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はじめてのぼうけん

 近頃のシャルはオレ以外のクラスメイトとも普通にしゃべるようになった。といっても相手は獣人が多いんだけど。

 なんか獣人って獣人とばっか固まってる感じなんだよな、ここに限らずどこでも。


 いきおいシャルと一緒にいるのは支援科のもう一人の獣人、アイラであることが多い。

 彼女のジョブは【プリースト】、回復や解呪のエキスパートだ。


 長い髪はクリーム色で目はガーネットみたいな深い赤。とっても細身でティナより薄い。

 獣人だけあって彼女もすごい美人さんで滅茶苦茶モテてるが女の子同士でつるんでる方が好きみたいで、雨あられのお誘いをブティックの売り子みたいなほほ笑みでかわしている。


「ねえ、今日はシャルも一緒にいかない?」


 そのアイラと、もう一人ウィズという人間の女の子がパーティーに誘った。


「ありがとう。是非お願いするわ」


 そう言ってシャルはこっちを見た。


「ウィルも一緒にいい?」

「え?」


 シャルが聞くとアイラは露骨に嫌そうな顔を作った。そんな一瞬でそんな顔できる?


「遠慮しとくよ」


 クールに去るけど、女子たちよ、オレだって傷つくんだぜ……?


 ----------


 いつもの校舎裏でティナはご機嫌だった。何だかいつもと感じが違う。


「髪型変えた?」


 真っ直ぐだった髪の毛が、今日は毛先が少し内側にカールしている。


「コテ当ててみたの。いろいろ試してるとこ」

「いつものティナも可愛いけどその髪型も似合ってるね」

「そう? えへへ」


 オレはクラスメイトにパーティーに入るのを拒否された話をした。

 そしたらティナもなんだかしょんぼりした。


「私もパーティーって組んだことない……」


 えっ? 意外だ。


「え、何で?」

「誰も私を仲間に入れてくれないの」

「何で?」

「なんだか私、怖がられてるみたいで……」

「そうなの? こんな頼りになる子いないと思うんだけど。見る目のない奴らばかりだな」


 それで毎日訓練なんかしてたのか。どうして探索に行かないんだろうと思ってた。森なんかすぐ目の前にあるのにな。


 ……ふむふむ、つまりここにパーティーに誘ってもらえない生徒が二人いる、と。

 あとレインとアメリもどうせ暇だろ。シャルは今日はわからんけど。まあ誰かいるだろ、マックとか。


「それじゃオレと行こうぜ」


 誘ってみたらティナはパッと顔を上げた。


「え? いいの?」

「こんな可愛くって頼りになる子、こっちがお願いしてるんだけどな」

「ありがとう!」


 ティナはニッコリ笑顔になった。

 うーん、太陽みたいに眩しいね。




 他の生徒たちが森に行くなりバイトに行くなりしていなくなった訓練場にオレたちは集まっていた。

 初パーティー結成だ。


 まずは主力のアタッカー、ティナだ。


 ティナは上は探索用の迷彩服──なのはいいんだが、下はスカートだ。

 多分しっぽが邪魔でパンツがはけないんだろうが、おかげで綺麗な足がむき出しだ。この姿で森に入ったら傷だらけになりそうなんだが、いいんだろうか。

 頭は肩にかかる程度の髪を後ろでキュッと結んでいる。白いうなじが目に眩しい。首ほっそ。

 制服の時より体のラインがわかりやすいな。肩ほっそ。これで本当に強いんだろうか。


 それからオレとレインとアメリだ。誘ってみたら二人ともホイホイついてきた。まあオレたちはどうでもいい。

 一応アメリは迷彩服の上に学校から借りてきたアーマーでガチガチに固めている。オレは盾だけ貸してもらった。


 ちなみにシャルはアイラたちのパーティーに加入してお出かけしている。残念だ。


 この中で一番経験があるのはレインだ。何しろ他は全員パーティーに加入したことがない。


「頼りにしてるぜ、先輩」

「おう、大船に乗ったつもりで任せとけ!」


 ドンと胸を叩いたレインは直後にヘコヘコ揉み手でティナのところへ行った。


「ティナさん、光栄ッス! 今日はよろしくお願いしまッス!」


 最敬礼で頭を下げる姿に呆れていたアメリがオレに聞いた。


「ねえ、いったいどうやって彼女みたいな強い子に一緒に来てもらうことになったの?」

「え? 普通に友達だから普通に誘った」

「そうよー。この前もデートしたし」


 ティナがツツツと寄って来て隣に立った。

 デート? デートかな? 少しはデートだったかもな?


「え……?」


 アメリは何か言いたそうにして、結局口をつぐんだ。


「何だよ」

「……私、そういうのはどうかと思うな」

「何がだよ」

「私は何も言わないから。自分で話してよね」

「何のことだよ」


 アメリは冷たい目をして距離を取った。

 何でそんな軽蔑の目で見られてるの、オレ。


 それからもう一人は教官だ。四十代の【ダークナイト】で、経験豊富な元冒険者だ。メチャ頼もしいので男女問わず人気がある。


「五人以上じゃないと森に入る許可は出せないし、お前たち初心者しかいないからな。今日は俺がパーティーリーダーだ」

「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」


 オレたちは並んで挨拶した。


「さて、以前実習中に説明したように森の中には目印となる地形がいくつかチェックポイントとして設定されている。今日のお前たちの目標はまず『キールの泉』を経由して境界際の『ステージ岩』を目指す。そこからロープ沿いに移動して『千年栗』の巨木にタッチして帰還する。単純なルートだからといって油断しないように。それから個別の目標も設定したぞ。アメリ、お前は道中のマップを作成すること」

