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第1話 異能力者、異世界に降り立つ

雲一つない晴天の下、生い茂る森林の中で、一人の男が目を覚ます。

意識が戻った男は、ゆっくり瞼を開いたかと思うと、すぐさま飛び起きて周囲を警戒し始めた。


「っ!!ここは!?」


男は辺り一面を見渡し、思わず困惑に身を包む。

意識を失う前まで見ていた風景とは、全く異なる緑豊かな森林が辺りを囲っている。

まるで別の場所へと転移されてきたかのような状況に、男はハッと思い出す。


「そ、そうか…俺は“奴の能力“によって…!」


男は自身がどういう経緯でここにいるのかを把握し、そして現状に苛立ちを覚えた。


彼の名前は、二階堂達(にかいどう すすむ)

敵の能力により別の世界から飛ばされてきた転生者で、彼も”異能力“と呼ばれる力を持っている。


そんな二階堂が異世界へと飛ばされた場所は、昼下がりの森の中であった。


「くそっ!あの野郎!俺をこんな場所へぶっ飛ばしやがって!この借りは必ず返してやる…!」


彼が歯を食いしばり、怒りの感情を露わにしていると、草むらの向こうから大きな怒号が響いた。


「おい!テメエ待ちやがれ!!このガキ!!」


「ちっ!逃げ足の早え!止まれってんだよ!オラァ!!」


二階堂が草むらの向こうを覗いてみると、野盗のような格好をした男数人が、

武器を持って金髪の少女を追いかけていた。

すかさず野盗の一人がボウガンを構え、少女に向かって矢を放つ。

一直線に放たれた矢は、少女の足に突き刺さり、彼女を芝の上に転倒させた。


「うぐっ!!く…くぅ…!」


「ギャハハ!!ようやく止まったぜ!!このガキャア!!手間取らせやがって!!」


倒れ込んだ少女に向かって、野盗たちが近づいていく。

一方様子を見ていた二階堂は、冷や汗を垂らしつつ思考を巡らせていた。


(マズイな…このままじゃあの嬢ちゃんやられちまうぞ!だ、だが俺はアイツらの事情を何も知らねえ部外者、それにこの世界の新参者だ、気安く介入していいんだろうか?)


二階堂が葛藤している間に、ナイフを持った野盗が少女の首を掴み、刃先を眼前に突き立てた。


「テメエを生かしておくわけにはいかねえ、依頼人からの命令なんでな」


「な、何が依頼人よカッコつけちゃって!結局アンタ達、ただ金で雇われたゴロツキじゃない!」


「あ?いい気になってんじゃねえぞクソガキが、今すぐ殺してやるから覚悟しな」


野盗はナイフを振り上げ、首を掴んだ少女の頭目掛けて突き刺そうとした。

介入するべきか悩んでいた二階堂も、この光景を見て焦りを露わにする。


(っ!!マ、マジで殺る気か!?クソッ!野郎!!)


殺気を漂わせながらナイフを握りしめる野盗が、少女に向かって言葉を送る。


「あばよクソガキ、テメエの首代はもらってやるぜ」


野盗が台詞を吐き捨てると、彼女に向かってナイフの凶刃が襲い掛かる。

次の瞬間、辺り一帯に喝を入れるが如く、“彼”の声が響き渡った。


「おいお前ら!!そこまでにしておけ!!」


その場にいる全員が声の方向に視線を向けた。

そして視線の先には、二階堂が腕を組んで佇んでいる。

予想外の介入者に対し、野党の一人が彼へ威嚇の言葉を飛ばす。


「あぁ?なんだテメェは!?部外者はスッ込んでろ!!」


「そうとも、俺はお前らの事情を何も知らねえ部外者だ。

 だが目の前で殺人が起ころうとしてんのに、指咥えて見てるだけってのも我慢ならなくてな」


「はぁ?ヒーロー気取ってんじゃねえ!テメエの主義なんざ知ったことかよ!!」


「へっ、ヒーロー気取りに見えるか?だがまあそういう理念で戦ってるのは事実だ。

 だからお前らの命を奪う気はさらさらない、そこは約束するぜ」


「はぁ?舐めてんじゃねえぞ!!そんなことしなくても余裕ってか?

