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打ち上げ

 翌日の学校の休みにオレたちはウェスタ市街の入り口の門の前で待ち合わせした。

 今日はレストランに行くつもりだったのでオレのコーディネートは割とトラッドだ。


 ちょっとデートみたいだな。


「お待たせ」


 声を掛けられて振り向いた。

 制服のシャルがそこにいた。いつもの服装で、髪だけは珍しくハーフアップにしている。


 制服かー……。うん、学生のフォーマルはそれが一番だよな……。


「オレもさっき来たところさ。さあ行こう。祝賀会だ」


 オレはレストランを予約していた。何しろ今日はそこそこ持ち合わせがあるからな。

 と言ってもシャルが稼いだお金だけど。


 最初の時のおひねりの半分はどう考えてももらい過ぎだった。

 だから次からは固辞したんだがシャルがそれは駄目と言って聞かなかったので、協議の結果利益の一割をもらうことにしていた。


 今日はもらった分を全部使うつもりだ。


 オレが案内したのはレインオススメのレストランだ。つまりレインがバイトしている店だ。

 安食堂でしか食べたことなかったからレインに聞いてみたらここをお勧めされたんだ。


「いらっしゃいませー」


 レストランに入るとウェイトレスが出迎えてくれた。オレたちと同年代で、茶色い髪をポニーテールにして、動きがキビキビしている。


「予約していたウィルだけど」

「ああ、お待ちしてました。こちらです、どうぞ」


 ちなみに予約はレインに頼んだ。メニューも予算を伝えて全部お任せした。

 オレみたいな貧乏人にちゃんとした料理なんかわかるわけないし。予算だけはちょっと気張ったけどな。


 オレたちは奥の窓際の席に案内された。

 座りながら案内してくれた彼女に聞いてみた。


「キッチンにレインってバイトがいる?」

「うん。何で知ってるの?」

「友達なんだ。今日はよろしくと伝えて。こっちは君に」


 今日はバイトしててオレたちが来るのを待っていたはずだ。

 レインの分と彼女の分のチップを渡すと「ワオ」と呟いてポケットに入れた。


「伝えとく」


 おしゃべりしながら待っていたら料理の皿が続々と運ばれてきた。


「これはサービス。レインから」


 どうも注文外のも混ざっていたようだ。

 キッチンを見るとレインがこっちに手を振っていて、ちょうど先輩コックにおたまで叩かれていた。


 オレたちは前に置かれたカップを手に取った。

 中身は果物のジュース。ノンアルコールだ、学生だからな。


「シャルのコンサートの成功を祝して、乾杯!」

「乾杯」


 カップをコツンとぶつけて口に含むとジュースはびっくりするほど冷えていた。

 こういう店だとそういうスキルの持ち主がいるんだろうな。


 オレたちは料理を取り分けて食べた。


「あら。この炒め物おいしいわ」

「こっちの肉もイケるぜ」

「それならどうぞ、全部食べていいわよ」

「いやそういうわけにはいかないだろ」

「……実はこの前嫌っていうほど食べたの」

「え?」

「地竜のお肉。お肉だけでお腹いっぱいになったのなんて初めてよ」


 あー、そう言えばティナがみんなで焼いて食べたって言ってたな。


「女子寮全員、しばらくお肉はいいかなって言ってるとこ」

「うわ、そりゃ贅沢な悩みだな」

「だからどうぞ、召し上がれ」

「そういうことなら遠慮なく」


 料理があらかた片付くとペコペコだった腹が少し落ち着いた。

 オレはまたジュースのカップを振り回して一人で乾杯した。


「路上ライブから始まって──とうとう箱でやったな!」

「公民館だけど」

「なーに、これからこれから。シャルならもっと上に行けるって。夢はでっかく全国ツアーだ!」


 腕を広げて大きな夢を表現するとシャルはクスクス笑った。


「その前にちゃんとしたホールでできるといいわね」

「どうせ羽ばたくなら大きく飛ぼうぜ」

「夢みたいな話ね」

「いやマジでマジで。シャルって絶対こっちの方が向いてるし。冒険者なんかよりミュージシャンやろう!」


 こだわりがあって冒険者学校に通ってるわけじゃないしな。金の事さえ何とかなれば音楽の道に進む方を選ぶだろう。

 シャルは笑いを納めて少し遠くを見る目で言った。


「そうね、夢の話をするなら、アイラ──私のルームメイトがキーボードをやってるの」

「え、楽器ができる人ってその辺にいるものなの?」

「あの子は実家が大きかったから。それからキャロルって獣人の子がベースをできるみたいなの。何故か隠してるんだけど」

「すげえ、トリオが組めそうじゃん!」

「三人でバンドを組んで、大きな舞台でプレイできたら楽しそうね」


 オレの頭にパッとイメージが浮かんだ。

 獣人の美少女が三人、ステージにいて大観衆に囲まれている。

 ウィル・オー・ウィスプの作り出す派手な光の照らす中鳴り響く三人の演奏は最高潮を極め、観客たちの熱狂は会場を揺さぶるのだ。

 多分シャルも同じイメージを思い描いていることだろう。


 そのトリオの端っこに自分も加えてみた。……ダメだな。ビジュアルも悪いが腕がついていかない。

 オレもシャルの指導を受けてずっと練習はしてるんだが、なかなか人前でできるほどには上達しない。


「その時はあなたがマネージングやプロデュースをしてくれるんでしょう?」


 シャルはそんなことを言った。

 そうか、そっちの道もあるか。


 宿屋の亭主もいいけど、マネージャーになって音楽の世界で働くのも面白そうだ。

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