銀剣のルフィナⅡ
ルフィナが母親のルセナに歩み寄って声を掛ける。
「お母さん」
ルセナは本を読んでいた。この世界に訪れて暇があれば本を読むことが日課になっていた。
「んー?」
ルフィナは母親のルセナに言いにくそうに言う。
「私、この世界を観て回りたいの」
ルセナはそれを聞いて本を閉じ、ルフィナの顔を見やる。
「ルフィナ、あなたが旅に出るというなら止めはしないけど・・・・私達は特異点の異能者、いつどこでこの力が暴走するか分からないのよ?」
そう言ってルセナは自身の特異点である理由の【創造】を発現させ、手のひらから蝶を造り出してさらにそれを消す。
「今はこうして穏やかな暮らしが出来ているけど、抜き差しならない切迫した状況なら私はルフィナのために異能を使う、例えそこで私の命が尽きようとも構わないわ」
頷くルフィナの様子を見て、ルセナは溜め息を吐いた。
「まあ、私が止めても無駄でしょうね、私は奴隷の民として生きてきた時間が長すぎた。あなたは自由に生きなさい」
そうルセナに言われてルフィナは言う。
「エイリーが私の旅に着いてきてくれるって!名前がイールに変わっちゃったの!」
「そう、エイリーが・・・・それなら私は止めはしません」
ルセナがそう言うと、ルフィナは満面の笑みで問う。
「いいの!?」
「いってらっしゃい、ルフィナ」
ルフィナは母親の許可を得て、それからすぐに出発とはいかなかった。
蒼い髪の男が教えたのは剣術だけ、それ以外のことは全くもって皆無であり、ルセナから教わった調理術はあるものの、その他のことは一から教わることとなった。
それから数ヵ月はリックとイールと過ごすようになった。
サバイバル術がまず何よりも肝心で、何度も家からほんの少し離れた場所で訓練が始まった。
それにイールの騎乗訓練、イールはとても乗り心地の良い鳥だが、移動速度が尋常ではないために乗りこなすには技量を磨く必要があった。
それに加えて馬上、この場合は鳥上となるが、鳥上での剣の扱いもまた磨く必要があった。
イールに乗ったまま銀剣を振るうのはルフィナにとっては慣れないものの、持ち前の剣才ですぐに扱えるようになった。
そうして最後の試練が訪れる。
「来たか」
「おう」
蒼い髪の男がそう言って、ルフィナに紹介する。
「ルフィナ、俺が懸念するのは対冒険者対策だ。俺ではそれが教えられない、俺は冒険者としては弱い方だからな。それでこの人を呼んだ」
「レイラだ、よろしくな」
レイラはそう言って、空間から剣の柄を握り、ずいっと引き抜いた。
「よ、よろしくお願いします」
蒼い髪の男は銀剣を鞘から引き抜くルフィナに対して言う。
「レイラを倒せたなら明日から冒険者として旅をすることを許可する」
剣を半身に構えて静止するレイラ、その構えを見てルフィナは驚愕する。
強すぎる。
「いくぞー」
レイラがルフィナにそう声を掛けた瞬間、一瞬で間合いを詰められ、振り下ろされる一刀に対してルフィナは銀剣を重ねるも、剣圧に弾き飛ばされてしまう。
「あ」
レイラが切り返す刃で笑みを浮かべながら、ルフィナを真剣で斬り伏せる。
斬られ、倒れてルフィナは斬られた箇所を触って確かめる。
確かに痛みは残っているが、傷口は完治している。
そのルフィナの様子を見てレイラは笑顔でルフィナに言う。
「エイリー・・・・今はイールか。あいつのイグドラシルフィールド内での怪我はすぐに完治する。まあ痛みが少し残るけどな」
レイラが倒れたルフィナに手を差し伸べてルフィナを立たせるとレイラはルフィナから離れて間合いの外に立った。
「じゃあ、次だ」
剣を構えるレイラに対して、ルフィナは改めて銀剣を構え直す。
斬られたというのに実直だ、蒼い髪の男の弟子というだけはある。そんな風に考えていたレイラが微笑んでいると、ルフィナが地面を蹴ってレイラに対して仕掛けてきた。
「そう、格上を相手にする場合は自分から攻めに転じなければいけない」
ルフィナの渾身の剣閃をレイラは軽くあしらいながら説明している。
