059 輝け! モンテマニーの紋章
060 輝け! モンテマニーの紋章
モンテマニー公爵への報告が終わったボクたちは、【2位興国大学】へと向かっていった。
ルナ
「たぶん、いや、絶対に乱闘になるはずだから、紅丸、黄庵、青兵衛、そのつもりで覚悟してね。」
紅丸
「ルナ様、おまかせください。 よろいの騎士が来ても撃退します。」
黄庵
「ルナさん、夜まで待ってもらえますか? 昼間は厳しいです。」
青兵衛
「ルナ、悪人は夜にお金を数えますから、夜に行きましょうか?」
ルナ
「じゃあ、夜の予定を聞き込みしようか? どうせ、宴会するだろうからね。」
ぼくらは聞き込みをしようとしたんだけれど、意味がなかった。
掲示板に貼り出してあったからだ。
「おしらせ
XX月YY日 ZZ時から、AA旅館を借り切って、合格者研修を行います。
自由参加ですが、職場の先輩と交流するチャンスです。
お互いに気ごころが知れた仲になって、円滑に大学での職務を進めましょう。」
掲示板の下には、地図付きの案内文が置いてあって、
「ご自由にお持ち帰りください。」
と書かれた重しがあった。
ボクたちは、ひとり1枚ずつ持ち帰ることにした。
◇
ボクたちは、神様からもらった移動できる家に帰った。
どうせ、夜に出かけるからと、ボクたちは外向けの格好、つまり、男装のままだった。
リビングに集まったボクたちは、感想を言い合った。
ルナ
「これって、研修という名の酒盛りだよね。」
紅丸
「酒盛りだけで済めばよいですね。」
黄庵
「若い女性に薬を盛って、意識混濁状態にするつもりかもしれませんね。」
青兵衛
「裏金も集まりそうだから、頂いちゃいましょう。」
ルナ
「うーん、一度、モンテマニー公爵に引き渡してから、分け前をもらう方が無難だよね。」
紅丸
「ルナ様にとっての御主君は、モンテマニー公爵ですか?」
ルナ
「主君というよりは、協力関係かな?
モンテマニー公爵が進む方向がボクたちと同じだけだよ。 今のところはね。」
黄庵
「ルナさん、モンテマニー公爵が進む方向を変えたときは、どうされますか?」
ルナ
「そのときは、お別れのときだね。 でも、現時点の彼は、ボクにとっての【最後の正義】だよ。 どこまで本気かは分からないけれどね。」
青兵衛
「ルナ、利害が一致している間は協力すればいいわ。 世の中は結局、人の数とお金の量だからね。」
ルナ
「そうだね。 お金なき正義は無力だよね。」
というような意思確認をしてから、ボクたちは晩ごはんの準備をした。
宴会に参加する気はないし、そこで出された料理に何が盛られているか怖くて食べられないからだ。
ルナ
「じゃあ、晩ごはんの材料を買いに行くから、紅丸、荷物持ちをお願いするね。」
紅丸
「ルナ様、お任せください。」
いい返事をした紅丸だったが、医学書を読み始めた黄庵と、金の計算を始めた青兵衛を、うらやましそうに見ていた。
だから、ボクは紅丸の腕を抱き寄せて、紅丸に寄りかかった。
その様子を見た、黄庵と青兵衛は悔しそうにしていたが、ボクは気づかないふりをした。
次回以降は、すすんで買い出しを手伝ってくれるだろう。
◇
いつもより早めの晩ごはんと歯磨きと食休みを済ませたボクたちは、研修会場という名の宴会場に向かった。
宴会場につくと、障子越しから、熱血教師の機嫌が良さそうな声が聞こえる。
熱血教師
「良太郎はバカである。 みんなもそう思うよな。」
取り巻きたち
「そうだ、そうだ。 熱血教師様は正しい。」
「みんなが、良太郎は頭がおかしいと言っている。」
「みんなに嫌われているわ。良太郎なんて、どこか遠くに行けばいいのよ。」
「二度と会えないくらいの場所に行ってほしいな。」
「あんな精神異常者を雇うモンテマニー公爵はおかしい。」
「変な奴だから、変な奴をやとったんだろう。 類は友を呼ぶとはこのことだな。」
「ああいうのは間引きしないと、世の中が駄目になるぞ。」
熱血教師
「そのとおりだ。 いや、素晴らしい。 さすがは【教員資格】を得たひとたちだ。
実に話がわかる。
愚か者どもを排除して、われわれ賢い者が導かなければいけないのだ。」
取り巻きたち
「そうだ、そうだ。 熱血教師様、ばんざい。」
「われわれの正義のシンボルだ。」
「ついていきます。」
