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ショッピング

 この学校にも休日がある。生徒のためというより教官のためだが。

 六日に一度のその休日にオレは一人で町に出ていた。


 オレは店を冷やかして歩いた。シャルのため、というか先日もらってしまった金のためだ。

 どうせ返したって受け取らないだろうし、もらった金で何かプレゼントでも渡そうと思ったのだ。


 さて、何がいいだろうか。と言っても大したものは売ってないんだが。

 オレの村よりはマシとはいえ田舎だからなぁ。


 このウェスタ市は行政区分としては一応市の扱いだが、生徒数90人の学校が一つの産業になってしまうような小さな町だ。

 商店街もあるとはいえ小さな個人商店ばかりだ。


 北向きに花屋があって季節の花が店頭を彩っていた。

 うーん……花は飾るところがなさそうだし、もらった金額に対して安すぎる。


 パン屋を覗いたら焼き菓子を売っていた。女の子って甘いもの好きなイメージがあるよな……。

 うわ高っか! 砂糖が高いからしょうがないけどさぁ、食べたら終わりのものにこの値段ってどうなの?


 何軒か回ってみたけどピンと来ない。シャルが喜びそうなものは──やはり音楽関係か。

 オレはこの町で唯一の楽器店を訪ねた。


 品ぞろえはそこそこ良かった。

 いや楽器のことって詳しくないんだけどこんな小さな町にしては結構いろんな種類があった。


 シャルが持ってなさそうな楽器はどうだろう。

 笛とかいいかもしれないな、森でも持って歩けそうだし。吹けるかわからないけど。明日本人に聞いてみよう。


 店員によればいくつかはこの店の工房で作ってるそうだ。オーダーメイドの楽器とかいいかもしれないな。

 まあ今の持ち合わせではちょっと手が出ない値段だし、もう少しバイト代を溜めてプレゼントしようかな。

 もちろん本人の希望を聞いてからだけど。


 消耗品も充実していた。

 ギターのピック……は、指傷つかないらしいし使わないかもしれない。

 結局オレは店員おすすめのギターの弦を買って店を出た。これを渡して楽器屋デートに誘ってみよう。


「あ、ウィル」


 店を出たところで横から声を掛けられた。この可愛い声、ティナだ。


「こんにちは。こんなところでどうしたの?」

「やあティナ、ちょっと楽器を見に来たんだ。私服も可愛いね」


 今日のティナは白いシャツに若草色のキャミソールワンピースを重ねて、小さなカバンをたすきに掛けている。足には茶色の革靴だ。

 前髪も分けてヘアピンで留めていて、殻をむいたゆで卵みたいなおでこがつるんと見えている。


 ガーリーで、ちょっと子供っぽいけど、可愛い。


「特にそのスカート、よく似合ってる。どこで買ったの?」

「お金ないから自分で縫ったの」

「すごい!」


 意外な特技が……いや本当に凄くない?


「アルバの友達はみんなできたよ?」

「都会の子は違うね」


 そりゃオレの母親も家族の服は仕立ててたけどさ、こんなプロ仕様じゃなかったな。

 もちろんオレにはできない。庶民は大体そうだが、今のオレは古着を買っている。


「オレの服もお願いしたいくらい」

「うーん、どういうのが似合うかな? ウィルはカッコいいからちょっと悩んじゃう」

「カッコイイ……?」


 聞いたことのない単語だ。


「えー、だって髪もいじってるし、シャツもパンツもいつもアイロン掛かってるじゃない。そんな男の子、学校に他にいないよ」

「可愛い女の子と毎日会うからカッコつけてるのさ」


 よく見られてる。気を付けよう。


 オレたちはそのまま近くの食堂で昼食をとった。学生でも入れる安い食堂だ。

 ティナは小柄な割によく食べた。運動してるからかな?


「ここはおごるよ」

「えー、ダメだよ。いっぱい食べちゃったし」

「任せて。バイト代が入ったんだ」

「いいなー、バイト……」

「してないの?」

「したいんだけど、先生たちがダメっていうの。『そんなことしてる暇があったらもっと訓練して自分の力を使いこなせるようにしなさい』、だって。しょうがないから少ないおこづかいでやり繰りしてるの」

「そりゃ残念だな。もしバイトできたらどこでしたい?」

「もちろんカフェ! でもこの町にはないからレストランかな」

「ティナがウェイトレスしてたら通いつめちゃうね」

「どうぞご贔屓に!」


 ティナが服を見てくれるというので古着屋に行った。

 なかなかサイズが合うのがないんだよなー。おっさんはいいんだろうけど若者は大抵お腹がオーバーサイズだ。


「あ、これよくない? ウィルに似合いそう」


 ティナが服の山をひっくり返して見つけて来たのは着回しの利きそうなジャケットだった。

 でも袖を通してみたら案の定、肩幅と袖丈はいいんだが腹回りが緩い。


「惜しいな、ちょっとブカブカだ」

「いいよー、私が詰めたげる」

「え、そんなことできるの?」

「肩幅は無理だけどお腹周りは何とかなるよ」

「マジですごいなティナ。お願いしてもいい?」

「お任せ!」


 というわけでオレはジャケットを一つ買うことにした。ここはお礼に何か……。

 ただなぁ、女の子に服贈るのって微妙なんだよな。悩みどころだ。


 チラッとティナを見る。

 今日のティナは髪色に合わせたのか全体に明るめのコーディネートだ。


 今日の服に何か加えるなら、イヤリング──はダメだな。獣人の既婚者は左耳に飾りをつける習慣がある。

 さすがにそれは贈れない。


 散々迷ってワゴンで見つけたバーガンディレッドのリボンタイを手に取った。

 今はこれが精一杯だ。


 オレはジャケットとリボンを清算して店を出た。

 食堂の時点で先日のバイト代は吹っ飛んじまって今は生活費に手を付けてる状態だ。

 ヤバイな、バイト増やさないと……。


「後でサイズ取らせてね」

「お願い。──これはつまらないものだけど」


 リボンを渡すとティナは「わ」と目を見張って首に巻いた。


「どう?」

「うん、似合ってる」


 褒めるとティナはご満悦だった。

 子供っぽさに拍車がかかったような気もするけど、可愛いからいいか。

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