュリは財布を投げようとした姿勢のまま止まってオレたちを見た。


「証拠は挙がってるんだ、諦めろ」


 一瞬怯えた顔をしたジュリは、しかしすぐに財布を森の中に投げ捨てた。

 同時に手の中に光の棒が生まれている。ソードマンの[光剣]スキルだ。


 ジュリはそいつでオレたちを一薙ぎに──


「!?」


 光剣が止まった。背後の木陰から現れた男子生徒がジュリの腕を握りしめていた。


 し、心臓がバクバクしてる……。

 あ、危ねえな、こいつ! 殺す気か!?


「俺も見たぞ」

「マ、マック……」


 ジュリは目に見えて動揺した。


 オレたちはもう一人巻き込んでいた。だってオレやレインじゃソードマンには対抗できない。

 マックはジュリより格上だけどな。


 マックは【ニンジャ】ジョブの男子生徒だ。レインによればこいつもジュリの罪をなすりつけられそうになったそうだ。

 おかげで強力な戦闘職にもかかわらずあまりパーティーに入れてもらえずくすぶっている。


 だもんだから話を振ったら二つ返事で乗ってきた。

 今朝からレインと一緒にジュリを監視していたんだが、さっきは警戒されないように[隠密]スキルで隠れてもらっていた。

 おかげで助かった……。


「レイン!」

「おう!」


 レインは教官室に走った。


「待って──」


 ジュリが後を追おうとした。させるか、ウィル・オー・ウィスプ!


 閃光がオレたちを飲んだ。

 一瞬辺り一面が真っ白に塗り潰され、目が慣れた頃にはレインはもう向こうの角を曲がったところだった。


 さらにマックは校舎の上に飛び上がっている。[エアウォーク]か、すげえなニンジャ。

 そして打ち合わせ通りマックも教官室に向かった。


「もう手遅れだ。お前も来い、教官室に行くぞ」

「お、お願い、見逃して。何でもするから……」


 ジュリは明らかに心が折れていた。

 その瞬間に──テイム!


 ──よし、かかった!


 序列型テイム成功だ!

 やっぱり人間にも掛かるんだな、テイム……。


 ジュリは表情を失った顔で棒立ちになっている。

 まさかいきなり殺しにかかってくるとは思わなかったけど、それ以外は予定通りの展開だ。


「じゃあ言った通り何でもしてもらおうか」


 こいつに何をさせるかって?

 それはもちろん──




「ごめんなさい!」


 ジュリは被害者に財布を差し出しながら頭を下げていた。

 財布がないと大騒ぎしていた男子生徒は事情が飲み込めていないようだ。


 オレはジュリの心を操って泥棒その他の悪事に対する深い罪悪感を植え付けた。

 死んでしまった方がマシと思うくらいの罪悪感を。


 正気を取り戻すやいなやジュリは慌てて森の中に入ってこれまでに捨てた財布その他をかき集めた。

 で、被害者一人一人に盗品を返却しながら謝罪行脚しているところだ。


 だって罪の償い方なんて被害者本人への謝罪と補償しかないだろ?

「万引きした罪を償うためにボランティアで清掃します」なんてのを良しとする奴がいたら倫理観も頭もおかしいぞ。


「私が財布を盗みました。お返しします」

「あ、ああ」


 その男子生徒は財布を受け取って中身を確かめた。


 まあ盗んだばかりのこの生徒の金は元に戻せたが、これまでの分は使ってしまって残っていなかった。

 被害額わかるんだろうか?


 ジュリの告白のせいで学校は午後の探索どころじゃない大騒ぎになってしまった。

 教官はやってくるし被害者の生徒たちは怒り出すしジュリはその真ん中で頭を下げ続けてるし、収拾がつきそうにない。


 それとジュリはレインとマックにも謝った。大勢が見ている前でな。


「あなたたちがシーフやニンジャなのをいいことに罪をなすりつけようとしました。本当にすみませんでした」


 これで二人の名誉も回復されることだろう。




 後日ジュリは士官学校に転校した。

 ソードマンなんてジョブは一般の仕事をするにはつぶしが効かないが、かといってもうこの学校でやっていくのは無理だ。

 二度と盗みなんてしようと思わないように思考を書き換えたがそんなこと言うつもりはないし、仮に言っても誰も信じてくれないよな。


 ジュリは軍人になって被害を弁済することとなった。

 まああっちの方が冒険者より安定してるし、何とかなるだろ。

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