冒険者学校
テイマーになって半年後。
西国オーランドのそのまた西の端の町・ウェスタ市にオレはいた。
つまりは人類世界の最果てだ。まあオレの故郷に比べれば先進的な大都会だけど。
この町はウェスタ湖に沿って発展した湖畔の町だ。
湖と言っても水たまりみたいな小さなものだが、この池のおかげで森の浸食を免れている。
岸辺をぐるっと回って湖の南側の森の際に学校がある。
冒険者学校だ。
テイマーのジョブを授かったオレは冒険者学校に入る道を選んだ。
この国の人間たちは常にモンスターと、あるいはたまに周辺諸国と戦争している。
なので軍人や冒険者は常に募集中、少しでも戦闘に使えるジョブを授かった者は無償で軍学校に入学できる。
祖父の家とは言ってもしょせんは他人の家だ。
いつまでも世話になってるわけにもいかないし、いい機会だから独立したってわけだ。
軍学校には軍人を目指す士官学校と冒険者・開拓者を育成する冒険者学校がある。
オレは冒険者学校を選んだ。人を殺したり人に殺されたりするのは嫌だからな。
士官学校は国境に近い東側にあり、冒険者学校は人類世界の辺縁の西側にある。つまりここだ。
今年度の入学者は90人だ。ちなみに士官学校は200人超が入学したそうだ。
ここで一年間のカリキュラムを経て冒険者か開拓者の道を選ぶ。
冒険者、開拓者になった者は授業料免除。
それ以外の道を選んだ者は一括で払うなりローンを組むなりして清算しなければならない。
オレは開拓者になるつもりだ。
ここで学んで入植の権利を得て、卒業したらどこかの開拓村で牛でも飼って暮らそう。
それがこの学校でのオレの目標だ。
テイマーのスキルを鍛えて、村人Aにオレはなる!
いよいよ学校生活が始まった。
すごく簡素な入学式とガイダンスで初日は終わり。
オレが到着したのは五日前だったが、そこで受けた寮生活のしきたりや心得の説明の方がよほど念入りだった。
二日目からは早速授業が始まった。
冒険者学校は戦闘科と支援科でクラス分けされている。
わかりやすく言えば前衛科と後衛科だな。テイマーはもちろん支援科だ。
戦闘科は約50人いて半分ずつの2クラス、支援科は40人弱の1クラスだ。
午前中の授業はクラスごとに分かれての座学だ。
ほとんどは冒険者や開拓者として生きていくのに役立つ内容だ。
例えば読み書きそろばんだ。
冒険の記録をつけておくとか目的地までに必要な食料の計算とか報酬の分配とか、冒険者には絶対に必要なのにこれを苦手とする者が多いらしい。
実際生徒たちの半分以上はここで苦労していた。オレの家は商売をやってたので基礎はできてて助かった。
本当に基礎しかできないけどな。
モンスター学やジョブ論というのもあった。
ジョブ論ではそれぞれのジョブの特性やスキルの内容、その伸ばし方について学んだ。
自分のものではないジョブについても一応概略は教えられたが詳細なことについてはジョブごとに分かれて指導を受けた。
支援科ならヒーラー、戦闘科ならファイターみたいなポピュラーなジョブだと同系統のジョブの教官がいて懇切丁寧に教えてくれる。
もっともテイマーについては謎に包まれていたんだが。
テイマーって数が少なくて教えてくれる人がいないんだよな……。
「ウィル、悪いがお前の先生はこいつだ」
オレの教科書は五十年前のテイマーが残した一冊の手記だけだった。
しょうがない、一人で頑張ってみるか。