光る海 (017)茂木サーキット
程なくして帰って来た一樹をスタッフが囲んで『よくやった!!一樹!』と声を掛ける。『断トツのポールタイムだ。多分2秒も差があるから、誰も追いつけないと思うよ。』とヤストモが興奮しながら話した。案の定、この日2番手のホンダの田中のタイムに2秒の差をつけて一樹がポールポジションをゲットした。
2秒もの、差をつけてのポールポジションは未だかつて無いレースとなった。『海原選手。断トツのポールポジションおめでとうございます!』と今ではすっかり、顔なじみとなった、スポーツワイド紙の記者が一樹に近づきながら言って来た。『ありがとう、ございます。』と一樹は満面の笑みで丁寧に答えた。『昨年の最終戦でのレースと言い今年最初のこのレースと言い、ワークスもなにも海原選手には関係ない走りでしたね。』と記者が言った。『いえ、やっぱりワークスは速いです。俺が一瞬でも気を抜いたらズバッ!と刺されてしまいますし、かなりのプレッシャーを受けながら毎回走っています。』と一樹が答えた。『またァ、ご謙遜を~ッ』と笑いながら記者が言った。(何、言ってもわかんねェ~か?)と一樹は心の中で呟いた。『どうですか?RC213Vとの相性は?見ていると、とっても合っているように見えるのですが?』と記者が聞いた。『そうですね、とってもいい、相棒に会えたと思っています。』と一樹がが答えた『「ほう、それはどういった所で、そうお感じになられたのでしょうか?』と記者が聞いた。『自分は余りセッテイングにこだわらない方だと思っています。与えられたままのレーシングバイクに乗るタイプの人間です。多分うちのヘッドを始め、チームのみんなが作ってくれたバイクが素晴らしくて、俺が思った通りに動いてくれる、まさに相棒と言うに相応しい、バイクに仕上がった結果がこの、タイムを叩き出したと思っています。』と一樹が言った。『なるほど、イメージ通りに動いてくれるバイクですかァ・・・』と記者が言った。『はい、スゴイ、バイクです。今までで初めてですよ。思った通りに走ってくれるバイク。』と興奮しながら一樹が言った。『海原選手、ただでも速いのにイメージ通り走れるバイクを手に入れたらメチャクチャ速そうですねェ。実際2番手のヤマハの千葉選手に2秒もの差をつけていますもんね。』と記者が言った。続けて『所で、走りに関してお伺いします。海原選手の走りがとっても怖い。と多くのファンの方々から寄せられていますが、これに対してはいかがでしょうか?』と聞いた。『確かに、自分でも驚く程のバンク角を取っています。でも、これは以前からこういう走りをして来たので必然的にああいう、走りになってしまっていますけど、自分では怖いとか、まずいな。と思っていないんです。想定内とでも言いますか・・・ですから、安心して見ていて下さい。』と一樹が答えた。『依然と仰いましたが、一体いつごろから、あのような走りを取り入れたのでしょうか?』と興味深い面持ちで記者が一樹に聞いてきた。『自分は、高校生になった時、両親から通学の為バイクを買ってもらったのですが、毎日通る通学路で、速く走りたい思いであのような、走りとなっていった様に思います。毎日、片道12キロの通学路を往復していましたから、夏は砂埃、秋から冬は落ち葉によって道路が滑る中での走行でした。幸い真冬でも余り雪が降らない地域なので思いっきり走っていました。岩手の沿岸って余り雪が降らないのですが、それでも多少は降ったり、路面の凍結があったりしますけど、でもそんな中でも毎日走っていましたから。少々の滑りには慣れています。で、あの様な走りが出来て行ったのだろうと思っています。』と一樹が答えた。『なるほど、納得しました。でも、あの肩やヒジ、膝を付いたりする走り方を、どの様にして習得されたのですか』と記者が聞いた。『あの走り方は丁度今頃の時期だったと思いますが、国道4号線を真夜中バイクで走っていたんですが、左カーブでしたけど大型車がスリップかなんか知らないけれど片側1車線の道路で両サイドの道路を防ぐ状態で横転していたんです。そこに突っ込んで行ったんですがブレーキが間に合わず自分でバイクを倒し込んで何とかその場をくぐり抜けた事があって、それ以来ですかね?自分の身を守るためにも、安全の為にも密かに毎日の様に練習した結果のコーナリングですかね?』と一樹が答えた。『なるほど、事故を避けてですか?言うなれば禍を転じて福と為す。ですかね?いやァ、貴重な体験談を、お忙しい中、有難うございました。ぜひ、決勝の方も頑張って下さい。』と言いながら(しかし、一体コイツはどこまで伸びるんだ。?)と一樹に見送られながら記者は思った。