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ベルナ

 食堂に誰でも飲めるように麦を煮出した安いお茶が置いてある。

 オレはそれをコップに入れて校舎裏に向かった。


 ティナはいつものように石段に座っていて、いつものようにチビチビとコップを傾けていた。

 オレは隣に腰かけた。


「今日は何飲んでるの?」


 聞いたらティナはコップを突き出して来た。


「ん」


 口の前にコップがある。これ飲めってこと?

 口をつけるとコップが傾けられて中身が入ってきた。


 オレも自分のコップで同じことをしてやった。

 どちらも食堂の麦茶だった。そりゃそうだ。


「同じじゃん」

「同じだし」


 そう言ってオレたちは笑った。


「──昨日のティナすごかったな! 可愛いだけじゃないティナさんだ」

「もう、やめてよ」


 ティナは嫌そうな顔をした。この子、自分が強いのも好きじゃないんだよな。凄いのに。


「いやマジですげぇって。憧れちゃうね」

「……そう?」

「マジでマジで。オレってクソ雑魚ジョブじゃん? 素直に憧れちゃいます」

「そうなんだ」

「ティナが強くなかったらオレたち全員死んでたよ。本当にありがとう!」

「……そう言ってくれるなら、ちょっとはよかったかな?」

「怪我とかしなかった?」

「ないない、当たらなかったし」

「でもスカートでスライディングとかしてたじゃん。すげー痛そうだったんだけど」

「大丈夫だよー、ほら」


 ティナは素足をスリスリ撫でた。確かに傷一つない。


「私シールドスキルが常時展開されてるから。ちょっとやそっとじゃ怪我しないの」

「さすが! 凄いなティナは。……でも何で格闘技なの? 前から気になってたんだけど」

「え?」

「だって武器使った方が強くない?」


 ティナは微妙な顔をした。何故だ。


「うーん……超獣って剣技スキルついてないし。それに剣とか槍とかって私が使うと壊れちゃうんだよね。力に耐えられなくて。私って素手の方が強いの」


 パねぇッス、ティナさん。


 その時ティナの耳がピクリと動いた。


「誰か来る」


 憩いの場を邪魔されるのが嫌だったのでオレたちは物置の向こうに隠れた。


 角からこっそり覗いてみる……やってきたのは男女の二人連れだった。

 男の方は支援科でジョブ論を教えている教官だ。妙にカッコつけた感じの若い男で男子生徒からは密かに反感を買っている。

 女の方は──あれはベルナだ。支援科の人気のメディックの。


「どうしたんだろ」


 背伸びしたティナのささやきが耳元で聞こえた。


「さあな」


 二人は石段に腰かけた。そこはオレたちの席なんだが。


 ……んん? なんだか妙に距離が近いぞ? 肩を寄せて、腰をピッタリくっつけて……。

 こっちからだと教官の顔は見えないが、ベルナは甘えた表情をしていた。


 二人は昼休みが終わるまでイチャついてやがった。


 午後の授業の鐘がなると二人はようやく石段を立った。やれやれ、オレも訓練場に行かないとな。

 しかし教官は戻ろうとしたベルナの肩を捕まえて──


「……っ!」


 オレは右手にコップを持ったまま左手でティナの口を塞いだ。

 同時にティナの手がオレの口を塞いでいた。


 二人は別れ際にキスしていた。神聖な学舎でするには少しばかり濃厚なやつを。


 二人が立ち去ってもオレたちはまだ校舎の角の陰にいて、お互いの口を押さえあったまま目で会話することしかできなかった。


 顔が真っ赤だぞ、ティナ。

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