第7話 一泊の恩義
エットの家で一晩過ごした二階堂とノアは、彼に頭を下げ礼を言う。
「ありがとうなエット、随分世話になっちまった」
「この恩は絶対忘れないわ、またいずれお礼させてね、エット君」
「う、うん…気をつけてね、二人とも」
玄関の戸に手をかけ、外へ出ようとする二人を見て、エットは迷ったような顔を浮かべる。
「あ、あの、二階堂くん、ノアちゃ…」
エットが何かを言いかけたその時、
外から村人の声が、彼の言葉をかき消すように響いてきた。
「大変だ!!ゴロツキ達が村に押しかけてきたぞ!!」
村人の声に反応したノアの顔が、青ざめたものに変わる。
「まさか、私を追ってきた野盗達!?」
自分のせいで村を危険に晒したと危惧する彼女に、エットはこう返した。
「あの人達は最近この村にみかじめを要求してくる盗賊達だよ、
いつも戦える者がいない時を狙って村へ押しかけてきてて…」
「な、なんだと?随分セコイ手を使う野郎共だな」
「でも大丈夫、今回は僕がいるから。二人は家に隠れてて」
エットは壁にかかった弓を手に取り、盗賊達の元へ向かおうとする。
そんな彼の肩をポンと叩き、二階堂とノアは腕を鳴らした。
「何言ってんだ、早速家に泊めてくれた恩を返すチャンスだってのに、隠れてなんかいられねえよ」
「ええそうね。私のせいでまた迷惑かけたのかと思ったけど、違うなら違うで力を貸してあげるわ」
「えぇ!?で、でも危険だよ!?やめといた方が…」
「任せておきなさいエット君、私は恩義に報いる女よ?」
二人はエットの家から外へ出ると、村の門をくぐり盗賊達と対峙する。
「よう、お前らここへみかじめせびりに来てるんだってな?
悪いことは言わねえ、今すぐこの村から手を引け」
「なんだぁ?急に出てきたと思ったら誰だテメェ、俺たちは村長さんと友好的な話をしに来ただけだ。
住民だが訪問者だか知らねえが、外野は引っ込んでろや」
「フッ、何が友好的な話よ。アンタらになんの権利があって、みかじめなんか徴収してるの?
アンタらがやってることはただの略奪行為よ」
「あぁ?アマが黙ってろよ、俺らはテメエらみたいな小物と話しに来たわけじゃねえんだ。
村長出さねえなら力ずくで通るぜ?」
盗賊達がゾロゾロと村の門へ近づいてくる。
二階堂とノアは戦闘態勢に入り、盗賊達を迎え撃とうとした。
「おいノア、お前も村の中に入っていろ。ここは俺がなんとかする」
「アンタこそ隠れてなさい、お腹の傷まだ完全に治ってないでしょ?」
「もう傷は大丈夫だ。それにお前戦えねえじゃねえか!危険なだけだ!」
「た、戦えるわよ!魔法も武闘の心得も何もないけど」
「お前マジなんで意気揚々と出てこれたんだよ!?」
二人が言葉を飛ばしあっていると、盗賊達が近くまで迫ってきた。
すかさず構えをとった二人が、盗賊達を睨みつけた刹那、門の上から一本の矢が、野盗達の足元へ放たれる。
「!?こ、これは!?」
「今のは外したんじゃないよ、盗賊のおじさん達。最終警告さ、これ以上近づいてきたら脳天に当てるよ」
盗賊達が見上げた視線の先には、弓を構えたエットの姿があった。
「な、なんだ!?あのガキは!?前ここを襲った時はいなかったぞ!?」
「それは僕が狩りに出てたからさ、今日こそ現場を押さえたぞ。
今まで村から奪ってきたもの、全て返してもらおうか」
「が、ガキ一人増えたところでなんだってんだ!やっちまえ!!」
盗賊達が一斉に門へと詰め寄ってきた。
次の瞬間、鈍い打撃音が辺りに響き、盗賊の一人が地面へと倒される。
「おい、俺らがいることも忘れるなよ」
「ナイスだよ二階堂くん!」
「て、テメエらァ!!」
振りかぶった盗賊の腕を、二階堂が掴み取る。
「手を引けと忠告したはずだし、エットも威嚇射撃で警告した。
これ以上はマジでやるしかなくなるぜ」
「けっ!やれるもんならやってみな!