蒼い髪の男がそのレイラとルフィナの様子を見つつ、一緒に眺めているイールに対して問う。
「使うか?」
「んーどうだろうね、ルフィナは剣に誇りがあるみたいだから使わないかも」
その蒼い髪の男とイールの会話を聞いていたルセナもまた剣を振るうルフィナを観ている。
使うか、使わないか、という話はルフィナの特異点たる理由である【増幅】の異能だ。ルフィナ自身が使用しようと思えば簡単に発現することが出来得るだろうが、剣術のみで勝るレイラ相手では使わないのではなく使えないのだろう。
「立派な騎士道精神だ、よく育てたね。ししょー」
イールがそう言うと、蒼い髪の男は後ろ髪を掻きながら冷静に言う。
「教えもあるが、育ちもその理由なのかもしれない」
ルフィナが両手で袈裟斬りに放つ剣閃に対して、レイラはそれを片手で跳ね上げルフィナの剣ごと腕も身体も吹き飛ばす。
勢いを殺すために後ろに飛んだルフィナが後転着地するが、体勢を整える前にルフィナの肩にレイラの剣が乗っかっている。
「むぅ」
「力を込めすぎるのもだめだ。斬るだけでいい、刃物は人体に対して強い、刃を通すだけで斬れる。自分より腕力がある相手に対して力で挑もうとするのも良くない」
レイラがそう言って、また再び間合いの外に立ってルフィナを目の前にして構える。
幾度となくルフィナはレイラに挑むが、レイラはルフィナの繰り出す剣を全て受けて返して見せた。
「うわぁ、レイラさんにあそこまで挑めるルフィナちゃんすごい」
リックがそう言って蒼い髪の男とイールと並んで観ていると、レイラがその様子に気付いて悪い笑みを浮かべている。
「ん?」
そんなレイラの反応に対して蒼い髪の男はやれやれと空間からリックの主武器である双剣を引き抜いて、リックに手渡した。
ちょいちょいと手招きするレイラ、目の前でルフィナがバテて倒れ込んでいる。
「えぇ」
リックは手に持った双剣を構え、レイラに対して駆け出していく。
「おー」
イールがそんなリックを観て関心している。
蒼い髪の男の見立てではそのリックの対応から剣術ならリックは三、レイラが七でレイラに分がある。
「【封牢結界】!」
レイラの周囲に極めて細かな結界の線が断ち切り糸のように張り巡らされた。
「ほう・・・【幻影身】」
レイラが幾人にも分かれ、複数の幻影がリックに襲い掛かる。
一度発動した封牢結界は解除しなければ新たな結界として生み出せない、リックの技は蒼い髪の男の波動剣と違って複数の発動が出来ない。
「わ!ちょっ!」
複数の幻影であるレイラの剣を一つ一つ受け続けるリックだが、次第に速く斬りつけていくレイラの幻影に手一杯になっている。
とうとう受けきれなくなって玉砕覚悟でリックは右手の剣を身動き出来ないレイラ本体に対して飛刀する。
レイラの幻影がリックが投げた剣を弾く、その剣影に一つのクナイが隠れていたことにレイラが気づき、首だけ傾げてそれを避けた。
リックが笑んだ瞬間、リックの背中にヒヤリと冷たい何かがそっと乗っかっている。
「ふぅん、やるじゃん」
そう言ったレイラがリックの背後で剣先をリックの背中に添えている。
咄嗟に封牢結界を解除して自身の身を守ったリックだったが、少し反応が遅かったと自覚する。
「ま、参りました」
「大したもんだ、まさか【幻影身】の奥の手を引き出されるとは思わなかった」
レイラがそう言ってリックの頭を撫でている。
幻影身はただ幻影を複製するだけではなく、レイラ本体と幻影の位置を入れ替えることができる奥の手がある。
詳しく知っているのは蒼い髪の男とそれに親しい仲間達だけだ。
レイラが息切れして倒れ込んでいるルフィナ、負けたことにショックを受けているリック、二人を見やって最後に蒼い髪の男を見やる。
「俺は負けるのが嫌だ」
蒼い髪の男がレイラにそう告げると、レイラはにっこり笑って言う。
「次はリズにも勝てるだろ」
ルフィナが立ち上がり、蒼い髪の男に言う。
「ししょー、私の代わりにお手本を見せてくれませんか・・・・」
