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アイラ

 アイラ・ミュスカールは支援科の生徒でジョブは【プリースト】だ。


 実家は裕福な商家なのだが家出同然でここに来てしまったので金銭的にはあまり余裕がない。

 普段はジョブを生かして病院でバイトして生活費を稼いでいる。


 お嬢様育ちのアイラには慣れないことばかりだが、生まれて初めて自分の力で何でもするという新鮮さを楽しんでいた。


 寮での同室は同じく獣人のシャルだ。

 彼女はアルバでもちょっとお目にかかったことのないような美少女なのだが、自分の美しさには無頓着で音楽に人生を捧げている。


 シャルとは最初はどうにもコミュニケーションが難しかった。

 会話が苦手なようで話しかけても素っ気ない返事があるだけだった。


 しかし子供の頃のアイラは花嫁修業として楽器をいくつか習わされていた。

 その楽器の話がとっかかりになってだんだん打ち解けることができた。


 今では時間のある時に昔やっていたキーボードを改めて教えてもらっている。


「食堂に行きましょう」

「ええ」


 アイラが誘うとシャルはギターを手に取った。


 寮の朝食と夕食の時間は決まっていて食堂で寮生全員一緒に食べることになっている。

 女子寮では掃除でも何でも当番制だ。料理もまた食材だけ業者が運んできて生徒たちが自分で作る。


「うわー、今日はお肉が多い!」


 給食カウンターでプレートを受け取ったキャロルがウキウキと声を上げた。

 実習で取れた獲物が充分にあると肉料理が一品増えることもある。今日はその日なのだろう。


 どこのコミュニティでも獣人は獣人だけで集まりがちだ。

 この寮でも一緒に食卓に着くのは同期の三人の獣人たちだった。


 ティナはアイラと同じくアルバの出身だ。

 と言っても生活圏が違ったせいでその頃の話はお互いあまり通じない。


 【超獣】というよくわからないジョブでとても強いらしい。とてもそうは見えないが。

 しかしそのせいで戦闘科ではかえって孤立しているようで、学校でしゃべる相手がいない分を取り戻すかのようによくしゃべる。


 キャロルのジョブは【パラディン】だ。強力な前衛職で男子からも女子からも頼りにされている。

 男の子みたいに背が高く、何もかもが豊かな肉体の持ち主だ。

 アイラは自分の肉付きの薄い体と比べてみた。……とても同い年には見えない。


 彼女は北側の国境付近の軍人の家庭に生まれ育ったそうだ。

 東側と南側の国境は今のところ安定しているが北側は不穏だとアイラでも聞いたことがある。

 父親の方針で同じ軍学校でも士官学校ではなく避難的にこの冒険者学校に来たという。


「ねえ、何か弾いてよ」

「私あれがいいなー、『ある恋の歌』!」

「あれでいいの?」


 リクエストを聞いたシャルはギターを構えた。

 アイラたちは仲良くなった頃からほとんど毎日夕食後に何か弾いてもらっていた。


 楽器でも歌でもシャルの音楽はプロ並だった。いや楽団が潰れる前の一年間は実際にステージに立っていたというプロなのだが。

 ともかく学生のレベルではない。


 ギターの調べと透明な歌声が食堂に響くと、他のグループの女子たちも耳を澄ませて聞き入った。


 アイラはこの友人のことを少し心配していた。

 どうもタチの悪い男子に引っかかっているようで部屋ではその男子生徒の話ばかりしているのだ。


「昨日なんて私を見て『月よりも月みたい』なんて言うのよ。何かのなぞなぞかしら」

(それ口説かれてるのよー!)


 首をかしげるシャルを見てアイラは態度にこそ出さなかったものの内心激しく焦っていた。

 この免疫のない子になんてことを言うのだろう。そんなフレーズ、アルバでも聞いたことがないし。


 しかしそれを指摘したらシャルは彼のことを今以上に意識してしまいそうで、できなかった。


 こんな田舎の冒険者学校なんかには似つかわしくない、手練手管の男の子。

 何と言っても音楽を教わるというのがいやらしい。的確にシャルの急所をついている。外見を褒めるよりずっと効果的だ。


 あんなのに引っかかったらシャルの人生に傷がつく。

 アイラはその男子生徒を警戒して見ていた。

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