熱血教師
「みんな、ありがとう。
それでは、あたらしい仲間たちとの交流をして、互いの絆を固くしようではないか?」
取り巻きたち
「待ってました。」
「もう、待ちきれないわ。」
ボクは、紅丸に声を掛けた。
ルナ
「紅丸、また、障子だけ斬ってくれる?」
紅丸
「ルナ様、斬りました。」
紅丸が宴会場の障子を斬ると、宴会場の中の様子が丸見えになった。
黄庵
「ひ、ひどい。 あなたたちは、なにをしているの?」
意識不明で、よだれを垂らしている若い女性の服を脱がそうとしている大勢の男性教師たち。
意識不明で、よだれを垂らしている若い男性のズボンの窓を開けて、中身を出そうとしている大勢の女性教師たち。
青兵衛
「悪代官の屋敷でも、もう少しマシですね。 奴らは素人さんには手を出しませんからね。」
ルナ
「そこまでにしてもらおう。」
熱血教師
「なんだ? 変な奴らが来たな。 ここはお前たちが来て良い場所じゃない。
どっか行けよ! おら、さっさと帰れ。」
紅丸
「ここにおわす御方をどなたと心得る、監察官のルナ様だぞ。」
黄庵
「おとなしく、降参しなさい。」
青兵衛
「地獄の沙汰も金次第だ。 見逃してもらいたかったら、金を置いていけ。」
ルナ
「青兵衛、ふざけないで。」
ボクは、青兵衛に、ダメ!と合図した。
青兵衛
「お金は大事ですよ。」
ルナ
「まるで、金を払ったら悪いことしても許されると勘違いさせたら、どうするの?」
青兵衛
「罪は命であがなえですか? 悪人の命に価値はありませんよ。」
熱血教師
「ふざけんな。 者どもかかれ! 不審者を追い出せ!」
体育教師
「まあまあ、ここは俺が実力の違いを見せつけてやりますよ。
お前たちの中に、俺とタイマン張る度胸がある奴はいるかよ!」
体育教師が襲い掛かってきた。
ルナ
「紅丸。」
紅丸
「おまかせください。」
紅丸は刀を抜こうとしたが、元に戻した。
ものすごいがっかりした顔をしていた。
次の瞬間、体育教師の大きな体が宙を舞っていた。
紅丸が、あっさりと1本背負いを決めたのだった。
体育教師は、痛さのあまり気絶していた。
紅丸
「あたまを打たないように、手加減されて、この程度か。
【妖刀斬 紅丸】が抜刀を拒否するわけだ。」
女性教師
「まあ、なんて素敵な殿方たちでしょう。
特に、お金に汚そうな貴方、青兵衛さんは稼いでいそうね。
わたしとの一夜を買いませんか?」
青兵衛
「買取できません。」
女性教師
「キー、あたまがおかしいんじゃないの。
ワタシの魅惑的な身体にひざまづかない男性はいないのよ。」
青兵衛
「それなら、なぜ、若い男性たちを酔いつぶしたんだ?
拒否されたからだろう。 いつまでもあると思うな、若さと美貌。」
女性教師
「セクハラで訴えてやるわ。」
女性教師は、青兵衛の手を取って、自分の胸をもませた。
女性教師
「どうよ。 この素晴らしい胸は健在よ。」
青兵衛
「小さいし、固いな。
本物の胸を教えてあげよう。」
青兵衛は、女性教師の手を取って、自分の胸をもませた。
女性教師
「こ、これは? あなた女性だったの。」
青兵衛
「ようやく分かりましたか? あなたが本当にモテるなら、なぜ、ワタシが男装するか分かるでしょう。」
女性教師
「近づいてくる男性が面倒だからね。 負けたわ。」
青兵衛は、女性教師の腹に突きを入れた。 女性教師は気を失った。
青兵衛
「おとなしく、眠っていてください。 もう声を聞きたくありません。」
ルナ
「紅丸、青兵衛、お疲れ様。
それよりも、モンテマニー公爵の言いつけを守らなかったら、ボクが怒られるんだよ。
黄庵、掛け声をお願いできる。」
ルナ こころの声
『ボクの決め場を見せる機会が無くなるところだった。』
黄庵
「はい、ルナさん。
聞け! 【教員資格】を持つ者たちよ!
さらに、上の資格があることを、こころに刻むがいい。」
ルナ
「輝け! モンテマニーの紋章。」
ボクは、赤いプレートを天に掲げた。
熱血教師
「知らぬな、そんなものは?
この博識であるわたしが知らぬのだから、たいそうなものであるはずがない。」
ルナ
「あなたが、これを見るのは、二度目だと思うのだけどな。 ほら、錦野町長といっしょに見たよね。」
熱血教師
「知らぬな、そんなものは?