リックは落ち込んでいて、向こうを向いている。よっぽど負けたことがショックだったようだ。
レイラがそう言ったルフィナを見やり、蒼い髪の男の顔を見る。
「やれやれ」
蒼い髪の男は空間から両腕でカタールを取り出し、装着する。
レイラはその様子を見て、蒼い髪の男に剣先を向けた。
「本気で行くぞ」
蒼い髪の男がそう言うと、レイラは微笑んで言葉を返す。
「わかってるって」
前に倒れ込むように駆け出した蒼い髪の男がレイラに対してカタールの刃による突きを放つとそれに合わせて波動の刃が複数に渡ってレイラに向かう。
波動の刃をレイラは全て片手の剣で受けきり、吹き飛ばして体勢を整える。
その瞬間にレイラの幻影身による分体が蒼い髪の男を囲むが、蒼い髪の男はそれらをカタールの一振りで波動の刃を発生させ、霧散させていく。
その分体の中に霧散しない状態で留まり続けながら波動の刃を搔き消していくレイラ本体が出現する。
大上段でレイラは剣を蒼い髪の男に振りかざし、そのまま振り抜いた。
蒼い髪の男はその振り抜いた刃をカタールでは受けきれないと判断して波動の刃を幾重にも出現させ、さらに自身もカタールで受けきった。
火花を散らしながら鍔迫り合いにもつれ込むが、レイラはその瞬間にも幻影身で分体を作り出す。
それら分体に対して蒼い髪の男は波動剣による刃の波動を周囲に発生させるが、それだけではレイラ本体を止め切れない。
剣術とカタールによる暗殺術による剣戟が始まり、お互いに波動の力を使わずに単純な斬り合いと化してしまう。
一撃の重さはレイラに分があり、手数の多さでは蒼い髪の男に分がある。
その均衡はレイラによって崩された。
蒼い髪の男を蹴り飛ばしたレイラが立っていたが、そのカタールから滴る毒の雫を見てレイラはその場で卒倒する。
見ていたリックがすぐに立ち上がってレイラに解毒薬を飲ませ、蒼い髪の男を見やる。
イールのイグドラシルフィールドで打撲と切り傷を回復した蒼い髪の男が立ち上がり、呼吸を乱しながらカタールを空間に収納した。
「毒は卑怯」
イールが蒼い髪の男にそう言うと、ルフィナとリックが頷いた。
「本気でやると言ったろ、レイラもそれは分かっているはずだ」
解読薬ですぐに解毒され気が付いたレイラが立ち上がって蒼い髪の男の姿を探す。
「引き分けだ引き分け」
そう言った蒼い髪の男に対してレイラは何か言おうとしたが、大きな溜息を吐いてその場に座り込んだ。
「いくら剣術や武術で勝っていても勝負は分からない、か」
レイラはそう言った後にルフィナを見やる。
「じゃあ、続きだ」
「ひええ」
ルフィナは数週間、レイラからみっちりと戦闘教育を受けた。
▼
数週間後、無事にレイラの戦闘訓練が終わるとルフィナは剣術だけでレイラと長時間戦える程となっていた。
剣術だけではないが、レイラにとっての冒険者の対人戦術はルフィナに叩き込んだつもりだ。
見ていたリックもその訓練に加わって一緒になって勉強していたようだが、リックはしばらく蒼い髪の男の手伝いをするらしい。
「まあこの世界に来た冒険者は割と軽く死ぬヤツが多いからな、イールのおかげで何度か遭った死に目を回避してるし」
レイラが思い出し笑いながらリックに蒼い髪の男の話をよく聞かせていた。
ルフィナは戦闘訓練を終えた翌日に荷物をまとめてイールに乗り込み、皆に別れを告げた。
「それじゃあ私、行くから」
「じゃあ、ここからはボクがルフィナを守るよ」
ルフィナを乗せたイールがそう言って皆に挨拶をする。
手綱を握ったルフィナが、母親のルセナに小さく手を振るとルセナは微笑んで言う。
「いってらっしゃい、ルフィナ」
ルフィナがルセナの言葉を聞いて頷き、イールの手綱を握ってイールを走らせた。
あっという間にイールはその場から走り去り、ルフィナとイールの背は見えなくなってしまった。
「さて、これからどうする?ルフィナ」
イールに問われ、ルフィナは笑顔で言う。
「まずは王都に行って冒険者登録する」
