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「そこの子、名前はなんていうんだ?」
「うえ!? ……えーっと、ルルラ、っていいます」
俺はルルラと名乗ったフェアリーをじっとみる。
前髪が長く、目元が隠れたその子はもじもじとした様子でこちらを見てきている。
正直、接客業を任せるにはあまり向いてなさそうな雰囲気だが……俺の考えている店は、別にキャッチのようなことをお願いするわけじゃない。
『リトル・ブレイブ・オンライン』は日々、たくさんのプレイヤーが増えている。
店売りの武器が微妙で、まだ鍛冶師が出てきていない今のタイミングであれば、武器を売ってくれる店というだけで客はいくらでも集まる。
俺が掲示板で宣伝すれば、今なら即売り切れになるくらいにはなるだろう。
だからまあ、最低限接客できればそれでいい。ルルラは他のフェアリーと比較して、最初から敬語を使えている部分もプラスだ。
「俺はしばらくの間、武器屋の管理をしたいと思っているんだが、できそうか?」
「……は、はい。やって、みたいです……っ」
「かなり内気っぽく見えるけど、大丈夫か?」
「……そ、それを、克服、したいんです……っ」
「……なるほどな。うちの店をその練習台に選ぶとはいい度胸だな」
「ひっ!? す、すみません……っ!」
「その意気やよし!」
「ひっ!?」
「客の相手は異邦人になる。丁寧にやってれば、大きな問題はないだろうから頑張ってくれ」
「じゃ、じゃあ……契約してくれるんですか!?」
ぱっと目を輝かせる。
どうやら、ルルラの契約条件はもう満たしているようだ。
「ああ、よろしく頼む」
俺がそういうと、ルルラは笑顔とともにこくりと頷いた。
この笑顔があれば、問題ないだろう。
契約を終えたルルラは、俺の肩のほうにゆっくりと飛んできた。
「の、乗ってもいいですか?」
「別にいいぞ?」
「し、失礼します……っ」
ぺこり、と頭を下げてから、ルルラは俺の肩へと乗ってきた。
俺の肩に乗ったルルラは、とても嬉しそうであった。
周りのフェアリーが羨ましそうに見ているので、どうやらフェアリーたちにとって契約者の方に乗るというのは憧れのようなものがあるのかもしれない。
俺も、なんたらマスターになった気分だ。
「それじゃあ、そろそろ戻るかな」
「もっと強くなったら、もっと契約できるようになると思うからまた遊びに来てねー!」
やっぱり、レベルをさらに上げれば契約でいるフェアリーを増やせるのかもしれないな。
この子たちは、ソロで遊びたい人向けのお供キャラなのかもしれない。
性別はもちろん、見た目や性格もかなり種類が豊富なので、気にいる子は確実にいるだろうしな。
俺は【ワープ】を発動し、ひとまずイレルナの街へと移動する。
「わあ、人間さんの街!」
「あんまり離れるなよ。食べられるかもしれないからな」
「え……? に、人間さんって私たち食べるの?」
「ああ、大好物だ」
「……そ、そんな……っ!」
「冗談だ。迷子になられたら困るからあんまり離れるなよ」
「……も、もう!」
俺の冗談にむっ、とルルラは頬を膨らませる。
からかいがいのある子だな。
【ワープ】の移動先は街の中央になるようだ。
これなら、街の中央に店を構えるといいかもしれない。
NPCに話を聞けば誰でも情報を教えてくれるのかもしれないが、俺はシスターさんに話へ向かう。
俺のこの街での相棒みたいなものだからな。
転職神殿に到着すると、いつものように休みなく働くシスターさんがいた。
今日も今日とて、社畜だなぁシスさーさんは。
俺の方を見て、フェアリーがいることに気づいた彼女はいつもの穏やかな笑顔を浮かべる。
「無事契約できたのですね」
「ああ。それで、店を出したいと思ってるんだけど、特に申請とかは必要ないのか?」
「ええ、異邦人の方であれば商売に関しては自由にしてもらって問題ありませんよ。もしも、出店のような枠が欲しいのであればアイテム屋などに置いてあると思いますよ」
出店か。別に店がなくとも、販売をする上では問題なさそうだが、あったほうが目立つよな。
それに看板でもつけておけば、よりわかりやすくなるはずだ。
「よし、ルルラ。アイテム屋いくぞ」
「は、はい……っ!」
転職神殿にいた猫と戯れていたルルラに声をかけると、すぐにこちらへ戻ってきた。
俺がアイテム屋に移動し早速アイテムを見ていく。
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