 ふざけんじゃ__


「ただし」


野盗の怒号に対し、二階堂はかき消すように言葉を重ねる。


「少女の足を打ち抜き、あまつさえ殺そうとしたお前らには、少しだけ痛い目に遭ってもらう」


彼は冷たい声で言い放つと、鋭い目つきで野盗達を睨みつけた。

二階堂の気迫に押されつつも、野盗は武器を構えて挑発する。


「じょ、上等じゃねえか!!武器も持たねえで俺達に挑むのが、どれほど無謀か教えてやるぜ!」


野盗達が戦闘態勢に入ると、二階堂は倒れた少女を背にし、戦況の把握に注力した。


(敵の数は三人、右から順にボウガン、ナイフ、手斧を構えてやがる。

原始的な武器ばかりだが、脅威であることに変わりはない。それに対し俺は…)


二階堂は自身の手に視線を移すと、ゆっくり手のひらを広げ、ジリジリと野盗達に詰め寄った。

彼の手には得物らしいものは握られていない、しかし武器がないわけではない。

前述の通り、二階堂には”とある異能力“が備わっていて、

彼もまたこの状況を、能力を使って打破しようと考えていた。


二階堂がゆっくりと間合いを詰める中、野党の一人がボウガンを構え、彼に向かって標準を合わせる。


「へっ!ノロマな野郎だ!!脳天ぶち抜いてやるよ!!」


次の瞬間、二階堂はボウガンを持つ野党に向かって、勢いよく距離を縮めた。


「っ!?なっ!?」


急に肉薄してきた二階堂に、野盗が怯んだのも束の間、

ボウガンを握る腕をガシリと掴んだ二階堂は、暗い表情を浮かべ野盗にこう言った。


「少しの間だけ大人しくしてろ」


「はぁ?何言ってやがる!!このままボウガンの引き金を引いたら、テメエの心臓に風穴が開__


野盗が口を開いたその時、二階堂が掴んでいた野盗の腕に、突如異変が起こった。

“掴んでいた腕の皮膚が急激に干からび、まるでミイラのように痩せ細ってしまった”のである。

自身の腕が見るに耐えないものと化してしまい、野盗は顔色を真っ青にして悲鳴を上げた。


「う、うああああ!?腕があああ!!!」


シワシワに干からびた野盗の腕は、ボウガンを掴むことなどできず、

本人の意思に反し、武器を地面に手放した。


そう、この現象こそ二階堂の“能力”である。


敵一人を無力化した彼は、ナイフを持った野盗に大きな声で尋ねられた。


「テメエ!仲間に何しやがった!!毒でも盛ったってのか!?ああ!?」


「毒じゃねえよ、これは俺の能力だ」


「な、何わけ分かんねえこと言ってんだ!!ゴラァ!!」


逆上した野盗がナイフを突き立て、二階堂に向かって走り込む。

迫り来る刃に対し、二階堂は躊躇なく素手で掴んで止めた。


「は、ハハハハ!!バカかお前!?そんなんで攻撃を防げたつもりかよ?

 このまま俺がナイフを思いっきり引き抜けば、お前の指を全部切り落としてやれるぜ?」


「やってみろよ、もっとも切り落とす刃があればだがな」


二階堂がナイフから手を離すと、まるで手品のような現象が起こっていた。

彼の握っていたナイフの刃が、ボロボロに錆びつき、今にも砕けそうなくらいに朽ちていたのだ。

そんな状態になった自身の得物を見て、野盗は唖然とする他なかった。


「な、なんで!?なんでこんなことが…」


野盗が呆然と立ち尽くしている隙に、二階堂は彼の顔面に打撃を叩き込み、野盗の意識を寸断させる。


「よし、残りはあと一人だ」


自身の能力によって、淡々と野盗を追い詰めていく二階堂。

あまりの手際の良さに、最後に残った野盗の顔色が、真っ青に変色し始める。


「な、なんだよ…!なんだよその力はよぉ!?」


「お前に話してどうなるわけでもないだろ、早いとこ眠りについてもらうぜ」


「ふ、ふざけんな!!このクソがぁ!!!」


野盗が思い切り手斧を二階堂に薙ぎ払い、勢いよく体を真っ二つにしようと試みる。

しかし攻撃は彼には届かず、ギリギリのところで二階堂は手斧の柄肩を掴み取り、

再び”能力“を発動させた。


次の瞬間、手斧の持ち手の木が朽ち果て、バラバラと木片を撒き散らしながら、

刃と共に地面へ落下していった。刃の無い木の棒を握りしめた野盗は、

自身から武器が奪われたことを悟り、現在置かれている状況に絶望するしかなかった。


「こ、こいつ…何者だ…!こんな魔法、今まで見たこともねえ…!」


「なに現実逃避してんだ、魔法なんかあるわけねえだろ」


すると二階堂は野盗の腕を握り、冷たい視線を彼に送りつけた。


「っ!!や、やめろ!!その力を俺に使うんじゃねえ!!」


「ダメだ。言ったろ?少し痛い目に遭ってもらうって」


腕を握られた野盗の声が、恐怖で震えて捻り出される。


「や、やめてくれ…!頼む…!い、命だけは…!命だけは!!!」


二階堂の指先に、強く力が入る。

握られた腕の色が、だんだん色褪せたものに変化していく。


「う、うぁ…うあああああああああ!!!!!!!」


恐怖に飲み込まれた男の叫び声が、辺り一帯に響き渡った。



“二階堂の能力は【触れたものの時間を進ませる】異能力”