「冒険者登録ね、あれはあってないようなものだけど」
「依頼をこなしてお金を稼いで貯金する!」
貯金ね、とイールは思い出して笑ったようルフィナに言う。
「先々代の乗り手はああ見えて浪費家だったし、先代のリックは倹約家だったけど、ルフィナは貯蓄か」
「依頼を受けて階級を上げればそれだけお金も入ってくるし、自信はある」
そうルフィナはふふんと鼻を鳴らして言った。
その日のうちにイールにとって久方ぶりの王都へ着いた。
ルフィナがイールを連れて冒険者ギルドへと足を運ぶと、イールの姿を見た冒険者たちがどよめいている。
「んん?」
ルフィナがその冒険者たちの視線を浴びて不思議に思っていると、イールはルフィナに言う。
「ボクは割と有名だからね、乗り手が替わって驚いてるのさ」
ああ、とルフィナは呟いてイールから降り、イールを近くの馬繋ぎ場へと連れて行ってイールを繋ぎ留めた。
「行ってくるね」
ルフィナがそう言ってイールの頭を撫でると、イールは頷いて言う。
「行ってらっしゃい」
ルフィナは歩いて冒険者ギルドの建物の中に入っていった。
繋ぎ場に繋がれたイールに対して何かをしようとする輩はまず居ない、イールに対して何かすれば蹴られて吹っ飛ばされるだけだ。
しかしながらまだ歳若いルフィナに対しては冒険者ギルドの荒くれ者は気に入らない。
「よう、おじょーちゃん」
冒険者ギルドに入るとすぐにルフィナに対して声を掛けてきた男。
ルフィナにとっては男に用がないので無視して進み、冒険者ギルドの受付まで辿り着いた。
「こんにちは」
「こんにちは、冒険者ギルドにようこそ」
受付の方は女性だ。
ルフィナの背を追って来た男に対して、別の男が引っ張って後ろに投げ、その男に対して言う。
「ここで死ぬ気か?」
「何すんだ野郎は引っ込んでろ!」
受付の女性と冒険者になるための手続きを進めるルフィナ、登録には名前とルフィナの指紋があれば後は認証タグを受け取るだけで済む。
後ろに立っていた男がルフィナを指差し見せて、酒瓶のコルクを指で弾いてルフィナを狙った。
放たれたコルクが空中で何かに弾かれて倒れている男の眉間に命中する。男はその衝撃で気絶したようだ。
ルフィナが何をしたのかその場にいる全員が分からない。
ただそれを見ていた冒険者達は固唾を飲む、ルフィナは受付とちゃんと応対して冒険者登録を済ませた様子だった。
「何か依頼を受けて行かれますか?」
受付に問われ、ルフィナは受付の女性が勧める依頼のどれかを眺めて悩む。
「うーん、じゃあこれ」
ルフィナが指差し選んだのは王都南門でのウサギの駆除だ。増え過ぎてウサギによる自然の落とし穴が増えており、近隣の住民が困っているのだという。
「承りました、この個体は狂暴で噛みつかれることもありますのでお気を付けください」
「ありがとう」
ルフィナはそう御礼を言って一番下の階級のタグを手に取って冒険者ギルドから出て行った。
「ただいま」
「どうだった?」
イールが楽しそうにルフィナの様子を見ながら聞くと、ルフィナは少し考えた後にイールを繋ぎとめていた手綱を解いて言った。
「ウサギの駆除だって」
「アレかぁ、日が暮れないうちに終わるよ」
それを聞いたルフィナがイールに騎乗する。
「じゃあ、行ってみよう」
「夜はどうするの?」
それを聞いたイールが走り出すと、ルフィナは自信なさげに言う。
「野宿、の練習」
「悪くない判断だと思う」
ルフィナは、料理が下手だ。
母親のルセナは家事全般、財務管理、礼儀作法、読心術、応急手当の心得、化粧術などの渡るスキル持ちだがルフィナ自身が興味を持たなければ娘に教えることはしなかった。元々、異世界の王族の奴隷であるために娘に教え込むつもりでいたが奴隷から解放されてこの世界に転移し、娘に教えることが重要ではなくなったためだ。
特にルセナの作る料理は美味しいため、食べることが専門で料理は習うことがあってもそこまで得意とは言えない。