記憶に残っていないということは、重要ではないのだろう。
者ども、この無礼者どもを追い出せ!」
ルナ
「大事なことだから、もう一度、言うよ。
この【モンテマニーの紋章】を、よーく見てくれませんか?」
熱血教師
「ごっこ遊びは、他所でやれ。
おかしな連中を、叩き出せ!」
黄庵
「相手をしてあげましょう。 ムン。」
月の光を見た黄庵の体格が、ひとまわり大きくなって、たくましくなった。
かかってきた連中は、【教員資格】を持つ者だけではなかった。
おこぼれに預かって得をしようという連中たちが、わらわらと出てきた。
青兵衛
「モンテマニー公爵の読みは当たったな。
確かに呼び出すよりも乗り込んだ方が、一網打尽に出来る。」
紅丸
「感心していないで、戦う準備をしろ。」
ルナ
「さあ、みんな戦うよ。」
刀などの武器を持った相手は、紅丸があっという間に斬り倒した。
素手で向かってくる相手は、黄庵がなぐって、関節を極めて、再起不能にした。
かよわそうに見えるボクに向かってきた相手は、青兵衛がそろばんの角で叩いて、静かにさせた。
熱血教師
「おのれ、バカどもには分からないのか?
わたしの頭脳は、国の宝だぞ。 ひとつの領地が無駄に壊して良いものではないぞ。」
黄庵
「あなたの知識なんて、国の宝どころか、村の宝にさえならないわ。」
熱血教師は、自分の知識をひけらかしたが、黄庵の足元にも及ばなかった。
熱血教師
「筋肉だるまが、付け焼刃の知識をひけらかしおって。
おまえらのことなんか、誰が認めるか?
俺はお前たちよりも、ひとまわり以上も年上だぞ。」
ルナ
「12歳年上だろうが、30歳年上だろうが関係ないよ。
もういいから、だまってくれないか?
あなたは、ひとの幸せを邪魔することしかできないのか?
教育の場には、存在して欲しくないよ。」
ボクは、【怒気当て】を放って、黙らせようとした。
そしたら、熱血教師は気を失った。
ルナ
「自分の間違いを棚に上げて、怒鳴り散らす連中って、この程度だよね。
黄庵、熱血教師を縛ってくれるかな?
紅丸、悪いけれど、担いでね。」
黄庵
「しばりました。」
紅丸
「かつぎました。」
町の警備兵たちが集まってきたので、【モンテマニーの紋章】を見せてあげた。
彼らの顔が青ざめた。
警備兵たちの隊長
「監察官様、ご協力は惜しみません。
ですから、減給しないように、モンテマニー公爵にお口添えお願いします。」
青兵衛
「地獄の沙汰も金次第。 モンテマニー公爵は、お金の正しい使い方を理解されていますね。」
ボクたちは、その場にいた【教員資格】を持つ者と、おこぼれに預かって得をしようという連中を、モンテマニー公爵の待つ屋敷まで連行するように、協力してほしいと要請した。
警備兵たちの隊長
「はっ、直ちに。
ところで、熱血教師様は、どうされますか?」
ルナ
「彼だけは、ボクたちといっしょの馬車で、モンテマニー公爵の屋敷に向かうよ。
一足先に行くから、あとの連中の護送をお願いします。」
警備兵たちの隊長
「かしこまりました。」
青兵衛
「ひとりでも欠けたら、減給になります。
高い給料を自主返納したいときは、全員を逃がしても構いません。」
黄庵
「青兵衛。その発言は不味いわ。」
青兵衛
「そのときは、警備隊も総入れ替えする良い機会になりますね?」
警備兵たちの隊長
「監察官様。 わたしたちは、ひとりも逃がさずに護送することを約束ではなく契約しますので、何卒よろしくお願い申し上げます。」
ルナ
「よろしくね。 警備隊長さん。」
ボクは、安心させるために笑顔でこたえたが、警備隊長の顔は真っ青だった。
なにか深読みしたのかもしれない。
モンテマニー公爵の領地につくまでの間に、熱血教師には少しでも反省して欲しいと思ったが、無理だろうなとボクは思った。
◇
1日後、モンテマニー侯爵が待つ”青兵衛が企画した新しい町”についた。
道中は、”黄庵による体調管理”と”青兵衛が人の道を説いた”おかげで、熱血教師は従順だった。
”極め技”と”精神攻撃”と言うほうが正しいと、ボクは秘かに思った。
モンテマニー侯爵
「おお、待ちかねたぞ。
熱血教師殿。」
彼は、とても良い笑顔をしていた。
いつも無表情で気取っている侯爵様が”笑顔を向けていること”に違和感を感じたのだった。
つづく
【読者様へ】
あなたの30秒で、この作品にパワーをください。
「ブックマーク」(2点)と、広告下(↓)の【見えない場所】にある「☆☆☆☆☆評価」(2~10点)を待っています。