 木を朽ち尽くし、鉄を錆びさせ、人体を老化させる。



この異世界に今、とんでもない不純物が紛れ込もうとしていた。


全ての敵を無力化した二階堂は、すぐさま倒れている少女の元に駆け寄った。

足をボウガンの矢で突き刺された彼女は、血でその場を赤く染め上げている。

顔色が優れない少女の顔を見つめ、二階堂は大きな声で安否を確認した。


「おい!しっかりしろ!!意識はあるか!?」


「え、えぇ…大丈夫、ただちょっと…痛いだけだから」


少女の意識があることを把握した二階堂は、

足に突き刺さった矢に視線を向けると、彼女に問いかけた。


「矢がぶっ刺さってるのに、よく痛いだけで済むな…ちょっと待ってろ、今治してやるから」


「な、治すって…アンタ医者なの?」


「医者じゃないが、俺には少し変わった力があってね、それを使ってお前の怪我を治してやる。

 もっとも矢は引き抜かなくちゃいけないけどな、我慢してくれよ」


「う、うん、分かったわ…」


二階堂は矢を丁寧に引き抜くと、傷口に手を当て能力を使用した。


”触れたものの時間を進ませる異能力”だが、その効果は極めて汎用性が高く、

使い方によっては、”体の機能を時間進行で成長させる“ことも可能であり、

自己再生機能を一気に成長させてやれば、傷の治療を短時間で完了させることも出来るのだ。


みるみるうちに傷口が塞がっていく少女。治癒されていく自身の足を見て、彼女は喜びの感情を覚えるも、

二階堂の顔は、どこか怪訝な表情をしていた。


「す、凄い!!どんどん傷が治ってくわ!!アンタやるわね!!」


「…早すぎるな」


「え?」


「自己再生のスピードがあまりにも早すぎる、普通負傷した人間にこの能力を施しても、

 最低数分は時間を使うんだ。だがお前の場合…」


二階堂が口を閉じる前に、少女の足の怪我は完全に治った。

その間約十数秒、高速とも言える治療速度の早さに、二階堂は疑問を募らせる。


「なあ嬢ちゃん、お前矢で足を射抜かれたにしては、随分反応が薄かったよな?

 あんまり痛がってる様子もなかったしよ、加えてこの異常な自己再生能力。

 怪我人に質問攻めをするようで悪いが、一体何者なんだ?」


眉間に皺を寄せて少女を見つめる二階堂、

しばらく黙り込んだ少女から放たれた言葉は、予想をはるかに上回るものだった。


「ふぅん…凄い力を持ってるだけじゃなくて、意外と鋭い勘も備えているのね。感心しちゃった。

 そう、アンタが思った通り、私はただの人間じゃない」


「まさか、お前も能力者か?」


「いや?その能力者っていうのはよく分からないけど、ビックリすると思うよ?なんせ私は…」


少女は立ち上がり、両手を広げて口角を上げる。


次の瞬間、背中から黒い翼がバサリと姿を現し、腰からは黒い尻尾が生え、

ニヤリと笑う口の中には、尖った小さな牙がこちらへ顔を覗かせていた。


突如人間の姿から“何か”に変異した少女に対し、二階堂は目を丸くして驚いた。


「な!?こ、これは?」


「ふふん!実は私、吸血鬼なの!!どう?びっくりしたでしょ!?」


明るく笑顔を見せる少女とは裏腹に、

二階堂は脳内で、常識や固定観念が大きくひっくり返っていた。


(…俺は今まで、異世界といっても流石に常識や認識は、ある程度同じだと思っていた。

重力は地面に引っ張られるし、太陽は東から登って西へ沈む。


種族も人間しか存在しない物だと決めつけていた、魔法も存在しないものだと思い込んでいた。

異世界というよりは、別世界に来たと勘違いしていたんだ。だからある程度常識が通用すると思ってた。

違うんだ、マジでファンタジーなんだ。マジで俺は“異世界に転生”しちまったんだ…!)


元の世界から飛ばされてきて早一時間、二階堂達は改めて、

自分が異世界転生したということを、実感するのだった。

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