こっちには数がいるんだ!お前ら三人に何ができる!」
すると二階堂はため息をつき、掴んだ盗賊の腕を能力で干からびさせた。
正体不明の現象を目の当たりにし、盗賊達は驚愕する。
「な、なんだぁ!?コイツの力は!?」
「う…腕がああ!!俺の腕がああ!!!」
怯む盗賊達の隙をついて、二階堂は彼らの首を両手で掴む。
「がっ!や、やめ…!」
「散々情けはかけてやったろ、今さらやめてはナシだぜ」
二階堂の足元に、二人の盗賊が崩れ落ちた。
そんな彼に対し、盗賊が棍棒を振り下ろす。
「オラァ!くたばれっ!!」
次の瞬間、攻撃を仕掛けた盗賊の肩に、一本の矢が突き刺さった。
「エット!援護射撃助かるぜ!」
「フフッ、君も中々変わった力を使うんだね。頼もしいや」
「ほんっとアンタも秘密が多いわよね二階堂!いつか全部話してもらうんだから!」
ノアが二階堂を睨みつけると、彼女の元へ盗賊が接近してくる。
すかさずノアは盗賊の落とした棍棒を拾い上げ、思い切り敵へ薙ぎ払う。
「くんじゃないわよ!このっ!」
棍棒の一撃が脇腹に入り、盗賊は地面に吹き飛ばされた。
すると立て続けにノアの元へ、盗賊達数人が駆け寄ってくる。
二階堂はノアに肉薄する盗賊を掴み、能力を叩き込んで無力化した。
しかし残りの数人がそのまま、ノアへ武器を振り下ろす。
「くっ!ノア!!」
ノアが窮地に立たされると、門の上からキリキリと音を立てて、エットが弓を引き絞る。
「風は若干吹いてくれてるね、風向きは…関係ないか」
エットは盗賊に向かって、引き絞った弓の弦を離す。
男達が振り上げた手首を狙い、勢いよく飛んでいく鉄の矢、
しかしこのままでは一人しか仕留めることはできない。
そこでエットは、小さく口ずさんで“魔法”を発動させる。
「…ウィンドコントロール、風の行先を捻じ曲げよ」
するとその場に突風が吹き、矢の軌道を捻じ曲げる。
矢の刃先は盗賊数人の手首を掠めるように斬りつけ、負傷した男達は武器を手放し倒れ込んだ。
「ぐああああ!!く、クソォ!!痛ぇええ!!」
「!?え、エット君!あなた魔法が使えるの!?」
「うん、軽い風魔法だけどね。目の見えない生活で風は頼りになるんだ」
「中々やるなぁエット、ただの狩人じゃないってわけか」
二階堂はエットを評価しながらも、奥で立ち尽くす盗賊のリーダーを睨みつける。
「ち、畜生!!チンケな村かと思ったのに、なんでこんな奴らがいるんだよ!!」
「少なくともお前ら盗賊なんかには、ここは手に余るってことだ」
二階堂はゆっくりと盗賊へ近づき、声色を変えて話しかける。
「なあ、これまで村から取ってきた金や略奪品を返して、もう二度と顔を見せないってんなら、
お前らの命は助けてやってもいい。もし言うことを聞けないというのなら…」
二階堂は盗賊の眼前に立つと、眼光を鋭くし威圧する。
「ここで始末するしかないな」
二階堂の殺気に屈した盗賊のリーダーは、震えた声を喉から捻り出す。
「わ、分かった、みかじめも奪ったモンも全て返す!もう来ないって約束する!!
だから命だけは助けてくれ!!頼む!!」
「分かりゃいいんだ、分かりゃ」
盗賊のリーダーは部下に、略奪品を取ってくるよう命令すると、
部下は大きな袋を担いで駆けつけ、袋の中から金や貴重品を地面にばら撒いた。
そして倒れた仲間たちを連れ、盗賊達は急いでこの場から去っていく。
戦いに勝利した三人は、音を立てて腕を組んだ。
「やったわね!悪党を成敗してやったわ!」
「助かったよ二人とも!僕一人じゃ流石に手に余ったかも…」
「冗談キツイな、俺らの手がなくてもなんとかなったろ?風の魔法に凄腕の弓術、恐れ入ったぜ」
「エット君に恩を返そうとしたのに、戦いで助けてもらっちゃって、本当にありがとね?」
「ノア、お前戦えないなら前に出ようとするなよ、死ぬかもしれないんだぞ!?」
「何よ!!私だって頑張ったんだから!それにアンタも危なかったじゃない!!」
言い合いになる二階堂とノアを見て、エットは思い切った様子で口を開く。
「あ、あのね!二人とも!実は僕、君たちにお願いがあるんだけど…」
睨み合う二階堂とノアは、縮こまるエットに視線を向ける。
「どうしたの?エット君?」
「実はね、その…僕も仲間に入れてくれないかな!?」
なんとエットの口から出た言葉は、同行を示唆する提案であった。




