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「こっちも、舞をここまで悲しませるクソ野郎に用事があってな。ほら来いよ馬鹿ども。叩き潰してやるよ」
「……ああ!?」
「今度はぶっ殺してやるよ!!」
叫んで突っ込んできた男たちだが、あまりにも遅すぎる。
まずは舞を後ろに下げるため、俺が一歩前に出る。
長身の男が拳を振り抜いてくる。
……遅い。
拳をかわしながら、俺は彼の目に両指をぶつける。
軽めの目潰し。だが、効果抜群。
「ぐわ!?」
悲鳴をあげてその場で倒れた男は無視しして、俺はもう一人の拳を片手で掴んだ。
そして、握力で握りつぶす。
「があああ!? は、離せ!」
……こちとら、異世界で鍛えた補正があるんでな。
骨が折れない程度に加減してやったが、痛みで男は動けないようだ。
隙だらけのその体を蹴り飛ばす。
転がった男たちがよろよろと立ち上がるが、俺は笑顔とともに近づいていく。
「あ、兄貴……?」
舞が驚いたようにこちらを見てくる。
……まあ、舞からしたら俺はただ一年間引きこもっていただけだからな。
驚いた舞の顔はとても可愛いのだが、やりすぎて怯えられたらお兄ちゃん泣いちゃう。
「て、てめぇ……!」
「……舐めんじゃねぇぞ!」
長身の男が、隠していたナイフを取り出す。
そんなもんまで持ってんのかよ。やべぇなこいつら。
男は武器を持ったからか、その顔には勝ちを確信した笑みが浮かべられている。
武器一つでそんな変わるものかってんだ。なんなら、こっちもインベントリから短剣とりだしてやろうか? あ?
銃刀法違反でしょっぴかれたくはないので、行動には移さないが。
「死ねや!」
思い切り踏み込んでくるが、あまりにも軌道が予測しやすかった。
別にこの程度のナイフ、回避する必要もないのだが……ここには舞がいるからな。
ショッキングな光景は見せたくない。
男の手首を掴みながら、俺はそいつの顔面に膝を叩き込んだ。
「ぶべ!?」
よろめいてから倒れた男はナイフを手からこぼした。
俺が倒れた男に近づくと、男たちは完全に力の差を理解したようで、怯えた様子で叫んだ。
「オレたちのバックには、あの『死鷹』がついてんだぞ!」
「『しだか?』」
「あ、ああ! そうだぞ! この辺をまとめてる、半グレのチームだよ! おまえ、オレたちに手なんか出してみろ! 殺されるぞ!」
自分の力ではどうにもならないと分かったからか、今度は別のものに頼るのか。
情けねぇな。
「へぇ、じゃあ全員連れてこいよ。全員叩き潰してやるけど?」
「……へ?」
「ほら、スマホ使っていいぞ? さっさと連絡して仲間を呼べよ。いい経験値稼ぎになるからな」
おっと、こいつらはモンスターじゃないか。
異世界では、仲間を呼ぶ魔物をいたぶってひたすら鍛えていた日もあったので、悪いクセが出てしまった。
呼び出すように言ったのだが、男はガタガタと震えたままだ。スマホを取り出す様子はない。
俺は小さく息を吐いてから、彼に問いかける。
「おまえ、下っ端も下っ端だろ?」
「……え?」
「さっきの叫んだ時の表情からなんとなく分かったんだよ。おまえ、別にその半グレたちを呼べるほどの信頼とかないんだろ?」
こちとら、色々な人間と関わってきたからな。表情の機微はすぐに理解できる。
顔を青ざめた男たちの目の前でしゃがんだ俺は、男が持っていたナイフを手にとってから、笑顔を向ける。
「おまえら……俺の大事なモンに手を出すっていうのなら、これ以上は加減できないけど、どうする?」
そう言いながら、俺はナイフを片手で握り潰した。
一切出血などはしない。この程度のナイフなら、握り潰せるくらい俺は異世界で戦わされたからな。マジ死ね女神。
俺の威嚇を見て、男たちは完全に怯えたようでその場で漏らしていた。
「す、すみません……! も、もう何もしないので命だけは!」
「おう。それなら見逃してやる。次はないけどな?」
「……は、はい……! すみませんでした!」
「おう。これからは真っ当に生きろよ?」
俺は怯えた様子で逃げていく男たちを、笑顔で見送った。
俺が振り返ると、舞が驚いたように目を見開いていた。
……怯えさせてしまっただろうか?
「えーと、舞……」
「あ、兄貴……かっけぇ!」
舞に声をかけると、舞は目を輝かせながら俺の方にやってきた。
どうやら、大丈夫そうだ。
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