王都から南側の森に着くと、森は大量に発生したウサギで溢れかえっていた。
ウサギのような姿とはいえこの世界におけるモンスター、倒せばその身体は霧のように消えて稀に何かアイテムをドロップする。
ルフィナがイールから降りて一匹のウサギに標的を定めると、足元の石を拾って遠くから構えた。
「えい」
投げられた石がウサギに命中し、ウサギはそのまま絶命して霧へと変わって霧散していった。
その瞬間に近くに居たウサギが様子を見て、ルフィナとイールに敵意むき出しで向かって来る。
「ふむ」
ルフィナは銀剣を引き抜くと、間合いに入ったウサギから悉く切り払っていく。
イールにもウサギが飛び掛かってくるが、イールはそれらを蹴り払い、羽ばたき、くちばしでつついていく。それらの所作だけでウサギが絶命していることにはルフィナも驚いている。
特に羽ばたくだけというのが不可解だ、風圧による烈風でウサギを切り裂いて絶命させている。
ほんの十数分でウサギを何百匹と倒したかルフィナにも分からないが、認証タグには記録として残っているらしい。
森はむやみに歩けない状況だ、ウサギが巣穴を掘ってそのままにしているから自然の落とし穴がいくつも作られている。
イールはそれらを踏みつけて安全のためにと埋めて道を作っていく。
ルフィナが落とし穴を踏んでもせいぜい落ちないように回避することぐらいしかできない、イールのように踏みつけての地固めも体重が足りないため無理だろう。
その森周辺のウサギを狩り尽くすと、太陽も大分傾いてきた。
ルフィナは野宿するに良さそうな場所を見つけて、その近くにイールに運んで貰ってもらっていた荷物を下ろす。ウサギを狩るついでに集めていた枯れ木を立てて合掌型、いわゆる閉じ傘のように枯れ木を組んでいく。
火種は火打ち石をナイフの背でひっかくと出来る小さな火を、集めていた枯れ木から作れる火口に落として起こす、これさえあれば初心者でも魔法なしで火を起こせる。何もないところから火を起こすことが苦手なルフィナが出来るやり方だ。
無事に焚き火を作ることが出来た。その時点で辺りは薄暗くなっていて次からは少し明るいうちから行動しようと心がける。
後は人が一人入れるだけの小さなテントを張って、その中で寝袋に入るだけでいい、問題はなさそうだ。
その時点で既に真っ暗だ。この時点から枯れ木探しをすればルフィナでも近辺でウサギが作り出した自然の落とし穴に落ちる自信がある。落ちたら人一人簡単に埋まる穴だ、窒息で死にかねない。
もしルフィナ一人の野宿ならばテントは張れず、近くに焚き火も置けない。誰かに襲われる可能性を考慮しなければならないからだ。
その際は葉の多い木の枝を集めて身を隠し、寝袋の中で剣を握って眠るだけだ。
しかし、今回は旅のお供であるイールが居るのでそこは問題がない。
イールの眠りは浅く、何かが近づけばそれだけで気配を察するだろう。
ルフィナは荷物の中から世界樹の実を取り出してイールに食べさせる。イールは口を開けているだけだ。イール本人はいくら食べても構わないと豪語するが、リックから一度の食事量を教えられているためルフィナもその分しか食べさせない、世界樹の実は希少で高値だ。
自分の分は家から持って来たパンをナイフで切り取って、あとは小さめなフライパンで干し肉を焼いてパンに挟んで食べる。
まだ実感はない、食料も家で用意したものなのでこれが尽きたら自分で依頼をこなして稼いだお金で食料を買ってどうにかするしかない。
ただ、ルフィナはそこで初めて自由を感じていた。
ここからがルフィナの冒険の第一歩。
そんなルフィナをイールは焚き火を挟んで眺めていた。
イールはルフィナに伝えなければならないことがある。
焚き火の先で少し焦がした干し肉を残念そうに笑って頬張るルフィナ。
イールはまだ時期が早いと思い、押し黙って目の前の楽しそうなルフィナを観ていた。
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