アリとキリギリスⅡ
ある夏の日、キリギリスは楽器を弾き、歌を歌って楽しく過ごしていました。
そこへ食べ物をせっせと運ぶアリたちの行列が通りかかりました。
不思議に思ったキリギリスはアリたちに尋ねます。
「何をしているの?」
するとアリたちはこう答えます。
「冬にそなえて、食べ物を集めているんですよ。」
それを聞いたキリギリスは笑います。
「まだ夏なのに!夏の間は楽しく歌って過ごせばいいのに」
キリギリスはそれからも楽器を弾き、歌を歌ってたのしく過ごし、アリたちは食べ物を集め続けました。
やがて秋が来て、だんだん森の虫たちも減って寂しくなりましたが、キリギリスはまだ歌っていました。
とうとう冬になり、食べ物がなくてキリギリスは困ってしまいます。
そんなときキリギリスは広場で炊き出しをしている団体を見つけました。
それは夏の日に笑っていた、食べ物を運んでいたアリたちでした。
凍えと飢えで今にも死にそうなキリギリスは、炊き出しをもらおうとその行列に並びました。
とうとうキリギリスの順番がやってきました。
「アリさんどうか僕にも食べ物を分けてくれませんか」
するとキリギリスに気がついたアリたちは答えました。
「これ、アリ専用なんですよ」
そして別のアリが言いました。
「夏の間歌っていたのなら、冬の間は踊っていたらどうです?」
そういうとアリたちはキリギリスを飛ばして別のアリへ食べ物を渡しました。
しばらくして、食べ物をもらえなかったキリギリスは凍えと飢えでとうとう倒れてしまいました。
「ああ、ぼくはもうダメだ。それにつけても憎きはアリども、人面獣心なり。三年のうちに祟りをなしてくれん。」
その時キリギリスに不思議な声が聞こえてきました。
「…し…か…」
「え…?」
「力が…欲しいか…?」
キリギリスは答えました。
「ほ、欲しい!やつらに復讐ができる力が!例えそれが、悪魔の力でも構わん!」
すると、どうしたことでしょう。キリギリスに不思議なことが起こりました。
全身に力がみなぎり、羽根は大きくなり、飢えも寒さも感じなくなりました。
腕を一振りしただけで太い葦をへし折り、少し羽ばたくだけで落ち葉が舞い上がります。
「す、すごい力だ。これならばやつらに復讐できる!」
キリギリスはすぐさま先程の広場に戻りました。
そこではまだアリたちが炊き出しをやっていました。
「な、なんだあれは?」
アリたちは驚きました。そこにいたのは先程の弱々しいキリギリスではなく、禍々しいまでに力強さにあふれたなにかでした。
キリギリスが羽ばたくだけでアリたちは吹き飛び、腕を振るうだけでアリたちは砕けます。
キリギリスであったなにかは、その復讐心のままに暴れ続け、男も女も、老人も子供も関係なく屠っていきました。
「こ、このままでは我々は全滅だ…」
そのとき、ケガをした若いアリたちに不思議な声が聞こえてきました。
「…し…か…」
「え…?」
「力が…欲しいか…?」
若いアリたちは答えました。
「ほ、欲しい!やつに復讐ができる力が!例えそれが、悪魔の力でも構わん!」
すると、どうしたことでしょう。若いアリたちに不思議なことが起こりました。
彼らの体が光に包まれたかと思うとやがて一つになり、一匹の光り輝く巨大なアリへと変化しました。
全身に力がみなぎり、腕は太くなり、痛みも恐れも感じなくなりました。
腕を一振りしただけで太い葦をへし折り、その体は飛んできた小石すらもはじき返します。
「す、すごい力だ。これならばやつに復讐できる!」
光の巨アリはキリギリスと戦いを始めました。
激しい戦いでした。彼らの足元では大地はえぐれ、石が舞いました。
石の下には冬眠していたダンゴムシの親子がいました。
ダンゴムシの坊やはいいます。
「お母さん、怖いよ」
「大丈夫、あっちの植木鉢の下に逃げましょう」
そう言って植木鉢へ向かうと、アリとキリギリスの戦いの余波で大きめの石が飛んできました。
「ああ!危ない!」
ダンゴムシのお母さんは丸まって坊やを突き飛ばしました。そしてそこに石が落ちてきて、お母さんはつぶれてしまいました。
「お母さん!お母さん!!」
ダンゴムシの坊やは泣きじゃくりました。
そのとき、ダンゴムシの坊やに不思議な声が聞こえてきました。
「…し…か…」
「え…?」
「力が…欲しいか…?」
ダンゴムシの坊やは答えました。
「ほ、欲しい!やつらに復讐ができる力が!例えそれが、悪魔の力でも構わん!」