「ハイ!」


「レイン、お前には斥候を任せる。やってみろ」

「ウィッス!頑張りまッス!」


「ティナ、お前は一回以上戦闘すること」

「……モンスターが出たらやります」


「ウィル、お前は可能であればモンスターを一体テイムすること」

「みんなの協力があればやれます!」


「そして全員できるだけスキルを使うこと。実践しないとスキルは向上しないからな。ただし魔力切れで倒れるなんてことのないように。初探索だとやりがちだぞ?」

「「「「気をつけます!」」」」


「よし、では出発だ」

「「「「はい!!!」」」」


 冒険者学校はウェスタ湖の南側にある。

 湖畔に女子寮、少し離れた南側に校舎、道を一本挟んで一番外れに男子寮。


 その校舎と男子寮の間の道が森の中へと通じている。


 オレたちはレインを先頭に森の中に足を踏み入れた。

 久々の森だ、教官に引率されて入った時以来だ。まあ今日も教官に引率されてるんだけど。


 チェックポイントまでのルートは何度も行き来する学生たちに踏み固められて小路になっている。迷いようがないな。

 でもアメリは嬉々としてマッピングしている。メモとかを取るわけじゃなくてスキルで頭の中にインプットしてるらしい。


 レインはちょろちょろ行ったり来たりしていて「もうちょっと落ち着け」と教官にたしなめられている。

 はしゃいでしまう気持ちはわからんでもない。


 あまりにも学生が通るので道には遮る小枝もない。これならティナの綺麗な足も傷つかないだろう。


「あ」


 先を行くレインの頭の上からボトボトッと何か黒っぽいものが落ちて来た。

 レインはそいつをヒラリとかわして曲がり道の向こうに消えた。


 気になってオレは自分の頭上を見上げてみた……ちょうど同じように黒いものが落ちてくるところだった。

 そいつはオレの上の高いところで見えない何かにぶつかってベシャッと平たくなった。


 ウエッ、気持ち悪っ。

 森ビルだ。この森に住み着いてる陸生ヒルの一種で木の上から落ちて来て獲物に取りつく習性がある。


 それが防がれたのはどうも誰かのスキルでシールドが展開されてるみたいだ。

 森ビルはシールドの上をウネウネ這いまわってたけど、そのうち見えない球面の上をズルズル滑り落ちていった。


「何だこれ」

「森ビルだ」


 呟いたら教官が答えた。そうでなく。


「いえそっちじゃなくてこのシールドです」

「それは私の[アンチバグズシールド]だよー。要するに虫よけスキル。ずっと使いっぱなしだから蚊にも刺されなかったでしょ」


 隣にいたティナがオレの袖をクイクイ引っ張りながら教えてくれた。

 おー……。オレは思わず拍手した。抱きしめたいところだが人目があるから我慢しておく。


「ティナすごい! そしてサンキュー!」

「いや、お前本当に凄いぞ。お世辞じゃなく。普通は虫刺されが酷いんだ」

「それなら先に教えてくださいよ」


 そう言うと教官は白い目でオレを見た。何故?


「痛い目見ないと覚えないからな。俺は毎年授業でキッチリ教えてるんだが、今日虫よけを装備してたのはレインだけだったぞ」

「ぐぬぬ。すいません……」

「ティヒヒ……あ、超獣ってすごいね!」

「えへへ、褒められちゃった」


 照れたティナは耳の端の白いところをいじった。


 少し奥に入ると道が三本に分かれていた。

 キールの泉は真ん中の道を行った先にある。

 今回のオレたちのルートはまっすぐ行って右側の道から帰ってくることになる。


「じゃあマークしときますね」


 アメリが[マップ表示]スキルを使った。

 おお、すげえ。空中にここまで歩いてきた道のイメージが投影された。

 ミニチュアの全体像だが大きさは可変で見たいところをクローズアップできるようで、指先でクイックイッと操作すると今いるところが拡大された。

 アメリはその三本の道の真ん中のルートに矢印を設定した。


「森でもそうだが洞窟なんかだとマッパーがいるといないとでは本当に違うぞ。本来は探索には絶対に必要なジョブだ」


 教官の解説にレインが思い出しながら答えた。


「授業でもそう言ってましたね」

「毎年口を酸っぱくして教えてるんだがな。学生はどうしても価値観が戦闘力に偏重するからなぁ」


 遠くからの鳥の声を聞きながら森を進むと最初のチェックポイント『キールの泉』に到着した。

 この湧き水は学生たちが飲用に使っている給水所だ。と言っても沸かすか浄水系のスキルを使わないと飲めないけど。


 まあオレにはウンディーネがいるからお手の物だ。

 ウンディーネならもっと汚い水からでも飲み水を作れる。何なら空気中の水分からでも水を作れる。水筒いらずだ。


 泉に沈み込んだウンディーネがたっぷり水を含んで浮かび上がり、[水質浄化]スキルを使った。

 オレは食堂から拝借してきたコップを滴る水で満たした。


「はい、ティナ」

「わー、ありがとう!」


 レインとアメリにも渡す。さらに「先生もどうぞ」とコップを差し出すと教官は軽く手を挙げてこたえてから受け取った。


「おう、ありがとう。そうか、自分でスキルが使えなくてもこういうことができるのか。何だな、テイマーって便利だな。何でお前人気ないんだ?」

「オレが聞きたいですね」

 ようやく冒険に出ることができました。

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