第4話 異能vs魔法②
ボロボロになった馬車の中で、ノアは一人考え込む。
(本当に私は逃げていいのだろうか?私に協力してくれたセバスは、無惨に野盗に殺された。
互いに手を取り合った二階堂も、私を逃すために命を賭けてくれている。
ここで私は二人の命を犠牲に、逃げ延びていいものだろうか?…そんなの、答えは決まってるわ)
ノアは手綱を握りしめたかと思うと、勢いよく馬を走らせた。
「待ってなさいよ二階堂!借りた恩は絶対返すんだから!」
一方二階堂は、ローブの男に窮地へ追いやられていた。
「く、くそ…!」
「勝負あったな。お前は中々興味深い力を持っているが、少し常識が足らなかったようだ。
あの世で勉強してくるといい」
男のかざした手が、魔法の青い光で輝き始める。膝をついた二階堂にトドメが刺されようとする中、彼は朦朧としながらも闘志を燃やした。
(の、ノアの奴もう逃げただろうか?彼女がこの場から避難するまで、
何としてもコイツらを食い止めなければ…!キツイ勝負だがまだ食らいつく余地はある。
可能性は最後まで捨てやしねえ!!)
二階堂は目に光を宿らせると、こちらに手をかざした男の手首を力強く掴んだ。
瀕死の相手に虚をつかれ、ローブの男は焦りを露わにする。
「な!?こ、こいつ!!」
「トドメの魔法を撃つために、俺の目の前へ手を伸ばしてくれたのは幸運だった。
おかげでしっかり掴んでやることが出来たぜ」
すると二階堂に対し、ローブの男は魔法で攻撃しようとする。
「しつこい野郎だ!!今すぐあの世へ送ってやる!!喰らえ!!マジックアロー!!」
しかし男の手から魔法が発射されることはない、
彼の手には既に、二階堂の能力が叩き込まれていたからだ。
「確かに俺はこの世界のことを何も知らない。だがそんな俺でも、
ミイラの手から魔法が放てるとは思えないんだよな」
「っ!!わ、私の手が!?」
ローブの男の片手は能力によって、ミイラのような見た目に変化していた。
「これでお前は手から魔法を放てない!!今ならお前の頭に、拳を叩き込んでやれるぜ!!」
「ば、バカめ!!まだ逆の手が残っている!!」
男が能力を受けていないもう片方の手を、二階堂に向けてかざす。
しかしその手は既に封じられている。
先程二階堂が投げたナイフが串刺しになり、血を流して負傷した時点で。
杖も両手も使えなくなったローブの男は、この時点で魔法を撃つことができなくなっていたのだ。
「う、打つ手がない…!」
無防備を晒す男の顔面に、今度こそ二階堂は拳を叩き込んだ。
男の顔面が急激に老化し始め、全体を皺が埋め尽くす。
地面へと吹き飛ばされたローブの男は、腰を打ち付けながら二階堂に睨まれた。
「さあ、形成逆転といったところか。早いところ部下達を引かせてくれれば、お前の命は助けてやる」
二階堂が見下ろしながら男にそう言い放つと、男は不敵な笑みを浮かべ、大きな声で部下に命令した。
「おい野郎共!!コイツに魔法をぶち込んでやれ!!やるなら今しかないぞ!!」
「な、何!?」
この場へ集中砲火を命令する男に対し、周りの野盗達は困惑した表情を浮かべた。
「だ、だが兄貴!!そこへ魔法を打ち込んだら、兄貴も巻き込まれるんじゃ…?」
「構わん!!俺ごと集中砲火しろ!!躊躇うんじゃない!!」
自分ごと相手を屠ろうとするローブの男は、二階堂に対し高笑いをしてみせた。
「フハハハハ!!貴様はもう終わりだ!四方からマジックアローを食らって、生き延びれるわけがねえ!」
「お、お前…!」
周囲の野盗が杖を掲げ、魔法を射出する態勢に入る。
二階堂達の場所へマジックアローの雨霰が、飛んでこようとしたその時だった。
馬車の方から大きな足音が、こちらに向かって近づいてくる。
「おりゃああああ!!!!吸血鬼の乗馬テクニック、しかと目に焼きつけなさいよ!!!」
野盗を馬で次々と蹴散らしていくのは、二階堂が逃したはずのノアであった。
「の、ノア!?逃げろと言ったはずだろ!?」
「あの状況で正直に逃げるほど、私は素直じゃないわよ!
アンタに助けてもらった恩は、ここで返させてもらうわ!!」
ノアは馬を軽快に操り、周囲の野盗をバタバタと薙ぎ倒していく。
二階堂へと向けられていた野盗の敵視が一変、彼女の撹乱によりバラバラに乱れた。
「今よ二階堂!!親玉にトドメを刺して!!」
「!!わ、分かった!!」
二階堂は力強く地面を踏み込み、ローブの男に向かって拳を振り上げた。
「これで終わりだ!!!!」
二階堂の拳が男の腹部を捉え、能力を発動しながら深々と突き刺さる。
男の全身がシワシワとやせ細り、闘志と魔力がみるみる内に消えていく。
「く…くそ…あと…もう少しで…」
二階堂の足元で、男の意識が暗闇へと引き摺り込まれる。
自身らの親玉が気絶したことにより、周囲の野盗は混乱を極めた。
「そ、そんな!!兄貴がやられちまった!!」
「畜生!!こうなったら魔法をありったけコイツらに打ち込んでやれ!!」
野盗達は杖を二階堂とノアに向け、魔法を一気に放出しようとする。
「っ!!ノア!!」
二階堂がノアを案じる中、彼女は冷静に状況を読み取った。
「安心して二階堂、もうコイツらに魔法は撃てないわ、よく考えたらおかしな話だったのよ。
なんでただの野盗が高火力のマジックアローなんて使えてるのか。それは親玉の男が魔力を供給していたからよ。その親玉が意識を失った今、もうコイツらに魔法を撃つ術は残っていない」
ノアが狙った通り、野盗達がいくら杖に力を込めても、一向に魔法が打ち出される様子はない。
抗う術をなくし右往左往する野盗達の前に、二階堂と馬に乗ったノアが、堂々と立ち塞がる。
「どうするの?私達はまだまだやってもいいけど?」
「お前らの戦力的に、逃げた方が賢明じゃないか?」
威圧感を漂わせる二人に対し、野盗達は次々と森の中へ逃げていく。
二階堂は苦戦を強いられながらも、なんとか戦いに勝利したのだった。




